Title : どうぞこのまま、は楽なまま
“ 新しい始まりさ ” と “ どうぞこのまま ”。
相反する願いは常に人々の心の中でせめぎ合う。
故に、古きを知らず新しきことのみ知りたがる日本人にさえ、
雨が大地に浸み込むように,
密やかに歌い継がれているのだろう。
あせた夕日に包まれて 今 昔のボクを捨てよう、
と歌われるサンディーの ♪ GOODBYE・MORNING。
それは馬鹿げた憧れか
冷めたコーヒーのようなもの
だからいつまでも このまま
と歌われる丸山圭子の
♪ どうぞこのまま。
沈みゆく色褪せた夕日と、真っ新な白いスケッチブックのような朝焼け
との対比。この楽曲は旅立ちを意味する。
熱いコーヒーが憧れの香りなら、冷めたコーヒーもまた、
色褪せた夕日なのか。
だが、丸山圭子は時の移ろいを経過を語らず、
あせた夕日の代わりに曇りガラスを伝わる雨の滴の様に、
と心の空模様をなぞらえてみせる。
降りやまないで欲しいと。こちらは明らかに見送る側の楽曲。
沈む夕日から始まりの朝焼けへ。
時は流れて、今ではキミの面影を忘れてしまったよ、と語る主人公。
冷めたコーヒーを再び火にかける者はいない。
どうぞこのまま、の願いは
夕日と朝焼けの繰り返しとは明らかに違う。
時の経過による変化に抗おうとする、
どうぞこのまま。
けだるくアンニュイに、今の現状に留まる自分に固執する心。
変わりたくはないと呟き続ける気持ち。
どんなに技術革新が起ころうとも、
人の心ほどアップグレードやバージョンアップが難しい物はない。
理路整然とした方程式を、
いともたやすく感情が却下してしまう。
どうぞこのまま、を指示する人。
明日は全てが変わるだろう、新しい始まりさ、を指示する人。
現状維持か現状打破か。
これほどの二極化を、
かつて日本人は今ほど経験してはいない。