モッちゃんザ・グレート / 処世術は身を助く

 

 

ボクの海釣り相棒、ネコのモッちゃん。オスの野良猫で、釣り人に人気の堤防エリアが縄張り。ちょっと見、イタリアのダンディ・ブラザー思わせるダテヒゲ模様が鼻の下。眼の色は大好物アジのコガネ色。ボクが勝手に名付けたモッちゃんはモッサリした毛並みが由縁。釣りの最中、ボクとモッちゃんは頻繁にアイコンタクトを執る。向こうの眼力パワーが凄くって、思わず顔を向けるから目と目がいつも会ってしまう。その神秘的ではないコガネ色は、いつナンドキでもこう語る。

“本日はお日柄も良く、ネコが食べるにはちょうど良いサイズの魚各種が頻繁に釣れることが予想されております。にも拘わらず、万が一にも釣れそびれる様な事態を引き起こしますと周囲の方々、とりわけ小動物に大変ご迷惑をおかけするようなことにもなりかねませんので、心して緊張感と自覚、責任感を持って釣りに集中くださいますよう、重ねてお願い申し上げます。 敬具   平静△△年△月△日釣り座代表雑種猫モッ”。

ネコは大きな魚を噛み分けて食べることが出来ません。人間にとっての食べ頃サイズのアジ、ネコにあげても食べてくれません。新鮮釣りたての美味しい匂いがするアジをもらっても、悲しいかな食べられないのです。

モッちゃんとてノラのツワモノ、威信にかけて少しカジってはみるものの、全く歯が立たずウロコが数枚はがれ落ちただけ、という光景を最初の頃は何度か見ました。不思議とそんな時、こちらを見ようとしません。

せっかく貰ったのに申し訳ないと思っているのか、食べられない自分の能力を恥じているのか分かりませんが。とにかく、ネコが食事を楽しむことが出来る魚のサイズは10~15センチまで。

モッちゃんは小さい頃に人にイジメられた経験があるのか非常に警戒心が強く、さりとてオサカナは食べたいわけで、当初、人が侵入出来ないフェンスの向こうから顔だけチョイ出しして、「ミャン」(何かある?)でした。

ボクがやたらとモッちゃん、モッちゃんと気安く声をかけるようになり、小雨で釣り座に誰もいない時、シーズンオフでボクらだけの時、やっと釣れた小魚をフェンス越しに貰う、といった経験を重ねるうち、モッちゃんの、ボクという人間に対する警戒心、不信感も少しづつユルくなっていったようでした。

ある時、最近釣り座で姿を見かけるようになったオジサンが声をかけてきました。

「そのネコ、アンタが飼ってんの?」

「いいえ。何で?」

「いや、いつも一緒に釣りしてるみたいだからサ(笑)。でも置き去りにして帰ってるから不思議だったんだよー」

なるほど。しかし、“ やはり野に置けレンゲ草 ” でしょう。

最近、モッちゃんに変化が出始めました。いつもはボクの傍でゴロンゴロンしたり、竿の傍でイワシやアジ、サッパが釣れるのを辛抱強く待っているのですが、近頃はボクに釣果がないと、いつの間にかいなくなるのです。

アレッ?、アイツどこ行った?。食事を摂らずに帰るはずもなし、第一、夕暮れにはまだ早すぎる…。

アッ!。遠くにいました!。何やら若い女性釣り師3人に食べ物をもらっている様子。明らかにコビを売っているのがアリアリ。ボクが置き竿にしてソッチまで歩いて行っても、彼の非常に近くを横切っても、知らん顔。珍味の小アジを旨そうにカリカリやっています。

チェッ!。ネコのくせに処世術ってか!。

 

◆写真 / 釣れた大きなメジナ、大き過ぎて食べられもしないくせに、未練がましく指くわえて(くわえられませんが)見ている滑稽ネコの図。

 

 

ベースボールとフットボールが観る夢

Title : 私の事を話しながら、向き合いうつむく祖国の父と母

 

