筋肉痛の小猿 (前編) / 湿布なき遠征

信じられぬほど有頂天な単独パレードで帰宅した小学3年生と思われる小猿が一匹、自室机にランドセル投げ出し、引き出しから何やらふにゃふにゃのパンフレットを大事そうに取り出す。畳にアグラ座り、猫背気味にして食い入るように見入っている後ろ姿。よくよく見るとそれはボク。へえ、こんな小っちゃかったのかあ。なるほどねぇ…。

何見てんの?。ああそうか。昆虫採集セット、夏休みセールのパンフね。鼻の下伸ばして半ば恍惚で見入ってるねぇ…。明日はご学友一同、誰の身にも降りかかる奇跡、その名も夏休み!。その初日!。

日頃のやりたい放題、その罰なのか。授業中、将来の夢を担任教師に尋ねられたこのサルは、僅かにもったいぶって「昆虫博士」と返答。驚いた教師は「博士の意味、分かる?」「白い服を着てる」「先生の母親も白い服よく着てるけど博士じゃないぞ」「嘘つき博士だよ」などと減らず口ばかりのモンキイ、それゆえの天罰だったのか…。夏休み初日、目覚めてみれば左首筋を寝違え激痛!。そぉッと動けば大丈夫…。ウ……。だけどほんの僅か、神経に刺激を与えられたが最後、

キーン !! !! !! !! !!

眼の前真っ白、自分自身が銀河系を突き抜ける光速ロケット、文字通り本当に全身ピーン!! と直立鉛筆1本状態、その哀れなペンシルに冗談でも誇張でもなく電気ショック10万ボルト(想像) !!。それは幾度か経験済み。さわやかな朝に1人どしゃぶり雨ん中。あー雨ん中ったら雨ん中。行くのやめようかな、との自問に即答、行くと答える猿心。やっぱり行くのかタワケ。バスに乗って5停留所。そんな遠くまで遠征する?、首に爆弾抱えてサ。やだやだ行く行く、行っちゃうんだからーッ!!。

トーストをかじる時、人は結構な力をアゴに与えていることをご存知か。カリッとヒトクチごとにヒェーイのけぞり!!。このトーストかじり続ける猿をば見れば、よおーく分かる。しかし、このような状況下に於いて人は無理矢理トーストを食べ続けたりはしないものである。何故、何度も激痛に飛び上がりながら、決して食べることをやめようとしないのか。何故握った手の跡がトーストに刻印されても、ソレを手放そうとしないのか。そのとびきり滑稽なサル・パフォーマンスを目の前で目撃している母も母であろう。全く笑わず、何か奇異な物体と遭遇したかのような眼差しで我が子を観察しているなどと。

「バス揺れるわよ。大変よ。知らないわよ」「平気」

平気ではなかった。ボクは大人になった今でさえ、このような惨劇を目撃したことは1度もない。ラッシュアワーを完全に終えた時間帯、バスには乗客1人。オカッパ頭のチビ、その顔半分が座席最後尾の左端、ワインレッドの背もたれからチラチラと見え隠れしている…。ボクだ。アンポンタンな頭でここが一番刺激が少ないと考えたのだろうが完全に間違った選択だ。むしろ逆なのだよソコは。その席は。一番前の席に移るべ…バスが発車。駄目だもう間に合わない。何てこった。

無人に等しいせいか、運転手は非常に荒い運転。しかも激しく車体がバウンドする路を走行?、或いはワザと車体を揺らす運転?。このバスはマウンテンバイクなのかと疑うほどの激しい連続バウンド!!。1秒2回のバウンドの度、サルはバス天井を突き破って青空発射せんばかりの衝撃!!。何とか自身の身体を固定せんと両腕に全身全霊の圧力加える無駄な抵抗!!。徒労!!。ひと駅目を通過する段階で、既にチビサルの顔は手負いの茹でダコみたいに真っ赤っ赤!!、冷や汗ぐっしょり、目は血走って息も絶え絶え、せめてバス停で乗客停車でもしてくれれば息もつけようが、生憎次なる駅にも人影は無し!!。

運転手は見た。バックミラー越し、上下の歯を砕かんばかりに食いしばり、オノレの身体ロケット発射を阻止せんと、と崖っぷちで声なき絶叫繰り返す、顔シワクチャまみれの謎がナゾ呼ぶサルの姿!!。一体何だアレは…。バネ仕掛けのサルのオモチャは…。

 

◆写真タイトル / 歌うお子様

 

★当ブログのエッセイ文、写真、イラストの無断掲載、転用を固く禁じます。