Title : アジ拾い名人クロちゃん
Title :パチンコ丸シロー
快晴、午後4時、気温24度、風速1mの中をパチンコ丸シローが行く。ショッキングピンク色のザルは激しく目立つ。車両通行のほとんどない路地裏から路地裏へとつなぎ、途中で幾つかの庭先を横切ったが、
「すンごいのブラ下げてんねェー!。なに?、アジ拾い行くのー?」
などと賞賛の声がイチイチ人間達から上がる。
“ アジ拾い、だと?キサマ。今日の、屋根からアジを投げる奴のことを知らんのか。ママさんバレーで名アタッカーと言われるメリー健子(メリーケンコ)なのだぞ。凄いスピードでアジが飛んでくるからな、キャッチしようとでもしようものなら取り損なってアジのホッペタビンタだろうが ”
2日前のネコ集会申し合わせでは、不用意にアジをキャッチしようとせず、ネコを狙って投げつけてくるアジをかわして、アジが地面に落ちてから拾う方法が採択されている。
100円傘のビニール地で顔をシールドする案は、視界不良となり危険であることから却下。傘を拡げてディフェンス、も同じ理由で却下。
黄色いコスモスの咲き乱れる庭先を横切り正面の塀へ向かうシロー。見れば水色のバスキャップをかぶったシロネコ小娘が、今まさに塀の下をくぐり抜けようとしているではないか。
アジを沢山入れるため、大きめのブカブカのバスキャップを飼い主が選んだのだろう。くぐり抜けた時にキャップが塀の板にひっかかって脱げてしまった。道路側からキャップを拾おうと伸びた白い手をスパァーン!と、はたくシロー。
「甘いッ!お前はアルゼンチンハチミツより甘いッ!。帰れ帰れ、このいまいましい軟弱者がッ!」
白ネコの顔も見ず、ザササササと鮮やかに塀下くぐり抜けたシローは50m先に迫った目的地へと急ぐ。フニャフニャ素材のザルだから、通過する時は簡単にひしゃげ今は元通り。
交通量の多い道路ゆえ、ここは信号待ちして横断歩道を渡るしかない。チョコンと座り、シローが半身伸び上がらせて信号機を見上げていると、女子高生ふたりがザルの中に何かを放り込んだ。驚いて見下ろせばキットカットだのカブキ揚げだのが幾つも入っているではないか!。
「何しやがる!! 、この恥知らずの勘違いのハロウィンかぶれ野郎が!!。ナメてんのか!!」
「アレ?。今日ハロウィンと違うっけ?」「毎日がハロウィン(爆)」
このクソいまいましい…と言いかけシローはハッと顔を右方向に。木製の風呂桶を背中にしょったキジ猫が向かい側を横切ってゆく。あれは間違いなく名アジキャッチャーの嗚呼白(ああしろ)家の幸四郎!。遅れをとるものかと青信号と同時に横断歩道を小走りに横切るシロー。
目的の家は目前。垣根越しに人だかりが出来ていて、まだ視界に入らない庭からは、おわああああー!、だの、うあああああ~ん!、だのネコ達の歓声とどよめきが聞こえてくる!。もう始まってんのか、何だクソウッ!。
カアッと頭に火がつき、人だかりの脚の間をくぐり抜けようとするシローの視界に1匹のネコの姿が飛び込んで来た。
それは見覚えのある美しきミケネコ。ゆっくりと10mほど先の醤油屋手前を横切ってゆく。目をこらすシローの顔に衝撃の二文字が点灯!。
「ひひひひひひひひひ、火露美(ひろみ)さぁぁぁぁぁぁんッ!!」
彼女こそ、もう何年も会っていないシロー初恋の相手。滅多に来ない縄張り外に足を伸ばしたからこその再会。
気が付けば、シローは、まるで園児が駄菓子屋のソースイカに魅せられたかのように彼女の後をふらふら~ッと追尾し始めていた。