 

人間の脳内には、口では到底表現できない、祈りにも似た強い想いがある。

たとえ、自分自身がそれを意識せず、認識せず、理解出来てはいなくとも、

脳はいつもそれを夢見ている。願っている。

たとえ、自分自身がいくつ歳を重ねようとも、乳飲み子の様に脳はそれに憧れ、それを慕い、幾たびとも知れぬ悔し涙、苦痛の涙、歓喜の、感動の、怒りの涙で頬を濡らしながら、待っている。繰り返し、繰り返し、待っている。

 

ベースボール。我が家へ辿り着くためのGAME。メンバー9名は家族とその重要な対人関係者になぞらえられている。脳が切望してやまない家族と言う名の絆。アメリカにおいて、それは蜃気楼にも似た幻。ひとたび手に入れても、何かの拍子に音を立てていともたやすく崩れ落ちてしまう。

故に、恐怖のあまり脳が不安要素を就寝中の夢で実現させ、何とかストレスを発散させようとする様に、起床時でさえ、脳はそれを欲してやまない。

夢が見れないのなら、それに匹敵する映像を見せてくれ、と。

ベースボール、今夜の勝敗の行方。単なるチームの勝敗表ではない。観戦する私自身が求めてやまない得点1。

HOME。

 

 

ヨーロッパで野球は普及しない。家族の絆は蜃気楼ではない。

それゆえ、むしろ重要なことは、ひしめき合う大陸間、現実的にのしかかる圧倒的民族のハンディーキャップを覆す(くつがえす)夢。その視覚的実現。

フットボール。

 

国内に於いて競われる同国人のゲーム、ベースボール。

民族のせめぎ合い、フットボールは他国との対戦が基本。

家族の象徴がベースボールなら、楽曲『私を野球に連れてって』は至極当然だし、フットボールが祖国の威信そのものであるのなら、それは大人のゲーム。

家族とは何か。祖国とは何か。

子供達はゲームを通してそれを無意識に学ぶ。これを伝統と呼ぶ。

観戦者

Title : 誰かが外にいる

 

 

特に夜。

突然、苛立つように、督促するかのように、数回ドアを打ち鳴らす拳の音。

夜は、特にそれが恐ろしい。

息をを殺し、少しでも身体を小さな置石にしようとする両親。その姿を真似、いつもの様に両親にしがみつき小石となる子供達。もうここしか居場所がない。

 

せめて祖国の試合が終わってからにしてくれないか。

 

お願いだ。

検索サイトでよくある質問 / ペットの名前由来について

Title : Qちゃん

 

 

★ 質問者

つまんないこと聞いてもいい?。ボクは来月二十日で満2歳になる黄金鳥のオスです。今の飼い主のところに来て6年ちょっとになります。んッ?。合わない?。…………。聞きたいことはそういうことじゃなくって、ボクの名前のことです。

Qという名前をダンナさんだかオカミさんがつけたらしいんですけど悩んでいます。来月、ボクの誕生日にダンナさんがメスの黄金鳥を買ってきてくれるというのです。それはまあ、嬉しくないっちゃあウソになるんだけど、問題はそのメスの名前がVちゃんにもう決めてあるということなの。

普通、Q&Aですよね?。それなのにQ&V、っておかしくありませんか?。ボクがおかしいのでしょうか。気になって夜しか眠れない毎日が続いています。飼い主2人には怖くて聞けません。よろしくお願いします。

 

 

☆ ベスト・アンサーに選ばれた答え

Q&Vで全然おかしくないと思いますよ。もともとQ&Aというのはクイック・アニマルの略称ですよね。黄金鳥は動作が鈍く以前私が飼育していた黄金鳥はゴハンだよと声をかけるたびに止まり木からドサッと落ちて数回転がってから起き上がってましたからね。その点を考慮してのVちゃんだと思いますよ。

 

 

