オタマジャクシは見た / 高齢化社会のマナー

 

小学2年生の夏休み。道端で近所の顔見知りお兄ちゃん達3人とバッタリ。向こうもボクに一目置いている。生まれながらのザリガニ・ハンターであると。小学5年生といえば立派な大人。そんな者達にクチボソ釣りに連れてってやろうかと誘われたからサア大変!。

こッ、このボクが一緒に?!。行く行く行く!、何処行くの?、クチボソってどんな魚?!、大人の仲間入りをした小猿は有頂天、菜の花周りを飛び交うモンシロチョウさながら、お兄ちゃん達の周りをモンキーチョウ。

なんかよく知らないがバスに乗って小一時間。訳分からぬ間に、ウチの近所よりもっと田舎の風景の中に降りた。バス賃タダだった(ホントはお兄ちゃんがボクのを支払っていた)。

平野みたいなとこで山が周りにあんまりない。田んぼ横の流れがない川に沿って少し歩く。草がこんもり柔らかくて沈みながら歩く。1回だけ片っぽのズック脱げちゃったや。

「ここで釣ろう」と親分のお兄ちゃんが言ったもんだから、皆それぞれバッグを下ろして釣りの準備を始めた。

「ボクのも(釣り竿)ある?」「あるわけないだろ」

クチボソ早く見たい。フナとどう違うかな?。もっと大きいか小さいか、色はどうかな?。ワクワクする。暑い。汗たらたら出る。

待っても待ってもチッとも釣れない。お兄ちゃん達は不機嫌な顔をしてアグラ座り。皆デコチンに汗玉が一杯吹き出ている。

あんまりにも退屈だからボクはぷらぷら歩き出した。ザリガニ、カエルでも居ないかな。見つかったら最後だと思え。ククク。

オオッ!。湯のようにぬるい緑色した池の水面、大きな大きなウシガエルのオタマジャクシが、暑さでやられたか夢遊病のようにふらふらふらぁ~と川底から垂直に上がってきて、ポッ、と水面の空気を吸って、再びふらふらふらぁ~っと川底に戻ってゆく!。ボクは足音忍ばせ小走りにお兄ちゃん達の元へ取って返し、

「ねえねえ、網貸してッ」「何。何すんだ」「オタマジャクシ」

「釣りしてんだぞ。魚が逃げちゃうだろ」「うんとアッチ」

網を片手、転がるように取って返す。「待ってろ!許さないからな」

何をどう許さないのか自分にさえ分からないが、とにかくそんな気持ち。身を屈ませ、さっきの奴だか他の奴だか分からないが、とにかく此処で待ち伏せす…アッ!、もう来たあーッ!!

ジャブァーッ!!

限界ギリギリまで身を乗り出していた小猿は全身横一直線で宙を横ッ飛び、シュートを阻止せんとするゴールキーパーさながら、そのままドブオン、と川に全身沈んで見せた。

プァッハアーッ!!。

瞬時に襲った地獄の戦慄!、は次の瞬間、アリャ「何だ~、これ」

水深はボクの首元までしかない。こんな浅かったか!。しかも、全身が夏の暑さにウダっていたので水に浸かって肌が心地よすぎ!。ひゃああ~気持ちいい。川からお兄ちゃん達の方を見やると、皆お地蔵様のように並んで座って全然動かない。ククク。何にも釣れてないみたい。陽炎が立ちのぼり、哀れな釣り小僧達のダルマ大師ぶりがゆらゆら揺れている。

「何しちょんのボク、ほら、早く上がってき、ほらほら」

真っ黒に日焼けこんがり焼けの痩せたオジイチャンが手を伸ばしている。誰?。ボクはオジイチャンの手を掴んで岸辺へ帰ってきた。

「何が入っちょんの」言われて網を見下ろすボク。オオ!何とオタマジャクシが1匹、真っ黄色のお腹を見せ気絶しているではないか!。

「オタマジャクシ。今獲ったの」「おうか!えかったの!(良かったな)」

ボクはオタマジャクシを入れる適当な何かを探してキョロキョロ。ない。仕方なくオタマを水が半分残っている上着のポケットに転がし入れる。

「フォッフォッフォッ!(満面笑)。ジイチャンが何か探してきちゃるけん、ここで待っとき」

すぐそばの木立の向こうからオジイチャンはすぐ戻って来た。手には泥のついた固いゴワゴワのビニール袋。

「これ、穴開いとらんから、これに入れな、ジイチャンが水入れちゃるな」

「ありがと」

ボクとオジイチャンはオタマジャクシの入ったビニール袋を日にかざしてみた。ううう~ん…。オタマジャクシは意識を取り戻したのか、ハッ!と息を飲み、体勢をあるべき姿勢に慌てて戻し、うろたえながら言った。「ドコでしょう此処!」

「オタマジャクシ好きなんか?」「うん。大好き」

オジイチャンはマっ黄色の歯を見せ、さも嬉しそうに笑った。

「何だジジイといるのか汚いッ。オイ、もう帰るぞッ」

いつのまにか、お兄ちゃんの1人が3メートルほど傍まで来ていて、そう言い放つとプイッとキビスを返してスタスタ言ってしまった。

「気いつけて帰りや」「うん。さよなら」

ボクもスタスタ戻る。お兄ちゃん達の姿がズンズン迫って来る。さっきのお兄ちゃんに向かって思わず大声で叫びたくなった。

「汚いのはオマエだ!」

 

