Title : 駄菓子屋の親子酢ダコ
二月雪の昼、今春小2の悟は父親浩二に連れられ洋食屋に入店。
「パパはカツカレーにする。お前は何にする。もう決めた?。オムライスか」
「ボク、まだ味覚がないから、ビーフストロガノフっていうのにする」
「味覚がない?。どういうことだ、一体どうした、舌がシビレてるのか!」
「違うよ、“ 味を覚える ” のが味覚なんでしょ?。まだ食べたことないもん。
パパはカツカレーの味を覚えてるから、確信をもってカツカレーに味覚があるって言えるんだよね…。
いいなァパパ……ボクなんてストロガノフの味覚も未だにないんだもんなあ…」
半ベソかく息子に多少驚きを覚えながらも、やさしく語りかける父。
「子供が食べるにはちょっと贅沢な料理だなあ。ママが知ったらパパ怒られちゃうよ。そんな覚悟出来てないなあ。エビフライとかじゃダメ?」
「パパはママがどんな時に怒るのか “ 覚えて悟った ” んだね、覚悟だなんてサ。悟るほどのことでもないような気がしちゃうのは、ボクが小学校低学年で甘いからなの?、パパ。
でもねえ…。お子様であるだけに、ボクはこれから色んな経験をしてかなくちゃならないんだ。だって友達は知ってるのにボクだけ知らない、なんてことになったら笑われちゃうよ。
“ 視覚的 ” って見て覚えること、覚えたことでしょ。ストロガノフはボク、視覚的にオッケー。今、メニュー写真見て、懸命に細部に至るまで覚えようとしてるから」
「パパはお前の言ってることが、あまり良く分からない。クリームコロッケはどうだ?。食べた事あるから味覚あるんだろ」
「うん、何回も食べたから味覚は知ってる。おや?、これおかしいよパパ!」
「何が」「だって知って覚えると書いて “ 知覚 ” なんでしょ?。英単語なかなか暗記出来ないボクって、知覚が弱いってことなの?!、ひどいよパパ!」
「涙を拭け、ホラ、このナプキンで早く。…いいか。知覚と暗記は別物なんだ」
「同じだよ、全く同じなんだよパパ、ボクにとってはね。だってサ、
暗記って暗く記すって意味でしょ?。何回も同じ英単語をノートに記してゆく時、ボクすごく暗い気持ちだよ確かに。あんまり覚えられないし…。知って覚えないボクは知覚が弱いってことなんでしょ。ひどいよパパ…(涙目)」
「知らなかった。お前がそんなに、このことでナーバスになっていたなんてな」
「ボク、知覚過敏なんだって。ママに言われた。そういうことに敏感すぎるって言われた。気の持ちようだから、英単語は暗記じゃなくって明記しなさいって。明るくほがらかにノートに記せば気分も晴れやかでスラスラ覚えられるって」
「そうか…やはりな…。お前はママ似なんだ」
「うん。それは自覚してる」