質問者の返信

あのあとオカミさんに思い切って聞いてみたらやっぱりアドバイス通りでした。オカミさんはショップ・チャンネルの大ファンで、僕たちに子供が出来たらCちゃんという名前にするつもりだそうです。ありがとうございました。

近くて遠い / 近視と遠視 / 遠近両用の勧め

Title : シロー

 

 

「韓国って、急に近くて遠い国になっちゃったって、皆言ってるね」と、マミー。

「それを言うなら、オレにとって会社のアノヒトもそーだ。近くて遠い人だ」とパピー。

「だったらサー、アタシが年取ったんで、小さくて軽い人になっちゃったネーって思ってることは、ドー結び付けりゃいいって?。ん?。何か言った?」

「言ってませんよ、おばあちゃん。今、庭で鳴いてるコオロギね、アレ、近くで鳴いてるよーな気がすっでショ?。でも、実は案外遠いとこで鳴いてんですよ」

「分かるブ。オシッコもれそうな時、おトイレ、急に近くて遠いとこにあるよーな気がする」とパピーとマミーのひとり息子ピミー9才。

「あのさ、フルサトは遠きにありて思うものって人間言うじゃん。でも、アンタらの実家って隣の県じゃんかー。だからフルサトを思わんのか。遠近両用にせんでいいのか」と、飼い猫オスのパチンコ丸シロー。

「シロー。それは地下鉄で帰省するからだよ。お前はバスケットに入れられてるから見えないだろーが、地下鉄は乗る時間が短いけど、地上からプラットホームまでが遠いんだよ。だからねー、地下鉄は近くて遠いんだよ」とパピー。

「何ぬかしゃーがる!!、ネコだと思って甘い言葉かけやがって!!。チクショー!!、誰が騙されるかってんだ!!」とパチンコ丸シロー。

「ああら、お背中の毛が全部逆立ってるわよ、ほらピミー、見てごらん。面白いねぇ~、短い毛だと思ってたのに、案外長いのねぇ~(爆)」

「何だと?、今何て言ったキサマ!!。トリマーの免許持ってるからって、いい加減なこと言うと承知しねーぞ!!」と激怒しながらも、ラジオの囲碁放送時間になったのでイヤホンを耳穴に押し込むパチンコ丸シロー。

シローはハッとした。ラジオはマミーの背後、タンスの上にあった。激怒した手前、スイッチを入れてくれとは到底言えない雰囲気。

今、ラジオは本当に近くて遠かったのだ!。

 

真夜中のギターを聴いてシミジミ / 若者達の楽器離れ

Title : イカヒゲG

 

 

若者にアコースティックギターは必須アイテム。それが昭和。女の子にモテたくてギターを始める。彼女と屋根の上に並んで座り、夜空を見上げながら弦をつまびき二人で歌う。彼女がうっとりと自分の肩にもたれかかり至福の時に酔う。

或いは首にハーモニカ・ホルダーをつけ社会的メッセージ色濃い自作の歌を歌いながらハーモニカも吹き奏でる。ボブ・ディランの姿を見て吉田拓郎が真似、瞬く間に若者達が追従した。

アメリカが荒れに荒れている時代だった。戦争は人間の人権を踏みにじる。大義に真実はあるのか。若者達はディスカッションを続け、連帯し民族 (フォーク) の歌を歌い継ぎながら国の将来、自身の将来を真剣に考えた。

反戦運動は効果なく、若者達の音楽レジスタンスは激烈な感情のうねりを見せ、より大きな叫びを求めアコースティックギターはエレキギターに変わった。

アメリカがそうしたので日本もすぐ真似した。そこで歌謡界はフォークというジャンルではなくなったと判断し、困り果てた末に、新しい音楽なんだよなァー、ちゅうことはニューなんだよなーと、ニューミュージックという適当なジャンルをこさえて呼ぶことにした。

エレキギターはアコースティックの様にどこででもお気軽に弾けるものではない。女の子達はオシャレなニューミュージックに夢中になったわけだから、アコギを弾いてもモテない。そこで日本の若者達はアコギを捨てた。

