新築のお庭 (後編) / 日本庭園の美 / 錦鯉VSナマズ

Title : 見栄え悪くても美味しけりゃいージャン

 

 

 

もう1人のオバアチャン(父の母)宅は、エリート長男息子(父の兄)が建てたもの。ボクを招いたのは新築お披露目の意味もあったのかなと後年になって思うけど…。この長男息子、すなわちボクのオジサンは造幣局のお偉いさん。

ゆえに、以後ゾーヘイ(敬称むりやり略)と呼ぶことにする。ゾーヘイの昔ッからの夢は実に実に立派な本格的日本庭園を有する家を建てることだった。

むろん、住居もそれに見合った大層立派な日本家屋でなければならない。定年退職待たずして夢を叶えたゾーヘイは偉い!、アッパレ!、と親戚中が恐れ入ったという話。

 

庭園の広さは平均的なコンビニ店舗6つ分位。大きく見事なミカゲ石あり、本格的な灯篭あり、春は桜、梅雨には紫陽花、秋には紅葉を楽しむという趣向。

しかしながら、ゾーヘイが庭園の眼玉として据えたのは “ 心 ”という字を象った(かたどった)池。続き文字なので水はすべからく循環する造りになっていて、中心の “ 逆ノの字池 ” には非常に高価な厳選錦鯉が25匹も雅(みやび)を連ねる。

 

 

 

 

実はゾーヘイは熱狂的な錦鯉フリークなのであって、その掛け合わせの話になると三日酔いになるほど杯を重ねる生きがいぶり。

鯉の全ては彼の鋭い審美眼によって選び抜かれた精鋭ばかり、まさに1匹1匹が泳ぐ宝石、ゾーヘイの存在全てと言っても過言ではなかったのである。

 

 

 

 

この日も彼は夕刻6時にキッチリ、伝書バト帰宅。シャワーを浴び真っ白な木綿のシャツにステテコ姿で庭園に降り立つ。ホースで石や樹木に水をかけながら、時折チラチラと “ 心の錦鯉 ” 盗み見しては目を細める至福趣味。

池に葉っぱの1枚でも浮かんでいようものならサァ大変。キッと睨みつけサッと排除。何事もキッチリ正確、理路整然としていなければならぬ彼のモットーは、家族の者達の背中に重くのしかかっていた様子が見てとれる。

 

ゾーヘイが水やり作業を行っている同時刻、風呂から上がったボクの両足噛み傷に、オバアチャンが「ヒルとはな~」と軟膏ぬ~りぬり。

錦鯉の群れがゆっくりとゾーヘイの前を移動してゆく。目を細め満足げに頷く彼の視界に、瞬間マッ黒い影が鯉に混じって見てとれた。

錯覚か。鯉の一群は端まで流れ、いつものようにユックリ折り返す。それから優美な風情で再びゾーヘイ眼前へと横流れ。ゾーヘイの血の気が失せる。錯覚ではない。コレは何だ。

丸々と太った大きなナマズが、まるでコバンザメのように錦鯉の腹の下、ピッタリ吸い付く様に寄り添って自身の姿をカモフラージュ。美しき京舞妓の夕涼みに醜悪極まりない者が無粋参加している悪夢。

“ 怒髪天を衝く” とは正にコレ! 、正にコレ!。絶叫しようかと思う程の戦慄がゾーヘイの

天花粉(てんかふん。汗止めとして塗られる白い粉)まみれの首元にブットイ青筋を立てた!!。だッ、だッ、誰がここここんなァーッ!! 。

次の瞬間、一国一城のアルジは口から泡をブクブクと吹き放ち、その場にバッタリ倒れ伏すや、全身を地下堀りドリルの様に激しくケイレンさせた。

発作である。彼はテンカン持ちだったのだ!。その一部始終、缶コーラをチビチビやっていたゾーヘイの娘(ボクのイトコ)が見ていたわけで

「キャーッ!!、パパが大変ッ、お母さァーん!!」

大変どころの事態ではない。静かに暮れゆく真夏の黄昏を粉みじんに吹き飛ばす壮絶な騒ぎとなった。

部屋に寝そべっていたボク、何の騒ぎだろうと呑気顔でプウラリ、プウラリ庭先へ。その姿を見るが早いかゾーヘイに薬を飲ませていた彼の妻、鬼の形相で振り返り

「アンタが入れたのネッ!!、ナマズッ!!」。

 

 

 

悪魔を好んで招き入れたのは、だあれ?。