それは声にならなかった。勇気がなかった。意気地なしのサル。

ボクは言ったことにしてうつむき、オジイチャンの方を振り返った。うつむいて向こうへ歩いてゆくオジイチャンの後ろ姿も、ボクとおんなじ、ションボリして見えた。

 

 

◆写真タイトル / 一期一会(いちごいちえ)

 

 

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鉄腕アトムに見る子供教育 / 地上最強のロボット

 

この記事は専門的な子供教育の話ではありません。

記事のテーマは子供の愛教育です。

愛教育?、それならウチはたっぷり愛情注いで育ててるから大丈夫。それは涙ぐむ程ステキなママ。ステキなパパ。だけどそれは親が子を愛し慈しむ(いつくしむ)本能愛教育。母性本能教育。父性本能教育。それが子育てに最も重要で重大なものなのは周知の事実。

ここで言う愛教育とは、お母さんとお父さんが我が子に与えた(る)愛情を、その子の全身に注入した純度の高い愛情を、どうすれば子供の体内でより一層増殖させ、全神経の末端にまで行き渡らせることが出来るのか、の教育のことです。教育と聞くと、凄く仰々しくって大層なものに聞こえてしますが、全然そんなもんじゃ~ありません。

漬物ヌカ床の維持管理って大変じゃないでしょ?。毎日ヌカ床サンにちょっとした手助けをしてあげるだけ。チョチョイとかき混ぜる、チョコッとヌカを足してみる、とかね。でも、そのチョコチョコがヌカ床の存続を左右してしまいますよね。ヌカ床のお大根、キュウリはヌカ床の子供です。そしてヌカ床はアナタの子供。しょっぱい子供で完成するのか、サッパリ味で完成するのか、それは食べ手にとってはイの一番に重大なこと。食べ手は社会、アナタの子供が愛する異性。

子供を漬物と一緒にするな~?。例えと同一は全然違います。

さて本題。今回は愛教育のほんのほんのヒントだけを紹介します。ヒントだけで十分です。ヒッジョ-ッに上から目線に聞こえてますか?。誰かが誰かに真剣に何かを伝えようとする時、それを上から目線と呼ぶのは、それを聞きたくない、が本当の理由。相手は立っているのにアナタだけが座っているから上から目線になってしまっているだけのこと。相手とマジメに話したいなら、アナタはきっと立ち上がるはず。立ち上がれば

ほら、もう上から目線はなくなった。同一の水平線目線。気持ちいぃ~。

日本が生んだ最大の漫画家手塚治虫氏作品、御存じ “ 鉄腕アトム ” のエピソードの中に “ 地上最大のロボット ” があります。近年、浦沢直樹氏がリメイクし絶賛の嵐を呼びましたが大人向けにクリエイトしたものですので、子供が理解しやすい手塚作品の方がストレート。見た事のないママ、パパはユーチューブで是非見て下さいね。

自身の偉大さを全世界に知らしめるべく世界最強のロボットを完成させた大富豪(元某国国王)。彼の目的は、いずれ劣らぬ世界最強と名高き7台のロボットの破壊。自身所有の殺人ロボットであるプルートウが圧倒的勝利を収めればそれは証明される。

ボクが最も注目するのはエプシロンという女性ロボット。彼女は孤児達の世話をしながら暮らしている。殺戮マシーンではなく心優しきロボットのエプシロンを何故、大富豪は最強のロボットと見なしたのか、ということなのです。

結局、彼女はプルートウに破壊され海底に沈んでゆきます。戦いはアッケないものでした。権力の権化でもなければ強さを誇示するわけでもない一台のロボットの死。残された子供達は?。最強でない真逆な者など語るなかれ。

何故、エプシロンは狙われたの?。どうしてエプシロンは強いって勘違いされちゃったの?。

自らの疑問に子供が答えられるようになった時、それが愛教育のひとつの成果。何度も何度も読み聞かせする本の中に、ぜひぜひ “ 地上最強のロボット ” を。

 

◆写真タイトル / 私は世界

 

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幽霊も驚く日本語 / 夏休みの宿題にいかが?

「いよいよ幼少期から英語授業。グローバル化時代を実感するわよね」

「何をバカな。言葉のグローバル化なら日本はとっくに取り入れてるぞ」

「え。とっくに?。ア、分かった。いわゆる日本語英語ってやつでしょ」

「英語だけじゃないぞ。有名なとこではアンニュイにアバンチュールにアバンギャルド、フィアンセ、どれもフランス語だしイデオロギーはドイツ語。エスプリだのノスタルジーだのもフランス語だっけか」

「意識したことないけど色んな国の言葉カジッてんのねえ」

「もとより日本は、言葉なんて種々雑多デタラメにグローバル化してるんだゾ。例えば、ピンからキリまでのピンとキリはポルトガル語だし、雑誌をマガジンていうだろ。だけどこれ英語じゃないんだぞ。アラビア語のマクゼンてのが語源なんだ。一体どっから引っ張ってきたんだって話だぞ」

「英語じゃないの?。マクゼンがアラビアの本だなんてねえ」

マクゼンはアラビア語で貯蔵所って意味だ。それを書庫になぞらえて無理矢理マガジンて言葉にしちゃったんだよ日本人がさ。力技一本なんだぞ」

「そういや有名な中心街とかをメッカって言ったりするもんね。これもアラビア語なの?」

「そういうこと。ニュースでデマを流す、のデマドイツ語デマゴギの頭を取っただけだしな。チンプンカンプン中国語、ていうか、中国人の名前だな。オテンバ娘オテンバオランダ語、じゃじや馬ってのと同じ意味だぞ」

