Title : 切れたリボン
汽車。電車。そして、駅。
ただの…単なる移動手段にすぎないのに。
人が乗り、そして降りる。ただそれだけの場所でしかないというのに。
頬を伝う涙。
こらえきれずにしゃがみこむ人。
ちぎれんばかりに振られる手。
その姿を視界に入れたその瞬間、
こみあげてくる喜びに、悲しみに、
駆け出す人…。
恋人よ ボクは旅立つ 東へと向かう列車で
華やいだ街で君への贈り物
探す 探すつもりだ
〈太田裕美 / 木綿のハンカチーフ〉
憧れ、希望、夢の実現。
向かう人の想いは、残される人の心を覗き見るゆとりなんてない。
残される者が精一杯作ったガラスの笑顔を
単なるお祝いの、祝福の笑顔として受け流す。
やがて汽車は動き出し、
見送ってくれる人の姿が視界から失われると同時に、
残る人々の笑顔は行く人の気持ちから消失する…。
花嫁は夜汽車に乗って 嫁いでゆくの
あの人の写真を胸に 海辺の町へ
命かけて燃えた 恋が結ばれる
〈はしだのりひことクライマックス / 花嫁〉
この歌のイメージに、見送る人達の姿はない。
彼女は何もかも捨てなければ許されない窮地に追い込まれ、
そしてそれらを断ち切った。
どんな人も一生の中で必ず運命を左右する選択を迫られる時がある
と聞くが、無い人も、当然存在する。
駅のホームのはずれから そっと別れを言って
それで愛がはかなく 消えてしまった
〈伊藤咲子 / 乙女のワルツ〉
見送る人に気づかない人。
見送られる彼は愛する人と旅立つ。
残された者は引き際を心得ている。
いや、心得なければならない立場。
まっすぐな恋がしたいなら、引き際は掟。おきて。
あの人から言われたのよ 午前五時に駅で待てと
知らない街へ ふたりで行って
一からやり直すため
〈麻生よう子 / 逃避行〉
示し合わせて逃げる。
旅立ちではない。逃走だ。ランナウェイだ。
関わった人々を裏切るのかもしれない。
そして最後にはかけがえのないはずの人にまで裏切られてしまう。
喜びと悲しみは紙一重、
でもそれは、すぐに表も裏も同じ模様に変わってしまう。
表も裏も、涙で濡れている。
今夜の夜汽車で 旅立つオレだよ
あてなどないけど どうにかなるさ
〈かまやつひろし / どうにかなるさ〉
連れのいない旅立ち。あてのない出発。
それは、果たして旅立ちって言えるのか。
単なる移動。それなら気楽。そして空しい。
そしてサッパリ気分。
サッパリ気分て空しい?。悲しい?。さわやか?。本人次第?。
改札口できみのこと いつも待ったものでした
電車の中から降りてくる きみを探すのが好きでした
〈野口五郎 / 私鉄沿線〉
旅立ちの出発や到着ではない、日常の句読点。
毎日必ず出かけて、
そして必ず自分の元へ戻って…く………。
…………………
何がいけなかったの?
だれもが知っている。
喜びの、悲しみの、駅。
誰もが口ずさむ。
数え切れぬ程ある駅にまつわる楽曲。
誰もが書かずにはいられなかった。特に、
特に、
悲しかったって…。