Title : 行方
独り暮らしのその中年女性は、唯一の女友達にさえも疎遠にされてしまったことをきっかけに、流石に反省したのだろう、歪んだ底意地の悪さを治そうと白い子犬を飼った。やさしさといたわりは三日坊主、キュンキュン鳴いて部屋中を走り回る子犬を小憎らしい、いまいましいと、いつものように思うようになった。そして邪険にし始めた。
晴れた日に布団をベランダに干す時、彼女は無意識に鼻歌を歌う。歌い始めると子犬のイソーロー(つけられた名前)が決まってキャンキャンはしゃぎ始める。イソーローは一緒に歌っていたのだ。
「うるさい!、いやがらせのつもりかッ?」
ある日、イソーローは気づいた。あの歌が好き。ボクのことは嫌い。
冷たい雨が降っている。町のあちこちに行方不明の子犬を探しているという地味でみすぼらしいポスターが貼られている。
二度と会えるはずなど、ないのに。