Title : あのねぇ、吸水性の高いこの手ぬぐい、二枚目なの
近年のJポップ楽曲歌詞に見られる残念な傾向、
という前日の投稿記事の補足参考として、
具体的な要素満載の歌詞、その典型例を紹介したいと思う。
共に ♪ なごり雪 ♪ で知られる伊勢正三作詞によるもので、
南こうせつとかぐや姫というグループ名になる前の作品。つまりは無名に等しかった初期の作品である。
◆ 離婚歴三回 歌 / かぐや姫
冷蔵庫の様に冷たくて カツオブシのように堅くて
針金の様に細くて ゴキブリの様に忙しく
健さんのように強くて カマキリの様に恐ろしい
彼女が最初の奥さんでした
ざるそばみたいにさわやかで キャバレーのようにあでやかで
蛍光灯みたいに明るくて クリープみたいに色白で
ふんどしみたいにかろやかで かぐや姫みたいにグラマーな
彼女が二度目の奥さんでした
長嶋さんのように燃えやすく 茶碗蒸しの様に冷めやすく
入れ歯の様に味気なく 出前の様にじれったく
タクシーの様に憎らしく 天気予報の様にあてのない
彼女が三度目の奥さんでした
勿論、今の時代に聴くと問題である言い回しや表現が多々見受けられるが、この時代(1970年入口あたり)には何の問題にもならなかった。
自分はその人(歌中の恋愛対象相手)の事を良く知っているから聴く人にも思いが伝わるだろー的な独りよがりな歌詞に満ち溢れる昨今の楽曲。作り手の思いなど説明してもらえなければ赤の他人である私達に伝わりっこない。
怖い人だった、だけではどう怖いのか全く分からない。ゴキブリの様に、カマキリの様に、でアアなるほどね、と初めて伝わるのだ。
人に真意が伝わらない歌詞は歌詞ではない。独り言の呟きでしかない。
◆ 好きだった人
好きだった人 ブルージーンをはいていた
好きだった人 白いブーツをはいていた
好きだった人 ステテコもはいていた
好きだった人 Tシャツが似合ってた
失恋という言葉は知ってたけれど
失恋という言葉は知ってたけれど
好きだった人 金魚すくいがうまかった
好きだった人 ヤクザ映画に誘ってくれた
好きだった人 アベレージが102だった
好きだった人 ハンバーグを食べていた
失恋という言葉は知ってたけれど
失恋という言葉は知ってたけれど
好きだった人 強がりを言っていた
好きだった人 一度だけキスしてくれた
好きだった人 レモンをかじってた
好きだった人 海を見つめて泣いていた
失恋という言葉は知ってたけれど……
好きだった人がジーンズをはき白いブーツをはいていた。
ハンバーグを食べ、レモンをかじっていた。
別段どうということもない、ごくごく普通の事、
その一つ一つが強烈に目に焼き付く。しみる。
何度も思い出す。好きな人のことだから。
人を好きになる事の不思議。
こんなに簡単な言葉で、それを素直にさりげなく伝えてくれる。
アア、歌っていいな、と聞き手側も素直な気持ちになれる。
アア、自分が失恋したあの人はどんなだったっけ…と思いをはせ、
その時のことを思い出してみたりもする。
カレシの場合はカレーをよく食べてたなァ、だとか
ディズニーランドに誘ってくれたァー、
とかね。