Title : 初秋のうたたね
( シローが出席している町内ネコ集会書記長、相沢カナ。メス3才 )
Title : パチンコ丸シロー
夜10時半。
妻の 野武子(のぶこ)が買って来た、グリーンキウイより20円も高く、
その代わり、グリーンキウイより酸味も少なく
非常に甘いはずのゴールデンキウイが、
有り得ないことに、グリーンキウイより酸味が強く、
甘みも弱かったことから、
大好物のゴールデンキウイをフタクチしか食べず、
傷心のマインドのままキッチンテーブルに突っ伏してしまったパピー
が、くぐもった声を上げた。
「そういや~ね……今日は仕事、目が回るよーな忙しさだったんだけどね……。
こんなに働いてんのに借金で常に首が回らないボクって、
ど~ゆ~感じなんだろ~ね~、お母さん」
「何言ってんだよぉ~、ハルオ~。昔から急がば回れっていうじゃないかぁ~。
てことはさぁ~、アンタ、
急いでいるけど首は回ってなくて、
急いでるからこそ、目だけ回ってる
ってことじゃないかぁぁ~。ねぇ~?、そうでしょぉ~?」
とハルオの母ダイナマイト・オミヤ。
「えっ…。それ…自分には全然同調してない感じですけど…。
お母さん、中島みゆきの時代は回るの引用かなんかですか?」
唐突にキッチンテーブルの下から、飼い猫のイマイマしげな声!。
「何、ワケ分からないことクドクド抜かして大満足なんだろうなあ、
この…ハシにもボーにもかからない、
ウナギつかみどり1時間1000円、そのくせ、
哀れでブザマにも手ぶら帰宅の残念野郎がッ!」
「アハッ!(笑)。ウナギじゃなかったんだよシロー。
あれ、アナゴだったんだよ。ね~?。ご時世だねぇ~。
ま、下にいないで上に上がってきなよ」
と仕事疲れ顔ながら、おだやかなパピー。
「ダメだよハルオ~。今シローはひどい便秘を何とか解消しよーと、
力んでる最中なんだから~」
「ええ~ッ?!」驚いてテーブル下をのぞきこむパピー。
「なッ!!、何覗き込んでやがる !!、この、変態を絵に描いたような
恥知らずの詠み人知らず万葉集野郎がッ!!、
帰れ帰れッ、ワーワーッ!!、
見世物じゃねえ!!、
( その瞬間、ふいに僅かな便意が襲い、おしりを浮かせた拍子に腰砕けの口調となり )
……で、いいのでしょうかね…。どうでしょう?(汗)…」と平静を装うシロー。
「でもサー、何で首が回らないって言うんかねぇ~。
何で借金だと首が回らなくなんだろ~か」とオミヤ。
「もう、いい加減にせんかバアチャン!…あっちこっちで借金した奴には、
四方八方に返済しなきゃいけん相手がおるだろうが!。
借金まだ返しとらんので相手と顔合わせられんだろ!ア?!、違うか!。
それで自分の顔を、首を、周囲に回せんゆうことと違うのかッ!」
テーブル下からシローのカンシャク玉爆発的な叫び。
「フゥゥゥン…。シローそれ本当なの?」と感心しきりのパピー。
「ハルオ…。便秘で唸ってるネコに解説されるよーじゃ、
お終いなんじゃなかろーかアタシたち的には……。だけど、
…何でお前またキッチンまでオトイレ持って降りてきてんだい?。
部屋ですればいいのに~」
「ピミー ( ハルオの息子、サマーオ。9才 ) が
砂金 ( トイレ箱の敷き砂 ) を手ですくって持ってこうとするから
持ち歩かんといかんよーになったんだろうが!。
ッたく誰の差し金だか、両手にすくった富が
サラサラ指の間からこぼれ落ちるって話だよッ!。
どこまでネコをアイドル扱いすりゃ気が済むんだよ!」
「おやおや、こっちにおはちが回るとはねえ(笑)、あっははははー」
とダイナマイト・オミヤ、キウイを口に放り込み、あまりの酸っぱさに顔をゆがめる。
「出てけッ!もう、みんな出てけッ!!。全然集中出来ないだろうが!、
この救いようのない月見団子待ちわび親子がッ!!」
今回の、シロー便秘苦悩大騒ぎパフォーマンスの真の狙いは、
猫缶を並から再びスーパープレミアムに戻すこと。
しかしシローには知る由もない。
玉突(たまつき)家の家計を掌握しているのは野武子 ( のぶこ )。
彼女抜きのパフォーマンスには何の意味もなかった。