封建主義をご存知?

Title : 風向き任せのウサギちゃん

 

 

エディー・マーフィーといえば『48時間』と『ビバリーヒルズ・コップ』。通常の流れとして犯罪刑事ものでブレイクした場合、しばらくはその線で行き実績を築き上げるのが手堅い。当然映画会社もそう望む。本当にやりたいことは力を蓄えた後。

当時アメリカの街は犯罪のるつぼだった。エディー・マーフィーはコメディアン出身、犯罪映画は数ある他の作品に任せ自身は人に夢を与える作品を作りたかったのだろう。実際にそれを押し通したのだから映画会社との軋轢 (あつれき) も厳しいものだったであろうと推察する。

ポール・サイモンもS&G解散後のソロアルバム制作中、いつまでお遊びやってるんだ、早くS&G時代の歌を作れとレコード会社経営陣のバッシングに晒された。当然聞く耳持たず信念を貫く。でなければその後の栄光はなかった。

『ダーティ・ハリー』シリーズがブレイクしているさ中、クリント・イーストウッドはアメリカ版プレイボーイ誌のロングラン・インタヴューの中で、

「あなたの映画の悪影響で若者が犯罪に走っていると指摘する声もありますが」

の質問に彼はこう答えている。「ふざけるな」

その後の監督としての彼の栄光は語るまでもない。人間の本質に迫る研ぎ澄まされ選び抜かれた主題はダーティー・ハリーとは好対照にある。

映画『影武者』出演後、故根津甚八はアメリカの俳優養成所であるアクターズ・スタジオに招かれ俳優の卵達との質疑応答に応じた。やりとりするうち、彼ら彼女達の顔から血の気が失せ、非難の眼差しが彼に集中する。根津氏は正直に卵達と向き合い事実を語ったからだった。

日本の役者は役作りに於いて自分の裁量など全く持ち込むことなど許されない。全て監督のイメージ通りに演じるだけだ、と。勝新太郎氏が役を降板したのもその理由によるものだと。

卵の一人が厳しい口調で質問した。

「役者は監督の人形に過ぎないという事ですか」

根津氏は追い詰められた顔をこわばらせ絶句したが、誰の目から見ても彼は全身で答えていた。

 

YES

 

日本に於いては、歌手も俳優も売れるか売れないかが全て。本人達の意向ではなく業界の価値観。意に反する仕事も断れば生意気だと言われ干されるか二度と仕事がもらえない可能性が高い。もっとも最近の若者達は要領よくそれらの要望にお行儀よく呼応する。

視聴者の多くも誰もそんなことには興味も関心もない。おかしいのではないかと言う者は業界にも視聴者にも冷遇される。