Title : メグちゃん
Title : パチンコ丸シロー
朝5時50分。二階角部屋、四畳半和室、
飼い猫パチンコ丸シローの枕元、
湯冷まし時計の起床ベルがジャァーッ
っと鳴り始めた。シローはビクリと目を覚ますが、
マブタはまだ閉じたまま。
“
アア?……今日は身体がオモダルか?…眠い…… ”
数分その状態でグズグズしていたが、意を決し、両目まぶたに力こぶ。
「起床ッ!」
シローは、自室の押し入れ上段、開け放たれたフスマから
周囲をうかがうように顔を出し、
砂金入りのダンボオル・トイレ以外には何もない部屋
であることを確認してから、
パピーのオサガリであるヒートテック長袖下着二枚重ね寝床
の上で安心して顔を洗い始めた。
まず、右手を招きネコ状態にし
右指わきを丁寧にナメ回し、
それで右目マブタまわりを拭 ( ふ ) く。
続いて左マブタ。これを27回セット。
ようやく終えて満足気、軽やかに畳に降り立ったシローの耳に、突然、
「アンッ!、アンッ!、アンア、アンッ!!」
と激しく興奮し昂 ( たかぶ ) った幼犬の鳴き声が廊下から飛び込んで来る。
次の瞬間、
オッホホホそうなのよぅ~(爆)
と見知らぬ女性の超うれし声が聞こえ、部屋出入り口のフスマ穴から、
転がるように白いボーリング球がシローめがけマッハで飛び込んで来た!。
仰天し眼をむくシローに激突したボーリング球の正体は
真っ白な洋犬、
彼は嬉しさのあまり半狂乱になりながら
高速回転するドピンク色の舌で
シローの顔をベッロンベッロンとナメ回し、
感極まって半白目となり横転、甘えるように
「キュゥゥイ~ン」と鳴いた。
悪魔降臨のような一瞬の出来事、
ボーゼンと幼犬を見下ろしているシローに対し、
「ああら、メグちゃんたらッ!雑種ネコを
キレイキレイにしてあげたのねぇ~、偉いわぁ~!」
と見知らぬ女が入室、
ハアハア!と転がったまま身もだえするペットを抱え上げ。
「ななななな、何だとキサマッ!、
どこの誰だか知らないが
ワカメとヒジキのハーフみたいな髪型しやがって、
バカ犬と何しに来やがったのだ?、この、この、
どうしようもない、救いがたい大マヌケの
フヌケ野郎がーッ!」
激怒するシローの右目はメグちゃんの唾液で半開き。迫力まるでなし。
「気にしないでねユカちゃん(笑)、ウチのネコ、カンシャク持ちなの。
一日中誰かに突っかかってるのよ~、こっけいでしょう~(笑)」とマミー。
「何だと?、こッ、このダイエット失敗まみれのイカサマ野郎がッ!。
誰が感謝の気持ちだと?!、
キサマのようなパカチンの友だちはやっぱパカ…」
「アンアンアンッ!!」
突然、メグちゃんが激しく体を左右によじって飼い主の両腕から落下、
畳に着地したと同時、
怒り罵声 ( ばせい ) 中のシローの顔に再び飛びかかる。
あとは超高速回転舌でシローの顔中を
ナメてナメてナメまくるのみ。
「!!!!!!!!!!!!!!!」
あまりのショックで口も聞けず、ただただ右手で
ネコパンチをメグちゃんに連打するだけのシロー!。
だが、その肉球はメグちゃんの
ひどい肩凝り部分を直撃!
ナメてもらっているお礼の肩叩きだ!
と解釈したメグちゃん、嬉しさドピーク、
どとうの高速顔面ナメまわし加速!、フルスロットル!!
みるみるシローの顔は
犬の唾液でビッショビショ、
「アン、ア、アンッ!!、ハアハアハア!!」
きびす返し、メグちゃんは飼い主の腕に目がけて凱旋(がいせん)ジャンプ!。
愛犬キャッチーの飼い主は、
「朝からいいことしたねーメグちゃんは~!、えらいえらい」
とメグちゃんの!オツム毛をクシャクシャに撫でまわす。
「ユカちゃん、こんなとトコ居てもつまんないから、
下に行ってチーズケーキでお茶しよ~よ」
「そぉねぇ!。ネコも美顔してもらってウットリしてるようだしー」
ふたりはドスドスと大きな音を立てながら階下へと降りて行った。
再び、空恐ろしい程の静寂に包まれるシローの和室。
怒りに全身を震わせ、シローは考えていた。
この、おぞましい犬の唾液を完全なまでに拭き取るには、
やはり竹内宅の庭の雑草なんだろうが、
しばらく両目が唾液で開かない。
マブタに力こぶッ!
美しき朝、透明な空気が
蒼ざめた九月の青空に吸い込まれた。