やがて世界の戦争はハイテク化し、以前のような人間玉砕は減少した。ディランもニール・ヤングもエレキギターで音量や音色を機械調節した。

日本で尺八や琴、三味線を演奏しまくる若者はほとんどいない。アメリカではカントリー・ミュージックが今なおアコギ片手に娘達を魅了する。

現在、日本の若者達にハッキリとした共通文化はなく、それでは困るとばかりに一部の企業が流行を作り上げ煽り立てている現状。ノル人もいればノラナイ人もいる。

 

街の何処かに 淋しがり屋がひとり

今にも泣きそうに ギターを奏いている

愛を失くして 何かを求めてさまよう

似た者同士なのね

ここへおいでよ 夜は冷たく永い

黙って夜明けまで ギターを奏こうよ

 

 

◆真夜中のギター

〈吉岡治作詞 / 河村利夫作曲、千賀かほる歌〉昭和44年

ひとりごと / 誰かと同じ / 私がアナタでした

Title : 「おひかえなすって。手前、生国は日本列島、不思議の国で産湯につかり、人呼んでジャパニーズと発します」

 

 

親子丼を注文して鶏肉だけを残す人が、確かに存在するように、

バーゲン会場で、損するなんてマッピラだと、不必要なものを買いあさり、悦に入る人が人々の心を照らすように、

スタバでコーヒーを飲んでいる自分の姿をオシャレに想像し、押し合いへし合いの席に眉しかめ座りつつ、目的達成の安らぎを感じる人が涙ぐましいように、

室内で物をよく落とす人が、それを握力不足のせいではなく、自分の不運のせいではないかと疑惑を持ってしまうように、

確かに、確かに、

“ 愛されたい ” から。という理由で、誰かを愛してしまう人は確かに存在する。

“ 愛してみたい ” ので…。という理由で、誰かをアテなく探す人は確かに存在する。

 

晴れ予報を信じ外出し、降水確率0%の計画を本降りで濡らす。天気予報なんて当たらないと怒り、翌日には天気予報をチェックする人が存在するように、

自分に重ね合わせることが出来る容姿の芸能人の評価を、常にチェックせずにはおれない人が、全くもって存在するように、

 

“ お金がかかるから ” という理由で、誰をも愛する予定を作らない人は結局存在する。

“お金の使い道の1つとして” という理由で、バラまくお金の力で恋愛が買えていることを忘れてしまう人だって、たびたび存在する。

 

深刻な便秘の解消法を未だ見いだせず困り果てているのに、現代社会の進歩に、感激仕切りの人がチマタに存在するように、

鏡に映る無表情な自分の顔を、トレンディードラマの主人公表情とイコールなのだからと、安心するナルシーな人が微笑ましく存在するように、

 

これが幸せだ。

と定義できるものなど、この世には何一つとして存在しない。

ともだち(2) / お別れ前の再会

君知るや草のささやき

 

 

ボクは菓子パン3個が入ったビニール袋を時折太陽にかざしてパンの影を眺め楽しんでいたが、さすがにそれも飽きた。興奮冷めやらぬ逆上がりの奇跡から1日、ボクは名も知らぬ彼を校庭鉄棒前で待つ。

もしかしたら再び彼が現れるかもしれない、と昨日より1時間程早めに此処へ来た。来てすぐに見事な逆上がりを連続3回決め、周囲の山々眺め回して余裕の高笑い。

パンは2個を彼に、1個をボクに。昨日言い忘れたお礼を言った後に2人で並んで食べる。

クリームパン2個にアンドーナツ1個。ボクはアンドーナツが狂おしい程食べたかったものの、それは彼に進呈することに決めていた。

それはクリームパンより40円も高い。これこそが彼への誠意というものだ。手持ちのお小遣いさえあればボクにもアンドーナツが………、アッ!

