日本に三波春夫あり / 長編歌謡浪曲の凄み

Title : ピザ欲しい現場

 

 

ロックファンならずとも、ひとたび聴いたなら余りの凄さに脱帽せざるを得ないロックオペラとも言うべきQUEENの名曲、

『ボヘミアン・ラプソディー』

神と悪魔のどちらの立ち位置に在るべきかで揺れ動く青年のエピソードを綴ったこの歌は、QUEENの地位を不動のものとし、そのずば抜けた才能を世界中に広く知らしめた。本国イギリスよりずっと早くQUEENを高く評価してのけた当時の日本人リスナー達は偉い!。

三波春夫の作詞作曲による『俵星玄蕃』(たわらぼしげんば) を始めて聴いた時にはブッ飛んだ。ボヘミアン・ラプソディーに勝るとも劣らないその壮絶さ。仇討ちか否か。やはり上(かみ)と悪魔のはざまで揺れ動く関係各位。

毎年大晦日恒例の忠臣蔵に併せて取り上げられることも多いので、聞き覚えのある諸兄も少なくないと思われるが、いかんせん9分弱と長い。よってTVでその一部始終を見聞視聴する機会は滅多にない。

この曲は全てを聴かなければ全く意味がない。聴き終えたならその意味がよぉ~くご理解いただけると確信する。浪曲など全く関心のないボクではあるが、これは楽曲のジャンルさえフッ飛ばしてしまっているほど凄い。日本人のDNAが騒ぎ、血沸き肉躍る。

 

ライバルである村田英雄の『王将』を聴いて発奮、三波春夫はこれを一気に書き上げたと言う。

お見事ッ!。ニッポンいちッ!。

札付き園児 / 幼児教育のススメ

生まれながらの自然界生物コレクター、それがボクの正体だった。幼稚園児の段階でソレは既に強く打ち出され、周囲の大人達は度々戦慄のルツボに叩き込まれる。ボクは赤札付きの園児。見切り品であり要注意児童。ボクを知る全ての大人はもとより同世代の者らまで、ことごとくボクの背中に赤札ピシリと張り付ける。

ボクはそれに気付かない。注意と関心の全てはソコにない。ソコ、とは日常が営まれる生活環境を指す。ボクのソレは皆と違う。自身の生息地は山中。或いは池、川、沼。山であればボクの姿はカブトムシ、池や沼ならフナかザリガニ。いつも泥にまみれた不潔な子。ズックの片方失くしたばかりか、裸足の足裏は沼底ガラス瓶のカケラで切れて血だらけ。この小僧に比べれば、足柄山の金太郎など洗練されたトレンディー・ベイブ。

幼稚園バス降りようとも園の門くぐらず。ムシケラは目の前の山道から緑の森へと消失する。ボクはウズラの親子が横切るのを見、飛び出した野ウサギが前足で両耳を撫でつける姿に小首をかしげる。そんな驚愕した興奮を誰かに話したくてたまらないものの、ケダモノに近いボクに言葉という名のアプリなし。ポケットの中にもズタ袋の中にも。カラッポだけがあった。いつも。常に。

大きな沼のほとりで数人のオジサン達が賑やかに立ち話をしている。傍らのドラム缶からは湯気が立ち上っている。彼らはカップ酒を飲みながら何かを旨そうに食べている。ボオーンヤリ眺めていると、気づいたオジサンの1人が笑いながら手招き。「オッ、坊主!コッチ来て食べるかい?」

大きな葉っぱに白い食べ物がテンコ盛り。真横に真っ赤なアメリカザリガニのおびただしい殻残骸。アアアアア、アメリカザリガニを剥いて食べているのか!!。アメリカザリガニは食べ物なのか!!。いつもボクが死に物狂いで追い回しているソレが、食べられるものだというのであろーか!!。ボクはジリジリと後ずさり、小石に足を取られながらも転ぶことなく走り去る。

