クリスマス・イヴにカサゴの贈り物

ドラマチックな魚のアタリ(魚がハリ掛かりした時のアクション)や胸躍る魚との攻防を楽しみたい釣り師達にはカサゴの人気はサッパリです。無理もなし。メジナであればハリ掛かりした途端、海底向かって一直線。急角度に潜ろうとしますから、勢い糸はグーッっと引っ張られ竿先が弧を描いて強く引き込まれます。ヒッジョーッにドラマチックなアタリです。スズキであればハリを飲み込むか唇にハリ掛かりした途端、流線形の銀色ボディをギラつかせ、泳ぎを一気に加速!。当然糸は引っ張られ、竿先にグググググーッっと遊泳力が加えられ、一気に人と魚の一進一退攻防がスタートします。小アジやイワシはハリ掛かりしてすぐ、いとも易々と竿片手上げ。ですが、全身をピチピチと激しく振りながら上がってきますから、魚を釣った臨場感はタップリ味わえるというもの。それに引き換え、カサゴさんは。

海底で動くエサにバクッ!。眼にも止まらぬ一瞬の早業(はやわざ)!。ビックリ仰天の大口開きで丸呑み!。エサを仕掛けではないかと警戒し、ツンツンと軽く口先で突いてみる、チョコッとだけカジッてヤな感じがしたら食べるのをやめて泳ぎ去る魚種が多い中、カサゴさんは米粒大の警戒心も用心もまるで無し!。

「アナタは何故、そんな危険な想いをしてまで山に登るのですか?」と登山家に質問。登山家いわく「そこに山があるからだ」、という有名な金言がありますが当に(まさに)ソレ。カサゴさんは目の前に来た餌に反射的に飛びつくようにインストールされているんですね。「そこにエサがあるからだ」なのです。で、バクッと口に入れたのは0・0何秒の神業ですから特にアタリが出ないのです。何の気なしに竿を上げたら釣れていた。しかも糸で巻き上げる間中、直立不動の気を付け!ポーズを崩さない(時にUの字シャチホコ不動の場合あり)。これでは魚の引きを味わいたい人には面白くも何ともありません。

カサゴさんがジッとしている海底の居場所が特定されてしまえば、カサゴさんは次々に釣られてしまうことが多くなってしまいます。その結果、あちこちにあったカサゴさんのネグラはモヌケの殻となり、その釣り座からカサゴさんの姿は完全に消滅してしまいます。何故なら、カサゴさんやメバルさんは成長が非常に遅い魚種なのです。成魚になるのに5~6年もかかります。

釣りを始めたばかりの頃、どんな小さな魚でもいいから1尾釣りたい!と、ある年のクリスマス・イヴ、誰も居ない漆黒の釣り座で寒風に打ち震えながら1人釣り糸を垂れていたことがありました。潮は長潮。長潮は満潮と干潮の差がほとんどなく、魚が最も釣れないと言われている潮回り。ボクはそんなことさえ知らないド素人でありました。横殴りの風が霧雨を乗せ始めた頃、体は芯まで冷え、悲しくて涙がこぼれ、もう帰ろうとションボリ顔でリールを巻き始めた刹那です。

重い…。すごく重い。ボクのオモチャのような小さな釣り竿だからです。凄く重く感じたのは。堤防の壁の上、上がってきたのは直立不動のカサゴさん!。まるまる太った見事な魚体!。25センチの大きさは(帰宅後測定)その時のボクにとってはマグロを釣ったに等しい大きさでした。嬉し涙をぬぐいながら口からハリを外そうとしますが、微動だに動かないカサゴさん。仰天した目で大口開けたまま、タヌキ寝入り?のカサゴさん。気絶してしまったの?」。

クリスマスの奇跡。ジーザスからの贈り物。この時の1尾がなかったら、あの夜を境に、ボクは釣りをやめてしまっていたと思います。

追伸。 やめてもらいたかった。  カサゴ。

 

●写真上。珍しく日没前に釣れたカサゴ19センチ。写真下の2尾、大きい方が32センチの大物。まさにド迫力の大口!。スパイク天秤25号に50センチ仕掛け、ハリス3号吹き流し。カサゴ鍼(ハリ)。餌はイワシのミンチの中にアサリむき身を内蔵。

 

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