「へえ、さすが豆知識オタク。アタシなんかそんなの何語でもどうでもいいわ。皆が使ってるんなら、もう日本語よ。そーでしょ」

「まあな。お前はこないだ官民能力差の調べ物で官能小説を買おうとしただろ。アレは全然違う小説なんだぞ。官民のことなんて書いてないんだからな、買って読んでたら大変なことになってたと思うぞ」

「またその話かァ!。どうだっていいのよそんなこと!。言葉なんて適当なとこがあるってアンタいつも言ってるでしょーが」

「アア、それそれ。話ついでに言うとだな、田舎って漢字、が入るだろ。田舎には田んぼがあるから当然なんだけどな、にもを入れてるんだぞ。にはを重ねて盛ってるぞ。コンクリートだらけなのにハテ如何にだ。どーなってる」

「アラほんとね。何か裏に深い意味でも隠されてるのかしらねえ。こないだアンタ言ってたでしょ。パステルカラーの淡い色って。

という字には似つかわしくないと言う字が入ってるって。女が淡い服を着ているのは、外見を装っているだけで、内心恋心はのように煮えたぎってるって。アタシ、妙に頭に残っちゃったわ。アラ、この人もそうなのかしらって、道行く人をいちいち色眼鏡で見る様になっちゃったんだから」

「ははは、そうか。でも漢字の裏の意味は大事なんだぞ、忍者には」

「忍者にはね」

「変な口調はよせ。…いいか、手で押すというのも変なんだ。と書く。普通、で物を押すか?。普通は押すと思うがどうでしょう」

「ウラメシヤ~の幽霊の手つきなら、手の甲で無理なく押すんじゃない?」

「オマエは漢字が幽霊のことを考慮して作られていると言うのか」

「何でもあり得るんじゃない?、こうなったら」

「あっそう。最後にオマエ向きの漢字の裏を教えてやろう。秘密という漢字をよく見ろ。という字には必ずというのが入ってるだろう。という字にも必ずという字が入ってるだろう。ここまで執拗に念押しをしてるんだ、必ず必ず秘密だと」

「そして、念押ししてるのは幽霊ね。で押してるんだから…。ねえねえ、幽霊の秘密って意味深よね!。一体どんな秘密なのかしら」

 

 

 

◆写真タイトル / アイデンティティー

 

 

 

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空恐ろしいほど難解な日本語 / 解説という名の謎解き

Title : 「オレもググッてみた。回転寿司と落下寿司の違い。

難しくてサッパ分かんねー」

 

 

「それがさァ、何と何とアイツ、とんだ一杯食わせ者だったんだよ」

「部長、お得意様からオゴってもらったんですか!。そ、そんなァ…こっちが接待しなくちゃいけないのにィ~」

 

「とにかく騙された。取引は中止だ中止!。オレが帰り際にオタクとは金輪際お付き合いは致しませんって言ったら、アイツ何て言いやがったと思う?。

金輪際とはどういう意味ですか、金の輪のキワって何のことですか、

今後お付き合いしません、とは違う意味ですよね、だってよ!。

キレそうになったね」

 

「それはそれは。で、金輪際って結局どういう語源だったんですか、部長のことだから早速ググッたんでしょ?」

「ああ、ググッた。即な。即時な。ところが解説読んでもサッパリ意味が解らなかった。オレには難解すぎて全くついていけない」

「はあ。でも意味は分かって使ってるんでしょ?」

「ああ。……何となくな。ググッたことはないが、ホラあれだ、何となくニュアンスだよ、フィーリング」

「そんないい加減な。意味もよく解らないで使うなんてよくありませんよ。もう使わないと誓って下さいよ」

「分かった。確かにな。金輪際使わない」

「でも、解説を読んでも聞いても、分からないってこと、結構ありますよね世の中。こちら側の力量が試される解説っていうか。相手を選ぶ解説」

「下準備の必要性を痛感するな。例えば野球解説.普通によく分かるけど、アレも野球のルール知らない人が初めて聞いたらチンプンカンプンだろうし」

「部長。チンプンカンプンてどういう語源ですか」

「オオオオ!、また出ちゃったか!確かにそうだ。今ググッてみよう。何て出てくるか楽しみだ!」カチャカチャカチャ…。

 

 

 

 

結構長い沈黙

 

 

 

「分かるか……」「分かるような分からない…ような……。それこそ解説見てもチンプンカンプンですね…。うーん、これも相手を選ぶ解説ですかね」

 

「そういうことになるな。だとするとコレもウカツには使えない要注意指定語になるな。

恐ろしいことだ、取引先にどういう意味ですかと聞かれたら返答出来ない。

いい加減なヤツだと思われてしまいかねない」

 

「部長。今 、ウカツと言いましたね。ウカツってどういう意味なんですか」

「またか…。指摘されるとなあ…。ニュアンスで使ってるんだよなコレも」

「ググッてみましょう」カチャカチャカチャ…。

 

さっきよりは短い沈黙

 

 

「駄目だ。少し解るような気もするが本質を掴んだとは言えない。何てことだ、言葉ってこんなに難しいものだったのか。

自分の言葉に責任を持てと日頃からゲキ飛ばしてるオレだが…段々自身がなくなってきたな」

 

「ゲキってどういう漢字を充てるんですか」

「分かったよ。今ググるから」

 

 