向こうからやって来る彼が手を振っている。ボクも慌てて手を振り返す。立ち上がりざま妙な気恥ずかしさでベロを強く噛んでしまった。

いでぃぇぇ…。

嬉しそうに微笑みながら「どうしたの。逆上がりの練習?」

「うん。……ああ、これ昨日のお礼」

反射的に袋ごと手渡してしまい顔面からサッと血の気が引く。彼は覗き込むと、ちょっと驚いた顔で「いいの?」「うん。少ないけど」

彼は誰も居ない校庭が好きで、休みの日はよく山道散歩の途中で校庭に立ち寄ることが多いと言った。「一緒に散歩する?」「うん」

誘われるままボクは彼と山道に入った。昼間の山道はボクも良く知っている。

最初は緊張で頬がひきつっていたボクも、コレがカブトムシがよくいるクヌギの木だとか、この倒木によくタマムシがいるだとか、自分の秘密を洗いざらいゲロするうち、激しく饒舌になっていった。

彼はニコニコしながらボクの話を興味深く聞き、時折指摘される木々を覗き込んでは軽く頷いてみせる。

「ここ(坂道)を降りたらすぐオレんち、ちょっと来る?」「うん」

これまで山の反対側には言ったことがなかったので、彼の家がここいらに在るというのにはヒドく納得。

林の奥まった目立たない場所に彼の家はあった。隠されている様な印象もあったが、一階建ての非常にオンボロ木造の前、庭と呼ぶにはふさわしくなく、つまらない空き地と呼ぶが似つかわしい、漠然とした広場があった。

敷地らしきこの場所に柵はなく、代わりにグルリと雑木林が一帯を取り囲んでいる。コンビニ一店舗分の広場の真ん中には使いこまれた真っ黒なドラム缶が置いてあり、傍らには石鹸の入った金タライと擦り切れたタオルが無造作に置かれていた。

「これがウチの風呂なんだ」と言って彼は笑い、家から飛び出してきたちっちゃな女の子を見るや、スタスタ近寄ってパンの入った袋を手渡し「1つ好きなの食べていいよ」。やさしい声がかすかに聞こえボクを動揺させる。アンドーナツを選ぶのだろうか…。

彼はドラム缶から1メートルほど離れた焚火跡の黒焦げ枝を手で軽く押しのけ、あったあった、と嬉しそうに笑うと、真っ黒な塊を取り上げ両手でゴシゴシ黒焦げを削り落とし、ハイ、と言ってボクにそれを手渡した。

よくよく見ると細っこい焼き芋!。オオ!。ボクの驚きで焼き芋が激しく上下するさまを見て彼はさも可笑しそうに、あっはっはっは!と笑った。黄金色に光輝く芋の身を少しずつほぐし食べるボク。芳醇な甘く冷たい味覚がボクをたちまち虜にする。何て幸せな…そこへ彼の父が帰宅。

まっすぐこっちへ向かって歩いて来る。真っ黒に日焼けした顔からボクに向かって真っ白な歯がご挨拶。なるほど親子、ソックリだ。

「今からヘビ取り行くから手伝ってくれ」「ああ、いいよ」

父は家へと戻って行った。「ヘビ?」「うん。一緒に行く?」

訳が分からぬまま同行する。日は傾き始めている。夕暮れから日没直前に捕獲するという。「うちのトウチャン、ヘビ獲って売るのが商売だから」

嗚呼。あの日の事ことは、どうにもこうにも忘れられない。何故かすぐに見つかるヘビ。毒のないシマヘビの首にシャッ!と目にも留まらぬ早業で棒先の首絞め紐がヘビの首を絞める!。

父親が棒で弧を描くと、のたうつヘビは息子が待ちかまえている麻の大袋大口へと鮮やかに落下!。ヘビの首から紐輪が素早く抜かれると同時、息子が麻袋の口を閉めて直ちに麻紐がけ!。

呆然自失のボクの目の前、のたうつヘビの姿が何度も行き来、ヘビのウロコがなまめかしく光るさまを見せつけてはシッポピラピラ、また明日。それは妖しい黒紫の夕闇が迫りくるまで続いた。

