Title : 泣きボクロのあるオッサン
「古き良き時代、昭和アゲインてダメか。
“ お茶の間 ” アゲインてダメなのか」
と、ゆらゆら錯覚でボールペンがフニャフニャに見える小学校時代の
慣れワザを何気に行いながら不機嫌そうに入社3年目のカトー。
相対するは、PC画面から目を離さないばかりか、
マウスパッドさえも瞬間接着剤で机に張り付け、
ソレを未だ上司に気づかれていない
妙に幸運な中途入社1年目のスドー。息巻いて言うのは、
「 “ おチャットの間 ” で何が悪いんだ。
それに昭和を古き良き時代って言うけどなー、それを言うなら、
昭和の古き良き部分だけアゲイン、て言わなきゃ片手落ちだぞ。
令和だってだなー、新しき良い部分が目いっぱい有るんだから。
昭和だけが素晴らしくて令和の方が落ちる、
なんてのは歪んだ懐古趣味なんだよ」
「またヤッテるわ、あの2人。くッだらないことで熱くなんのよね。
こないだ横通る時に聞こえたんだけど、カツ丼が縁起担ぎなら
負けた時に食べるマケ丼は何なのかって、
凄いリベートだったんだからー」
と、机に立てかけた鏡に写るサイドヘアの枝毛を
ミニ携帯バサミでカットしている入社3年目のイトー。
「ホント、生産性ない事この上無しよね。アタシ達みたいに
暮らしの実用性向上に向けて日々家庭の利便性図る
なんてこと考えられないのか」
とキーボードの溝に転がり落ちた
昼食のパンに散りばめられていたナッツのかけらを
綿棒ですくい上げ
何とか食べられないかと試みている
入社3年で寿退社後、離婚して出戻ったばかりのサトー。
ヘラヘラしながら言うには、
「利便性っていえばサー、昨日会社帰りに
シンパシーのお店で遂に見つけちゃったァー、二重タオルで透けないのに
通気性バツグンのバスタオル~!」
そこへ、嫌われるのも承知でザルソバ出前のウツワを足元に下ろしながら
拍子に落ちたツマヨウジを片足で机奥へ蹴り隠し
女子会話に割って入る
勤続何年目か未だ不明の課長ムトー。重厚な口調で、
「通気性バツグンってTバックのことか。
フンドシだってTバックなんだって、オレ言わなかったか?。ハン?。
通気性で言えば木綿のフン…。
OL2人は侮蔑退席。
入れ替わる様にムトーの前、音によるパニック障害に悩まされ続け
僅かな打開策として片耳だけにイヤーウイスパー ( 耳栓メーカー名 ) を
ネジ込んで危機に備えている入社4年目のクドー。ぶっきらぼうに、
「課長。こないだ連れていって頂いた店、引き分け丼ていうのが
メニューにあるって本当ですかね」
「引き分け丼?。誰が言った」
「スドーが聞いてみてくれと」
「引いて分けてあるということならウ丼だろう」
「ウドン?。…それは、あの麺類のウドンですか」
「違うのか。他に代案あるのか。え?」
「いえ。了解です」
ワーワーやっているカトーとスドーの席に課長の見解を伝えにゆくクドー。
途端にもの静かになる社内。
タイミングよく就業開始ベルが鳴った。
各々が着席。