「檄。こういう漢字だったんですねえ。部長、この漢字ですけど、見覚えありますか。今までに見た記憶ありますか」

「ない」

 

 

 

 

 

 

 

金縛りって一体なに?/1度でたくさん涙目恐怖

セミが熱中症を恐れ葉陰に引きこもる壮絶真夏日、中元手配で百貨店に出かけた母と弟。ひとり留守番居残りは小3のボク。うだる暑さに同伴拒絶、白いふにゃふにゃランニングに紺色半ズボンの軟弱ボク。

2人が出かけて程なく、ジュースを飲もうと台所へ立つ。ビーンビーンビーンという軽量プロペラの回転音に驚き、窓際右上を見上げるとアブラゼミがクモの糸に捕まりモガく羽音だったと知る。それにしても暑い…。熱い…。思わずクラつき、両腕垂直伸ばしで流しの縁(へり)にすがりつく。小麦色の腕は油を引いたようにネラつき、うつむく額からはポタリポタリと汗が規則的に落下。汗でジワつく瞼をそっと開くと、眼下の洗面器には僅かな残り水。窓から鈍く差し込む陽光を受けて反射する溜まり水に、小さなアリが一匹、ポツンと浮いている。

「表面張力…。表面張力で浮いているアリ…」

そう呟きながらガシャンと冷蔵庫を開け中を覗き込む。期待した冷気の洗礼は顔に無し。驚いたことにジュースも無し。

「眠い…」

ボクはひょろひょろと、風になびくことの滅多にないトコロテンのように、両腕を無意味に振りながら自室に戻り、すぐさま畳の上に崩れ落ちた。

「眠い。寝る……」

傍らの扇風機がナマ温い空気をかき回し、ボクの前髪を変に震わせるから、湧き上がった痒みに腹を立てたボクは狂ったようにその辺りを掻きむしった。直後、爆睡。深海1000メートルほどの深さにまで落下。

 

突如、仰天覚醒(意識を取り戻す)!。生涯初の金縛りが始まっている!! (後日それが金縛りだったと知る)。畳上、仰向け大の字、全く身体を動かせない異様で異常な事態!。胸を圧し潰される感覚に恐怖が全身を駆け巡る!。薄茶色の天井がハッキリと見える。点在するコゲ茶色のフシひとつひとつもハッキリ見える。

ボッ、ボクの上に誰かがまたがっている!!、重い重い!!、ぐえええ圧し潰される、だッ、誰か助け…ぐえへへへえええええ、息が、息が出来ないよう!!

これは夢か、と確認しようとして止める。夢でないことは火を見るより明らか。その時突然気が付く。ゆっくりと天井全体が楕円形を描きながら時計逆回りに回転しているではないか!!。しかも茶色いはずの天井は完全に重苦しい鉛色に転換していて、ボクに向かってゆっくり下降したり上昇したりを繰り返している!!。天井の動きを認識したその瞬間、髪の毛が逆立つ様な戦慄が全身に走った!!。

誰か居る!!。ボクの足指のすぐ先に、全身真っ黒な誰かが立っている!!。大人の大きさがある!!。ボクは顔を起こし、勇気をもってソレを確認しようとした。が、顔がもたげられない!!。それでも見ようと歯を食いしばるも無駄な抵抗、全身に冷たい脂汗がドッと吹き出す!!。ボクに一体何をするつもりなんだ?!。幽霊!!、妖怪?!。恐怖のあまり汗みどろの左瞼が激しくケイレンし続けていることに今気づく。一体何がどうなっているんだよおーッ!!。

重い重いく苦しい、圧し潰される!!、死ぬぅぅぅぅぅぅーッ!!。

まだそこに居る!!。視界に黒い塊が見える!!。動いているような動いていないような……、でッ、でも、アレがアソコに居るということは、もう1人がボクに乗っかっているということなの?!、でも圧し潰そうとしてる奴の姿は全然見えてはいない!!。あまりの異様な感覚に激しい吐き気を覚える。どれくらい経ったのか、2~3分だろう多分。全身の力を振り絞り、絶叫して助けを呼ぶことにする。せーの、「xxxxxxxxxxxxxx!!!!!!!!」

こここここ、声が、ぐえ、でッ、出ないぃぃぃぃーッ。

 

パチッ、と両目が見開かれる。

ハレ?。何だこれ。寝てた?。大の字姿で畳に寝転んだまま天井を確認する。回転してない。色もあるべきままの色。両肘で半身を起こし恐る恐る足先を見る。フスマがあるだけ。誰も居ない。

キョトンとする。夢?。いいや違う、絶対違う、違う、違う、全身に残るこのリアル感、実体験したナマナマしさが全神経に残っている。ボクはうつろな面持ちで、冷え切った冷や汗にベトつく半身を、ゆっくりけだるく起こしてみた。背中だけナマ温かく気持ちが悪い。

ボクは家族には話さず、翌日友達数人にこの忌まわしき体験を話してみた。もちろん、全然サッパリあの感覚をこれっぽっちも伝えられないモドカシサがある。

「同じ体験した奴、ホントに居ないの?」

みんな首を振り、大した関心も示さず、そんなことより遊びに行こう、だった。

 

金縛りを経験した人は結構いると思う。そう聞いている。睡眠時に起こる現象に過ぎず、霊魂だとか幽霊だとか、そんなことではない、と学者さん達。

 

そうなのかなあ…。以来、ボクは一度も体験してはいない。良かったっス。もう二度とゴメンであります。霊魂でも睡眠時の反射運動でも。

 

