この写真はメジナです。堤防釣りをする人には古くて新しいお友達。体格差なりの重量感があって、アタリ(魚が掛かった時のリアクション)があると、釣り人らに「んッ!!、結構デカいんじゃないかコレは?!」と罪深い夢を抱かせやすい魚でもあります。メジナは大抵、堤防コンクリート壁に張り付くように居ます。昼でも夜でも釣れます。ウロコは異様に硬くて包丁で卸す時はバリバリ音がする程です。岸壁の重戦車、といった風貌。すごくおいしいと言う人と、磯臭くて苦手と言う人に分かれます。堤防で釣れるメジナは大体10センチから40センチ前後、25センチ前後が釣れるところををよく見かけます。ボクはムニエルにして食べるのが大好きです。
メジナには色々な思い出がありますが、ここでは印象に残った愛らしいエピソードを紹介したいと思います。
ハイヌーン、八月灼熱の釣り座。長さ約300mほどの堤防に20名程の釣り人達。大学生から壮年まで、ジリジリと肌焦がす炎天下に歯を食いしばりつつ竿さばき。しかし過酷な暑さが皆の口を開かせてしまう。鼻の孔からだけではダメだ、口からも酸素を吸収しなければッ…。
首にまいたタオルは既にビチョ。それでも額から噴き出す汗を、無意味と知りつつソレでぬぐい取るボク。ぬぐった傍から等分の汗。額をぬぐう時に麦わら帽子が上に押し上げられアミダかぶりとなるのだが、その図をボクは愛せない。またそういった姿になっているのかと思うとガッカリだが、誰も人のことなど見てはいない。暑さの中ガンバっているのに誰の竿にも魚が来ない。ボクら同様、さっきまで辛抱強く繁みで待機していたネコも、小アジのおすそ分けを断念し席を立ってしまった…。
これはホビーとは程遠い。もはや苦行以外の何物でもない。釣り人達が密かに恐れる魔の刻、まさにそれが今なのだ…。そう思った時、ボクの隣にオジイチャンと孫娘が到着。赤銅色に日焼けしたオジイチャンとピンクのTシャツ着た小学2年生くらいのオチビちゃん。ああ…また犠牲者が…。苦行フェア開催中です…。
ボクの竿から5mほど離れたところに置き竿、オジイチャンはそそくさと30センチ幅のフェンス影まで撤退。竿元で元気にピョンピョン跳ねているオチビに手招き。オチビ無視。子供の言い知れぬパワーには脱帽だぁ~、と左腕に噴き出した大量の塩を右手ではらうボク。
「ジーチャン、釣れたよ!、お魚釣れたよ!」
周囲の釣り人達の眼が一斉にけだるく注がれる。置かれた竿は真っすぐ。竿先がしなってもいない。ということは10センチくらいのが掛かったということね?。
オジイチャンがリールを巻いて仕掛けを上げる。何もついていない。オジイチャンは黙って仕掛けを海中に戻し、オチビの手をひいて荷物置いたフェンス前まで撤退。その手を振り払い、オチビは再び竿元へ。一呼吸あって、
「ジーチャン、お魚釣れた、釣れたよー!」
今度は誰も反応しない。オジイチャンを見るとバッグの中から菓子パンなど取り出している様子。孫娘のことは無視。まあ、当然だなと腕の塩を舐めてみるボク。辛い…。その後、オチビはホラ・パフォーマンスを5~6回続けたが、流石に飽きたのかオジイチャンの横に座り菓子パンを食べ始めだす。2人が来てから約15分?。
突如、オジイチャンの竿先に取り付けたスズが鋭く鳴った!!。
周囲の釣り人らの顔が一斉に竿先に向けられた。竿先は今にも折れんばかりの弧を描き、激しく小刻みに震えているではないか!!。脱兎のごとくはせ参じる2人!!。釣り人らの視線浴びる赤銅のカイナがリールをせわしなく巻く!巻く!巻く!!。
前身を大きく振りながら宙に飛び出した黒い魚体!!。メ・ジ・ナ!!。
オチビ無言。しかし、そのホッペは紅潮し、メジナぶら下がる重い竿をぶら下げ海水バケツへ素早く戻るオジイチャンと一糸乱れず足並み揃う。しゃがんで仲良くバケツ覗き込む2人の後ろ姿。気持ちは分かる!!。サイコーッ!!。
途端に釣り人達の動きが活発となる。当然ボクも。折れていた心に喝ッ!!。
30分経過。釣り座は再び苦行一色。あれから誰も、何も、釣りあげない。ふと見るとオジイチャンとオチビの後ろ姿があんなに遠く。手をつないで何かを話しながら。やがてその姿はフェンス角に消えた。ほろ苦い脱力感でボクは呟く。
魔法のジュモン、ボクちゃんにも教えてえぇ~。
◆写真(上)のメジナは28センチ。下、メジナ24センチ2尾。共にドングリ浮き2Bにハリス2号吹き流し、浮き下3m、上げ潮、夕方5時前後の釣果でした。これはオジイチャンとオチビちゃんの釣果ではなく、後日ボクの釣果です。
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