これで何度目なのかと憤慨やるかたない近所の大人達。両親はペコペコとコメツキバッタの如く頭を下げ、共に懐中電灯携えて、神隠しにあったやもしれぬボクを探しに山に入る。これまでの経験で彼らはボクの生息地の幾つかを特定していた。ボクは大抵、山中入口付近に在る神社裏の樹間で捕獲され、自宅という名の独房に監禁される。ボクの命を守った大人達の存在は偉大極まりない。札付き児童にもそれは分かる。

でも、決してボクの話を聞こうとしない大人達に対し、ボクは不機嫌な犬の様な唸り声を上げる。今日ボクが目にした、孵化(ふか)したてのセミが幹から落ちアリの群れに襲われる光景、それを話したかった。ボクは緑色に光る白色のセミの体から必死でアリを払い落し、彼だか彼女だかを幹に留まらせようと試みるが、何度やってもそれはアリ待ち受ける大地へ転がり落ちてしまう。アリの猛攻に力尽きてしまったのだろう。ボクは半ベソかきながら、根っこから40センチほど上の幹穴にセミを隠し、その場にうずくまる。ボクは教えて欲しかった。

ボクはどうしたら良かったの?。

 

◆写真タイトル / 声

 

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園児の添い寝 / 夢見る季節

夏の遅い夕暮れ。空は薄墨色。石鹸のいい匂いをさせて浴衣にズックの幼稚園児が外に転がり出る。白地に青朝顔柄の浴衣が緑の竹林と重なった時、顔見知りのオバサンが「まあ、素敵な浴衣来てるわねー」。お喋り相手のオバサンも「綺麗よー」。

小学2年生のお兄ちゃん達が数人、空めがけて自分のクツをしきりに投げつけてる。落下したクツを速攻で覗き込んでは「チェッ!ダメだァッ!」。再び空めがけてクツをポーン。それを追ったたボクの目が奇妙な動きで飛び回っている生命体をとらえた。1、2、3、4……5……。小さなソレらを数えるボク。

「アッ!、入ってる入ってる!!」。1人の歓声に皆がワッっと集結、円陣組んで覗き込む。ボクもお兄ちゃん達の隙間から、何だ何だと一生懸命覗き込む。

お兄ちゃんに両足掴まれた生き物、両翼をパスパス振って飛翔に必死。ボクが生まれて初めて見たコウモリだった。小2の子供の手の平大。お兄ちゃんはパッとソレを空に解き放つ。瞬間、空が紫色に膨らみ電信柱の笠電球が切なげに灯る。同時に人影が失せた。ボクだけが、自分のズックの両方を何度も何度も空に向かって投げ続けている。かろうじて僅かな明度を保って広がる画用紙空。コウモリ達の交差するシルエットがおぼろげに確認出来る。「日没デス」と夕闇が園児に告げようと歩み寄った時、夕闇は見た。その子のズックの中でパサパサ暴れるコウモリの姿を。

母の目を盗み台所からジャムの空瓶をかすめ取ったボクは、階段を上がりながら素早くコウモリを瓶に押し込みフタをした。自室の押入れを開け、奥の闇へソレを隠す。何食わぬ顔で夕食に参加。今、自分の部屋にアレが居ると思う度、味噌汁持つ手が興奮で震える。いてもたってもいられなくなり「ごちそうさま」と合掌、退座しようとする園児に、ダメだと父。ニンジンを全部食べるまでダメだ。

やっと解放され秘密との再会。瓶の中でコウモリはうつ伏せ。「もう寝てる」。嬉しさのあまり瓶を抱きしめ眠るボク。コウモリは確かに寝ている。フタがキツく締められた瓶の中、酸素がなくなり永遠の眠りについている。

▼ 注釈 / 飛行中のコウモリは電波を出しています。その電波が物体に当たってハネ返るので、コウモリはソレらにぶつることなく飛べるのだそうです。何故、投げたクツの中に突っ込んでゆくのかは分かりません。

 

◆写真タイトル / 束の間知らず

 

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