 

◆写真タイトル / ガーリックトーストに乗っかったポテトサラダ

 

 

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進軍園児 / ランキングを外れても

久しぶりに幼稚園に行くとクラスの男子幼児3人がワッとボクの周りに集結。見覚えのないその者達は口々にまくしたてる。駄菓子屋で買った菓子を上機嫌で舐め上げていると隣町の園児に取り上げられて恫喝(どうかつ。脅し)された。お前ならアイツを倒せるに違いないから、帰りに自分達と隣町の幼稚園までリベンジに行って欲しい。そして待ち伏せしソイツをイジメて欲しい、ということらしかった。

「それはどんなお菓子だったか」とボク。「ねぶり紙だよ。3つも取られた」との返答。アレか。ドギツイ赤、緑、黄色のチクロ(合成甘味料)が横4センチ、縦20センチほどの硬目の短冊紙に塗り込んであるヤツだな。

前に1度、家の近所で井戸端会議中の母とオバサン2人に呼び止められた時、オバサンの1人が「アアラ、美味しそうな物を食べてるねー。何ぁに?」と聞くので1枚分け与えたことがある。あまりにボクが噛んでみせてくれとセッつくので、仕方なくオバサンAはペロペロッと舐めてみる。「甘いわね」。それを正面から見たオバサンBが「アッ!、奥さん、舌が真っ黄色になっちゃたわよ!」。帰宅した母に恥かかされたと大目玉をくらうボク。くらいながらボクの幼い心に去来したものは、案外オトナは物知りでないという啓示であった…。

ボクは日頃全く付き合いのない同僚たちに頼りにされ全く持ってつけあがってしまった。「いいよ。行く。やっつけてやる」。

桜前線終盤、散る桜小雨の中、厳しい表情で進軍するヒヨコの一群が川土手からバードウォッチングされた。目指す敵地は大人の足なら10分といったところだろうが、園児の足では30分。まさにシルクロードへ旅立つ一大決心の大遠征なのだ。ボクらが隣町だと思い込んでいるその幼稚園、実は同じ丁目に過ぎない。もしボクらが川向こうのマジ隣町へでも1人置き去りにされたなら、地の果てに来た、オーイオイオイ!とサメザメ泣きはらしてしまうことだろう。

ボクらは勇まし気に進軍を続け、途中、散歩させられている黒い犬に凄まれたものの、たちまちカルカモのヒナの様に数珠繋ぎで路傍(道端)歩行、一糸乱れぬ隊列で目的地を目指す。閉園した入り口前、こないだのように奴らがたむろし奇声上げて棒遊びしているゾ、と同僚が不安気に耳打ちしてくる。奴らに近づくにつれ傘下の者達は何故かボクから徐々に離れだし、しまいにゃ水面に落ちた一滴の油のよう、遂にプゥアーンと弾け飛んだ。

真っすぐキッパリ、微塵もぶれずに1人進軍してくるボクに気づいた敵軍3~4人に緊張感が走る。1番手前、「何だオマエー」と粋がるソイツが持っていた小枝をすかさず叩き(はたき)落とすボク。「イジメたのか?」。そら恐ろしい野犬の迫力に圧倒されたか、ヤツらはワッと一斉にクモの子散らし。それを見たボクの同僚達も何故だかウワアァッ!と逃げ出した。右と左に散りヌルヲワカ園児。そのド真ん中にボク。置き去りのボク。?のボク。

帰り道、垣根に留まったシオカラトンボを発見!。そうっと近づき、トンボの目の前でクルクル人差し指を回し続ける。遂に目が回ったトンボがクラッ。捕まえたッ!!。意気揚々と家路を辿る。やっぱり独りが一番。最初から誰ぁーれも居なかったんだしなー。

 

◆写真タイトル / さっき誰かが

 

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はずされたハシゴ / 神・様・の・言・う・通・りッ

狂乱の黄ィーポンカラーの園児帽をかなぐり捨て、ボクはいつもの様に脱兎の如くに家を飛び出す。本日珍しくボクが登園したのは、神様がボクに日頃の傍若無人(ぼうじゃくぶじん)な態度にコッピドイお仕置きをする為であったことは、この時点で判明している。つまり、神の見えざる手(アダムス・スミス『国富論』とは一切関係なし)によってお尻ペンペンされてしまったのは幼稚園の在園中であったということだ。

全く知らなかったのであるが、今日はボクの誕生日であった。幼稚園のお姉さん先生が、一体何処でその情報を入手しているのかサッパリ検討もつかないが、とにかく先生は皆の誕生日を知っていて各々の誕生日が来る前日、明日は誰々チャンのお誕生日ですよー、プレゼント上げたいなーと思う子は自分で作ったプレゼントを持ってきましょうねー、等と呼びかけ、常日頃からそういったお誕生日プレゼント行事が行われていたようである。

偶然ボクは自分の誕生日前日に登園して、その初耳呼びかけを聞くに至ったのであった。プレゼントを沢山貰えるというビッグニュースはボクの心を痛く打った。それですっかり舞い上がってしまったボクは、翌日つまりは今日も珍しく幼稚園へなだれ込んだという次第。鼻の下伸ばしたままネコのように丸まり、控えめに膝頭抱くボクの頭上、「はーい。では▽▽ちゃんにプレゼントを渡したいお友達はプレゼントを渡してねー」という先生の声が2度ほどコダマしたものの、誰1人として席を立つ者は居なかったのである。

