幸福を勝ち取ることに、全身全霊で生涯挑戦し続けた “不屈王 ” チャールズ・チャップリン。ボクには “ 喜劇王 ”というイメージは皆無。
人間と見なされず、扱われず、家畜の様に鞭打たれたアメリカ黒人奴隷制度時代のアフリカ人達が生み出したゴスペルが、神に捧げる “ 陽気な歌 ” だというのであればチャップリンも喜劇王になってしまう。
人生の苦しみや悲しみ、絶望、つらいからこそ微笑む。“ 微笑 ” (ほほえみ)という手段で、武器で、自分を飲み込もうとする破滅と絶望に立ち向かう。
微笑は喜びという意味ではない。喜びは自然とにじみ出てくる笑顔のことだ。
微笑は、自分を打ち負かそうとする人生の苦難に立ち向かうための旗印。
微笑はスマイル仮面症候群とは全く立場を異にする。気に入られたい一心で作り笑顔を続けるあまり、やがて本人の顔が作り笑いの顔立ちになってしまった、というものとは全然違う。
微笑は自分を愛おしくいたわり、自分の失われゆく自信やプライド、尊厳を私の名誉に賭けて取り戻そうとする、人間のあるべき姿なのだ。
チャップリン作曲のスタンダード名作 ♪ スマイル ♪ (ジョン・ターナー、ジェフリー・パーソンズ作詞) 歌詞中にこんな一節がある。
心が痛んでいるのなら 微笑を
心が砕けてしまっても 微笑を
心が沈んでいても( 直訳:雲が空にある時でも )
何とか やり過ごせるよ
恐怖と悲嘆にくれても
アナタが微笑むのなら その微笑みが明日になるかもしれないよ
輝く太陽が アナタに降り注ぐのが 分かるはず
この普及の名作は、1936年、チャップリンの映画 “ モダン・タイムズ ” にインストゥールメンタルとして挿入され1954年に歌詞が付け加えられた。あまりに多くの著名な歌手達(ジュディ・ガーランド、バーブラ・ストライザンド、トニー・ベネット、ダイアナ・ロス、ロッド・スチュワート、マイケル・ジャクソン等) によって歌い継がれ、その価値は全く色褪せることなく今日に至っているが、ボクが最も注目したのはスティービー・ワンダーがスマイルを歌ったということ。
御存じの通り、彼はこの世に生を受けるとほぼ同時に盲目(未熟児網膜症)となった。楽曲スマイルの歌詞には空に在る雲、輝く太陽、といった視覚描写が有る。
彼がボク達に教えてくれるのは、物理的に見えることしか信じないのなら、人生の苦難に微笑をもって立ち向かえない、ということではないだろうか。彼の心の心象風景には、悩みや苦悩の暗雲の日、きらめく陽光が降り注ぐ日、ありとあらゆる心模様が在る。
子供が “ その人の単なる空想でしょ? ” と本気で言うのであれば、じっくりと根気よく、時間をかけて子供と対話しなければならない。
「あの人、涙流してるのに何で笑ってるの?」
微笑と笑いの違い。生涯を賭けてでも分かって欲しい、切なる願い。
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