Title : 涙チョチョ切れシズクマン
「若者が口にしなくなった言葉って何だろうかね」とイナズマンは言う。
「青春、明日、若者、ナンパ。Gパン、レイバンのサングラス、バックスキン(靴)。柔肌、ラブレター」とレインマンは答える。
「今、掲げた言葉はみな流行語なのか普遍的若者代名詞なのか」とイナズマン。
「平成初期までは代名詞だと思っている者もかろうじて居たようだ。今は絶滅確認代名詞宣言をしても差し支えないだろう」とレインマン。
「今、明確に若者の代名詞と成り得るものを教えてくれ」とサンライズマン。
「残念ながらない。多様性の時代に入り、十派ひとからげのひとくくりは不可能となった。良い事だ。1人1人が自分の意志に忠実になった」レインマン談。
「待て。言葉による表現力はどうだ。コチラは画一化の極致を迎えた風に思えるが。ヤバイ、スゴク、ユルイ、癒される。これだけで何でもかんでも済ませてしまっている風に感じられるが」とメットを脱ぎながら遅刻のクラウドマン。
「それだけあれば何の問題もない。主観が特化した新しい人間達なのだ。他人に関心がない。第三者を認識しない以上、もはや客観性は必要ない」と丸男。
「君は誰だ。これは内輪の会議だ。関係者以外は立入禁止だ、出てってくれ」とマスクの下からくぐもった不快感あらわなイナズマン。
「どこから入って来た」とサンライズマン。
「サイトなら何処からでも侵入可能だ」と緑茶ペットボトルのキャップの閉まり具合を確認しながら丸男。
「いいだろう。今キミが語った客観性、もう少し詳しく続けてみてくれ」とクラウドマン。
「若者達の流行り歌の歌詞を聴くがいい。昔と顕著に違うのは、身の回りや自然、都会、何でもかんでも様子や有様を描写しない、というのが特徴だ。
丸山恵子の ♪ どうぞこのまま ♪ の詩中、♪ 曇りガラスを伝わる 雨のしずくの様に ♪ 、だとか、
大橋純子の ♪ 黄昏マイ・ラブ ♪ のような、♪ 夕立が白い稲妻連れて 悲しみ色の日暮れにしていった ♪ 、
に見られる様な状況描写がない。
サザンオールスターズの ♪ 真夏の果実 ♪ といった比喩もあまり使わない。作詞家の問題ではあるのだがね。
タメグチをそのまま歌ってもあまり歌詞とは言えないような気がするのだが。これは私が年寄りだからかもしれない」とそこまで言って緑茶ペットボトルを発作的に激しくシェイクし始める丸男。
「だからかもではない、年寄りだ。…うるさい、それを振るのはよせ」とシェピハド・イナズマ光線を放つ時の両腕卍ポーズをとるイナズマン。
「逆に永遠、だとか、いつも笑っていたい、とか、君のそばにいるよ、といった意味合いの歌詞が非常に多い。昔よりも若者の置かれた環境が厳しいのだろう。悲しくて立ち止まり途方にくれている姿が思い浮かぶ。誰かそういった若者の姿を目撃した者はいないか!」と突然立ち上がるレインマン。
「座れ!会議室をびしょ濡れにするつもりか!」サンライズマン談。
「すまない。この部屋にジューン・ブライドなど居はしないというのに…」
「誰も見ていない。若者達は地下に潜ってしまった。外で彼らのソウルを見かけることなど最早不可能だ」
「では誰が助けを求めているか我々には分からないではないか。一体どうする」と突然ドアが開き転がり入場するアイダホマン。
「アイダホマンよ、窮地に立った若者が我々を呼ぶ際に空めがけ発射するレスキューボンバーはどれだけ若者に配れたッ」と身を乗り出すクラウドマン。
「朝登校時、学校の前で配ろうとしたが監視カメラで不審者通報され、駅ではラッシュアワーに揉まれ誰1人として手渡すことが出来なかった」
「どうすれば我々は彼ら彼女らを救うことが出来るのか!」とイナズマン。
「過去の人気実績さえあれば商品フィギュアとなって彼らを癒せる。それが我々の新たなる救出方法だ。此処にいる全員は商品化価値がないのだが」とアイダホマン。
しかし彼だけは唯一、フィギュアでこそないがポテチのイラストに使われている。じゃがいもの後ろに小さくではあるが…。