空恐ろしいほど、水を打ったように静まりかえる教室。期待に頬赤らめ、いつになく息潜めていたボクは、恐る恐る膝頭に半分埋めていた顔を上げた。教室に常時張り巡らされている色とりどりの折り紙チェーン。それらは園児達の手によるものなのであろうが、それを製作する一群の中にボクの姿はなかったはずだ。恐らくはその時分、ボクは腰まで池の水につかり、両手にヌルンヌルンの巨大オタマジャクシを手の平に乗せ、ウァハッハッハー!! と奇声など発していたであろうに違いない。

「居ないようですねー。それでは今からお絵かきを始めましょー」の声にボクの周囲がザワザワし始める。先生はボクに声をかけるどころか、ボクの方をただの1度も見なかった。ボンヤリ突っ立っていると、ほどなくして見たこともない男子幼児がボクのところにやって来て、「これ、◇◇ちゃんにあげるプレゼントだったけど、カワイソーだからあげる」と言って、ボクに何だかよく分からないフニャフニャの大きな封筒を手渡した。中身が何なのか皆目見当はつかないものの、プレゼントを貰ったという喜びにボクの心は一気に青空従え大地に胸を張る満開の桜の巨木!!。激しい歓喜の桜吹雪にむせかえりそうになったその瞬間、「やっぱり◇◇ちゃんにあげたいから返して」。

訳が分からぬまま帰宅。咲き誇る満開の桜巨木、はかなくもタンポポへと変貌。しかもソレには花がない。けれど幸いなことにアンポンタン園児に立ち直れない程のダメージなし。何故って、この世界は混沌とし過ぎている。ボクの心が他人の業に傷ついてしまう程の成長を見せるのは、幸いなことに未だ未だズゥッと先の事だったからである。

 

◆写真タイトル / まぁだだよ

 

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幼児の初恋 / 不定期持ち物検査

小学1年生になった時、ボクは初めて恋心なる感情に触れた。その不思議な感覚はイカレポンチ児童をほんの数秒だけ虜(とりこ)にした。だが、ソレはたちまち当てもない前人未踏のジャングルだか地の果てだかに1人旅立ち、その後何年も消息を絶った。ボクの預かり知らぬ事実であるが。

流石に幼稚園より小学校の方が組織として遥かに規模が大きく、それゆえボクは何のおトガメもなく入学をスルーした。テロ警戒レベル1の空港ゲートを難なく通り抜けることが出来た気分のさわやかさ。

しかし本人の中身は至って愚か者のまま、何の成長も見せることなく唯(ただ)ひたすらミジンコの様にピトーン!ピトーン!と単純な躍動を見せ続けるのみなのである。顕微鏡を覗き込めば各種プランクトンの運動パターンが誰の目にもハッキリ認識されようというもの。だのにプランクトンなら分かるソレが、ただ人間の幼児に変わっただけで、何故大人達には途端に理解不能状態に陥ってしまうのであろう。甚だ納得出来ない。

ある晴れたポカポカ陽気、授業終了後、抜き打ちで机の中身点検なるものが担任の手で行われた。その発表を聞いて全身に戦慄が走ったのは恐らくボク唯1人であったろう。鈍感なボクにも事の重大さがヒシヒシと伝わってくる。段々ボクの席に近づいて来る女検閲官の魔の手。何処にも逃げ場所はない。明るい陽光降り注ぐ机の一群、そのひとつに決して見てはならぬ秘密が…。「はい。じゃぁ次は▽▽クンの机の番ですよぉ~」

机は被せフタ形式。その木製フタを覆い隠すかの様に張り付いているボクの姿はどうだ。このように情けない恰好をしたヒトをボクは知らない。

「どうしたの。寝てないで早く机を開けなさい」「う。眠い…」

ガッツリと口を閉じたアサリにベッタリと吸盤でへばりついた小ダコさながら、いつまでも抵抗続けるボクに女刑執行官の冷徹な声。「どきなさい」。

ボクは机脇に立たされ、机蓋を勢いよく持ち上げる先生。その瞬間の光景は今なおボクの心に熱い青春の劣情をたぎらせずにはおかない。薄緑色の淡い煙が立ち上り、周囲がカビの臭いで満たされた。

「ンアァァッ!!」たちまち右手で鼻と口を塞ぎ、左手はフタを閉めようか、もう少し観察してから閉めようか、の迷いで閉めかける素振り、閉めないままの素振り、の4交互。そのコッケイさは可笑し過ぎた。次第にジワジワジワ~ッとボクの顔一杯に広がる屈託なき純な笑顔。それを見た鬼は顔を一層真っ赤にして怒り爆発!!。

「これは、一体どういうことですかッ?。全然食べないで全部ここに隠してたのッ?!、今までッ!!」。

普通ならば、仲間が先生に激しく叱責されているサマを見てニヤニヤするのが小1男子。だがそれは無理だった。ゆっくりと教室をたゆたう霧のカビが頭上をゆっくり通過してゆくのが見える。皆に見える。花粉症の知識はあるもののコレはどーよ。今、この教室は宇宙人の侵略を間違いなく受けている。幼児らは蒼ざめ、立ち上がりたくとも危険な状態で躊躇(ちゅうちょ)せざるを得ないヘッピリ腰。昼食のコッペパンの化石がビッシリと机の中を覆いつくし一分のスキもない惨状はどうだ。