「10匹獲れたねトウチャン!。ほら触ってみて、ヘビ動いてるよ」

輝く笑顔でボクに向き直る彼。言われたビビリは、彼が掲げ持つ年期の入った麻袋を両手の平でポンポンと触ってみる。何ともいえぬヘビの這いまわる感触に髪の毛は逆立ち、ショックのあまり失神寸前。

不思議に名乗りあわず、その日以降、ボクと彼は一度も顔を合わせていない。嫌いになったわけではない。彼への親しみと懐かしさは今なお色褪せる事はない。ボクらは知っていた。お互いの住む世界が違うのだということを…。学校で顔を合わせなかったのか?。

どの小学校にも、彼に在籍の記録はなかった。

 

 

ともだち(1) / ボクの心を揺さぶるキミは誰だ

Title : ひとり帰る道

 

 

小学4年進級前の春休み、誰もいない校庭片隅、物悲し気な薄暮の中、非常にブザマに鉄棒逆上がりに興じる1人のエテ公の姿が…。

息上げ、渇き切った喉に唾液を送り込めない苦しさにも負けず、歯を食いしばり唸り声上げ、とりつかれた様に繰り返し逆上がりに挑戦し続けるサル。よくよく解像度を上げ覗き込めば、それはボク。少年の頃のボクではないか。しかし、腕まくりした両腕は既に限界に近付いていた。力がスッポリ何処かに落っこちた感がある。

「そんなふうにケツを放り投げてちゃダメだよ」

突然の声にド肝抜かれ振り返ると、見知らぬ小学生が穏やかな微笑浮かべ佇んでいる。ボクより背が高く、ボクよりかなり痩せていて、髪は短いながらもハリネズミのように放射線状スタンダップ。

「自分の全部の体重を前に放り投げてるだけだよ、それじゃ。オレだって回れないよ。腕をしっかり曲げて…」

彼は隣並びの鉄棒を両手で掴み、澄んだ目で正面を見つめながら

「こうやって両腕を胸にピッタリ張り付けてサ、ケツは前に放り投げないで、ケツは鉄棒の真上に放り上げるつもりで、回るッ」

くるっ。 すとんッ。

何という鮮やかさ、軽やかさ。こんな見事で美しい逆上がり、恐らくオリンピックでもなければ見る事が出来ない代物だ。

「もう1度。…………よく見てて」

土を蹴り上げる音、着地する音、ほとんど聞こえぬ軽やかさ。

「やってみて」

ハッと唇を噛むボク。誰だか知らないけど、いきなり恥を晒さなければならないなんて。何だよもうッ。でも、もう見られてるんだし…。

エイヤッ!。

クルッ。 スタンッ!。

「あっはっはっはっは」さも嬉しそう、真っ黒に日焼けした彼の顔から並びい出る真っ白な歯。それは速度を上げゆく夕暮れの中、スマホの明かりそのままに…。

いともたやすく逆上がりが出来たことに一瞬キョトンとするボクのドングリマナコを見て、流石に温和な彼もこみあげてくる笑いをしばし止める事が出来ない様子だったが、やがてゆっくり腕組みをして

