「仮名子(かなこ)、成人式どうだった。皆と楽しんでこれたのか。お酒飲んできたんだって?。晴れて飲めると気分も楽だろ、はっはっは」
「まあ通過点のひとつにすぎないけど、ケジメっていうか、まあまあだね」
「お前の指紋は何型だっけ?」
「え?。指紋?。何それ。意味分かんない」
「分からない?。じゃ成人式出席は一体何だったのかな?。お土産目当て?」
「お父さん、気は確か?。シラフでそれだと娘やってられないから私」
「お前が気は確かかだ。自分の血液型知らない大人が居るか?。いざ献血って一刻を争う時に大変なことになっちゃうんだぞ。指紋だってソレと同じだろう。何故オレの娘がそんなこと分からないんだ。あ?」
「お父さんの娘だから分からないでしょッ!」と背後から妻(青菜)の罵声。
「オレ1人で作ったわけじゃないぞククク…。そんなことより仮名子、マジメな話、指紋は大きく分けて弓状紋と蹄状紋、渦状…
「だから何?。指紋で献血しないでしょ?。何?、スマホの指紋認証とかのこと言ってる?。指紋盗まれるから管理しろって言いたいの?。管理出来ないけど…、ああ、指紋認証の後、すぐに指紋拭き取れって言いたいのかな?。指紋知ってなきゃいけない意味って何?」と息巻く仮名子。
「指って大事だろ?。なのに指紋は関係なしか。自分の指紋と他人の指紋の区別がつきませんけど何か?、ってか。無責任な奴だなあ、ッたく」
「お父さんのDNAって何型だっけ。ちょっと教えてよ」
「DNA?」
「だってお父さん、人間としての自分て大事でしょ?。血液型よりよっぽど大事かもしんないよDNA。なのに自分のDNAと他人のDNAの区別がつきませんけど何か?、ってか?」
「それは調べたくても調べられないんだよ普通は。薬局にDNAの検査キットが売ってればオレだってすぐに調べるよ、そんなの常識だ。それと指紋は全然話が違うだろう。見えてんだからな指紋は。見りゃ形だって分かるだろ?。そしたら調べれば分かるじゃないか、自分の指紋が何型かって。おおまかだけどな」
「だから調べて何か意味があるのって話なんだってば。やアだア、このヒト!」
「アメリカのハリウッド通りにスターの手形が押してあるだろ。あれには指紋がないんだ。あったら指紋認証で悪用されてしまうからな。そのくらい重大なことなんだ指紋の話は」
「家じゅう皆の指紋だらけだよ。悪用し放題なんじゃない?」
「ちょっと、この粘土にお前の指、押し付けてみてくれ。オレは父親として娘の指紋の型を知っておきたいんだ。成人した記念にな」
「そうなの?」
「ああ。人差し指のだけでいいから」
黄色平(いえろへい)は自室に鍵をかけると、自分のゴルフクラブにクッキリ付着した正体不明の指紋と、粘土についた娘の指紋をあらゆる角度から検証し始めた。
「オレのゴルフクラブをこっそり使ってるのは娘じゃない。ニョ-ボの方か!」
◆写真タイトル / 疑心暗鬼