コッペらは緑色のカビを培養し、いつくしみ、励まし、全身全霊で育んでいるのが見てとれる。その緑のオーガンディの中、ひときわ目を引くのがショッキング・ピンクの一群だ。まるで夜店の綿菓子さながらのフカフカ感、美味しそうな膨らみ具合!。ボクはたちまち興味を惹かれて目を凝らし覗き見る。

分かった!。ブドウパンだ!。ブドウだけちぎって食べた!。パン肌にブドウ跡の僅かな茶色が見てとれる!。それでだ!。他と違うカビが発生したのは!。ボクは自分の頭の良さを先生に伝えようと、彼女の上着スソを激しく引っ張り、その事実を告げた、神妙に耳を傾けていた先生の顔がみるみる激高してゆく。何で?。

「こんなこと、先生は見たことも聞いたこともありませんッ!!。▽▽クンは今から全部それを自分1人で片づけなさいッ!!」

何故だろう。その瞬間、ボクは少し離れた席に座っている女の子と目が合った。色が真っ白で将来美人間違いなしの顔立ち。彼女の美しくつぶらな瞳には侮蔑も軽蔑も驚きも、何ひとつ存在してはいなかった。ただ澄みきった目だけをしていたのだ。悪意のない純粋な目。やがて、振り返っていた彼女は何事もなかったかのように、ゆっくりと黒板側へ向き直った。ボクと彼女が互いの生涯で、接点を持った唯一つの出来事だった。

先生監視のもと、むせながらチリトリにパンの化石を入れている頃には、そんな初恋、すっかり忘れてしまった。カビには恋心を消し去る何かが、ある。

 

◆写真タイトル / よく見るがいいや

 

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boku

キミといつまでも / 町内会の課題

常軌逸した類(たぐい)まれなるモンキー園児であるボク。その名を地域一帯に轟かせた最大の愚行!。今回は是非ともソレを書き記さねばならない。ボクの生き物フェチは確かに常識ハズレ。大抵の児童はトンボやカエル、魚採りに興じるものだが、ボクのは違う。ボクのは訳が分からない。

小動物を捕獲所有することに全力を投入するのではなく、命を懸けるのである。よく釣り人が高波にさらわれ行方不明になるニュースが報じられるが、釣果への果てなき憧れと執着が、自然界への畏敬や畏怖の念を超えてしまった悲劇と言えるだろう。大人でさえ魅了せずにはおれない “ 狩り ”。あまり意識することはないが、釣りも魚獲りも昆虫採集も、全ては狩りなのだ。

メダカ。フナ。それらの魚影が半透明の水中を横切るを見たが最後、ボクは完全に度を失い水中に両腕を投入、出来もしない魚の素手取りにノボセ上がる。当然獲れない。網などボクは持ってない。買ってもらえない。そんな物を与えるは両親にとって自滅行為。それは我が子への死の罠、悪魔の思うツボ。

池の水を児童自動洗濯機と化し、やみくもデタラメにかき回しただけの徒労。愚かなサルは絶望と失意で、池水面につかる周囲の樹木枝を無意味に激しく揺さぶりながら、オーイオイ、さめざめと泣く。その世にも悲しい幼児のメロディ聞きつけた周囲の小鳥達、涙を目にたたえ笑い狂う。「ブァ~クゥワァァァ~!」。

その時、ガキンチョの全身に電流が駆け巡った。何だこの感触は?!。何という奇跡?。マジ?。ボクの裸足の右足が間違いなく踏んづけているようだ。恐らくフナを!!。フナぉぉぉ!!。ボクはゆっくりと腰を落とし、右手を水中にソッと突っ込み、踏みつぶしているフナを掴もうと体をクの字に。

とッ。届かないッ。くそう…。ゆっくりと水没してゆくボクの顔。少しだけ足を上げフナを掴もうとした刹那、それは瞬時に失われた。失われたのだ。すっかり、全くもって失われた。イノシシのウリンボが半狂乱で突進するかの様に、愚か発自暴自棄プンプン園児列車、岸に上がるや力尽き、脱線。

そのショックは数日経っても失われない。キリスト自らが降臨し、哀れなる園児の前に差し出したフナを、自らの手で叩き(はたき)落としてどうする。この屈辱的なる怒りを聞いてくれる人間など、ボクの周囲には1人もおらず。異常行動をとるならチワワでも恐い。そんな感じだったのだと思われる。ともかく、ボクの憤懣(ふんまん)やるかたない感情は自身の中で逆流を続け、まさに一触即発の状態であったのだろう。

初夏の夕暮れ。夕涼みの為にあつらえられた様な風、心地よいせせらぎの音。川べり流す数名の人達が交わす目のやさしさ。くつろいだ微笑み。と、山がシルエットになる直前、それが起きた。

アホンダラ幼児が、眼下4メートルの水面を食い入るように凝視している。水深約1メートル、澄み切った川の流れは緩やか(ゆるやか)。1尾の野鯉が川縁でゆっくりとくつろいでいる。大人の誰かが「大きな鯉だなぁ。丸々と太ってるじゃないか」。次の瞬間だった。声の持ち主はオノが見た光景を一生忘れることはないだろう。いや、忘れぬばかりか孫子の代まで語り継ぐよう遺言するやもしれぬ。