「もう1度やってみたら?。念のため」

「うん。…やってみる…」

クリッ。  ストムッ。

「やったやった」彼は穏やかに小さな拍手をするとニコニコしながら

「オレ帰る。キミは?。もうだいぶ暗いよ」

「ボクも帰る。逆上がり出来たから」

二人は並んで小学校の門を出、長い直線の坂道を下る。ジャリッ、ジャリッと互いのジャリ踏み鳴らす音が妙に大きく耳に響く。沈黙に耐え切れず意を決して口をきるボク。

「30分くらいやってもダメだったのに、教えてもらったらすぐ出来た…。学校の授業でボクだけ出来なかったから…………良かった」

彼は頷いていたのだと思う。その顔をチラと見やったが、まったりとした夕闇がほとんどそれを妨げていた。

坂を下り終わると、道はそのまま続く直線と山へ入る左坂道とに分かれている。当然真っすぐに並びゆくかと思いきや、彼は唐突に

「オレ、こっちだから」と真っ暗な街灯なしの道を指さす。

「えっ」だって山だよ!、と言いかけ言葉を飲み込む。

「オレんち、山を突っ切って向こう側に出た方が早いから」

そう言って微笑む彼に曖昧に頷くボク。じゃあ、と彼は軽く片手を上げると漆黒の闇坂に向かってゆく。それは空恐ろしい光景に見えた。闇が子供を見下ろすや、待ちかねたかのように覆いかぶさり包み込み、やがて満足げにゆっくりと飲み込む。白い上着と黒い半ズボンが消失した途端、ボクは向こうにチラチラまたたく人家の明かり目指し一目散に走り出していた。恐いよぅ。

何をバカなッ。舌打ちをして一匹の虫が草むらで鳴き始めた。虫の音色は、こう聞こえた。

ありがとう、言ったのか?

 

 

 

適材適所 / 敗者復活 / ガラパゴスの軌跡

Title : 「ニノミヤじゃないもん」うるっとカラパゴス

 

 

◆ ネコセイペディア

二宮金次郎(尊徳)

昭和の時代、日本全国の小学校の校庭に飾られていた銅像その人。幼少の頃より仕事と勉強を両立させた姿を児童らの模範とし多くの学校に飾られたが、近年はすっかり撤去されてしまった。

 

「こんばんは。『おそうざいステキでしょ』の時間ですぅぅ~。暑さ寒さも悲願まで、という言葉がありますけど、今日もそんな感じでしたねぇ~真腹さん(笑)」

「いやいや、全くです。甲子園大会優勝悲願、全米テニス、何もかもが悲願まででしたから。夢散った選手達、涙で鼻も真っ赤、悲願鼻は、すがすがしく美しいものです(一瞬、目が潤みくちびるを噛む)」

「さて!、ですねぇ。今日のテーマは “ 適材適所 ” !ということなんですけーれーどもッ、…真腹さん、どういう理由でこのテーマを…」

「おそうざいステキでしょ、と発音的に類似点が多いからです。腹田さん気づきました?」

「いやいやいや、まさかとは思いましたけどもー、やはりですかー(怒)」

 

「例えば、ガラパゴス諸島に生息しているゾウガメを日本の小学校に連れてきたとしますよね。小学校校庭の片隅によくある池にですよ」

「えーえーえー、よく金魚だとか亀とかいましたよねー(笑)」

「そこに池より大きなゾウガメを放つんですよ。コレ、適材適所といえますかね」

「言えませんよー。そんなことしてる小学校なんてあるんですか?」

「あるんです。番組スタッフが小学生達に取材してきました。ご覧ください」

 

「あそこでホウレンソウゆがいたのクチクチやってる亀、何だか知ってる人」

ハーイ!! と群がった小学生数十名が元気よく挙手。

「何ていう亀かな?」

「ニノミヤキンジロー !!」 全員声を揃える。ゴスペラーズを上回る息の合い様。

「ニノミヤキンジロー?。どうして?」

「教室から窓越しに校庭見ると、銅像みたいに動かないからー !! (爆)」

 

「なるほどぅ…銅像なだけに像亀ですか…。しかし真腹さん…。あのカメが校門横のニノミヤキンジローだとしたら……これ…は…適材適所といえませんか?」

「私も驚きました。本来なら完全に不適材不適所となるケースなんですが、小学生達がそれを適材適所にしてしまった。まさに敗者復活、つまり子供には大人に真似できない可能性があると言わざるを得ませんねぇ」

「真腹さん。私、今ふと思ったんですけど、アナタがこの番組のゲストコメンテーターというのは、適材…適所と言えるのでしょうか」

「このスタジオに子供はいませんか。誰かッ!」