狂乱の黄ィーポンカラーの園児帽をかなぐり捨て、ボクはいつもの様に脱兎の如くに家を飛び出す。本日珍しくボクが登園したのは、神様がボクに日頃の傍若無人(ぼうじゃくぶじん)な態度にコッピドイお仕置きをする為であったことは、この時点で判明している。つまり、神の見えざる手(アダムス・スミス『国富論』とは一切関係なし)によってお尻ペンペンされてしまったのは幼稚園の在園中であったということだ。
全く知らなかったのであるが、今日はボクの誕生日であった。幼稚園のお姉さん先生が、一体何処でその情報を入手しているのかサッパリ検討もつかないが、とにかく先生は皆の誕生日を知っていて各々の誕生日が来る前日、明日は誰々チャンのお誕生日ですよー、プレゼント上げたいなーと思う子は自分で作ったプレゼントを持ってきましょうねー、等と呼びかけ、常日頃からそういったお誕生日プレゼント行事が行われていたようである。
偶然ボクは自分の誕生日前日に登園して、その初耳呼びかけを聞くに至ったのであった。プレゼントを沢山貰えるというビッグニュースはボクの心を痛く打った。それですっかり舞い上がってしまったボクは、翌日つまりは今日も珍しく幼稚園へなだれ込んだという次第。鼻の下伸ばしたままネコのように丸まり、控えめに膝頭抱くボクの頭上、「はーい。では▽▽ちゃんにプレゼントを渡したいお友達はプレゼントを渡してねー」という先生の声が2度ほどコダマしたものの、誰1人として席を立つ者は居なかったのである。
空恐ろしいほど、水を打ったように静まりかえる教室。期待に頬赤らめ、いつになく息潜めていたボクは、恐る恐る膝頭に半分埋めていた顔を上げた。教室に常時張り巡らされている色とりどりの折り紙チェーン。それらは園児達の手によるものなのであろうが、それを製作する一群の中にボクの姿はなかったはずだ。恐らくはその時分、ボクは腰まで池の水につかり、両手にヌルンヌルンの巨大オタマジャクシを手の平に乗せ、ウァハッハッハー!! と奇声など発していたであろうに違いない。
「居ないようですねー。それでは今からお絵かきを始めましょー」の声にボクの周囲がザワザワし始める。先生はボクに声をかけるどころか、ボクの方をただの1度も見なかった。ボンヤリ突っ立っていると、ほどなくして見たこともない男子幼児がボクのところにやって来て、「これ、◇◇ちゃんにあげるプレゼントだったけど、カワイソーだからあげる」と言って、ボクに何だかよく分からないフニャフニャの大きな封筒を手渡した。中身が何なのか皆目見当はつかないものの、プレゼントを貰ったという喜びにボクの心は一気に青空従え大地に胸を張る満開の桜の巨木!!。激しい歓喜の桜吹雪にむせかえりそうになったその瞬間、「やっぱり◇◇ちゃんにあげたいから返して」。
訳が分からぬまま帰宅。咲き誇る満開の桜巨木、はかなくもタンポポへと変貌。しかもソレには花がない。けれど幸いなことにアンポンタン園児に立ち直れない程のダメージなし。何故って、この世界は混沌とし過ぎている。ボクの心が他人の業に傷ついてしまう程の成長を見せるのは、幸いなことに未だ未だズゥッと先の事だったからである。
◆写真タイトル / まぁだだよ
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