ほぼ垂直に園児が落下。いや、落ちたのではない。ボクは野鯉を捕獲せんと彼の上に降下したのだ!。

どぶぉぉ~ん!。「子供が落ちたァーッ!!」

すっとぼけて夕暮れの癒しタイムを過ごしていた薄紫色の見事な野鯉は、突如化け物に全身を羽交い絞めされ総毛立つ!!。むろん、鯉に毛は生えていないのだが。♪ ボクはキミを死ぬまで放さないぞ。いいだろ?と加山雄三(君といつまでも / 曲中モノローグ歌詞)に激しく共感するボクの情念を見たか?!。暴れようにも完全に全身を猿の手足でロックされた鯉は悶絶寸前、ボクと鯉とで代わりばんこに水中、水上、くるりくるりと繰り返しながら流されてゆき、2人の先に待つは深さ3メートルの滝ツボまがいのチョッとしたダム(?)。

半狂乱でかけつける母の肩を支えるは近所のオバサン。彼女の夫が現場に居合わせ、サンダルのゴム紐切かけながらも、風雲急を告げに舞い戻ったのだ!。その彼に先導され、母とお友達は髪振り乱し現場に到着。10人程の人だかりか。果敢にダイビングし、溺れる園児を低い堀の岸辺まで引き上げた功労者は30代のイケメン男性。ヒーローが「お母さんですか?!、大丈夫ですよ!!」と指さす先、

気絶した野鯉を羽交い絞めにした猿が全身ずぶぬれで横たわっている。

「▽▽!!、大丈夫ッ?!」。一瞬、薄目開け母の顔を見やる。すぐ目を閉じる。なるべく苦し気な表情をしていた方が得策なのだ。怒られないためには。

 

◆写真タイトル / 私は鑑賞用

 

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珍味と虫 /子供の食事しつけ

幼稚園の帰り道、といっても我が家とは全く反対方向なのであるが、ボクは見知らぬ景色の中、見知らぬ同世代と出会った。彼は栄太郎の扇雀アメの様な輪郭を持つイケメン園児であった。

どんなキッカケでコンタクトを持ったのかは記憶にないが、ボクは彼の自宅へ言った。というより彼の家族が営むカマボコ屋へ連れていかれたのであった。

むろん、ボクには何の店であるか皆目見当もつかない。アメは母親らしきものと店奥でヒソヒソ喋っていたが、母親とアメが同時にボクを見たのでギクリとする。何かボクの悪行が発覚したのであろうか!。しかし唸り声上げても何ひとつ思いつかない。知り合って10分、2人の間には未だ何のエピソードもない。悪事の数々を犯しているヤサグレ園児には、こうした陰鬱(いんうつ)な後ろめたさが付きまとっているわけだ。

何やらアメが、新聞紙にくるまれ湯気を上げているものを2つ手に持ち戻ってきた。「これあげる」「何あにコレ」。ボクは渡されたソレをしげしげと見つめる。「イカだよー。おいしーよー」といって食べ始めるアメの唇はたちまち油光り、熱いのかハファ、ハフゥ!、とアゴ突き出しながらムサぼっている。

イカとは何だろうか。ボクが手に持つコレは一体いかなるものであろうか。ボール紙程の厚みがある薄茶色の勉強下敷き大のコレがイカ、というものなのか。それは、ふにゃふにゃした天ぷらのコロモのようなものに包まれ湯気を立てている。つまり、珍味などでよく見られるイカ天だったのだ。バリボリと固いソレを食べるものだが、揚げたては非常に柔らかい。そんなこと、ボクには知る由もなかったのだが。

ひとくち食らいつき、もちゃもちゃとせわしなく噛んでいると、突如、骨の髄(ずい)まで、脳髄にまで染み渡るようなメガトン級の旨さがボクをメチャメチャに揺さぶった。産まれてこのかた、このように旨い物を食べたことなど1度もない!。ボクは猛然と食べ始めた。親の仇でも打つかの様に、唇、頬を油まみれにして、ろくすっぽ噛まず、まだ口の中のソレが飲み込まれる前に、次々とイカ天を口の中に送り込んでゆく。

「ヒィィェック!!、xxxxxxxxヒェェェック!!」

突拍子もなく始まったボクのシャックリ音にアメがハッ!っと顔を上げた。

「ヒィエヘ、エック!!、エック!!」。弓なり反り返り胸元をコブシでパンパン叩くボクを見たアメ、喉に詰まったのだと察知、店奥にダッシュ!。アメもかなり動転していたのであろう、ゴハンが3分の1ほど入ったお椀に水を半分ほど入れて戻って来た。それを引っ掴みラッパ飲み!。勢い込んだせいであろう、水が両鼻の穴に流入!。「平気?」と優しく声をかけてくる上品お坊ちゃまの顔にボクの口から逆流放水!。

「ゲェハハハーッ!!、ウンゲッ、ハハーッ!!」

激しく咳き込む、いたいけな児童の悲鳴を察知したアメの母親がゾーリの音を荒々しく引きずるように登場。「何ッ、どうしたのボクッ!、大丈夫?!」。ボクの制服の胸元がビッショリなのを見たお母さん、ボクが右手に握りしめている食べかけのイカをモギ取って脇のテーブルに置き、ボクの服をタオルで拭くつもりだったのだろうが、ボクの手からイカを引き離せないことに驚いてはみたものの、それは諦めタオルを使い始めた。「むせちゃったのかねー。あんまし急いで食べたらダメよお」というそばから再び夢中で食べ始めている学習なしの姿に、ゴハン粒散りばめた我が子を見やり「この子、どこの子?」と聞いた。「えっとネェ。…………。道端にいたの」。

虫。

 

◆写真タイトル / どこの子?

 

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