絶食ダイエット(11) / 体重70kgが翌日65kgに / 体力がなくなり減量開始

Title : 気分は真空管の中で大口開け涙ァ~

 

 

 

絶食6日目。

何てこったい!。明日1日を前にして、

よりによって何故今日なんだ、ローストビーフなんだ!。

玉ねぎすりおろしたタレに浸された、香ばしい牛肉を口に含む幻覚が脳裏をかすめる。

瞬間口内一面に広がる奇異なシビレ。何これ。変なの…。

 

ボクの部屋は和室。だから入口はフスマ。立て付けが悪くなってきているので、

ピッチリ閉めた状態でフスマ上部と壁との間に

2~3ミリの隙間があると見てとれる。

イカン。ここから、決して抗いきれぬ魅惑の香りが流入してしまう。

玉ねぎソース制作完成まで約1時間といったところか。

ボクは台所の音から夕食支度の進行状況を割り出し、さあこれから食べますよの10分前にトイレ。

話しかけようとする母の言葉も聞き取れぬ速さで自室撤退。

 

ガムテープを手にフスマと壁との隙間に素早く目張り。

注意深く見事にやってのける。

PCにヘッドホンを装着、スイッチオン。同時に消灯、

布団に寝そべりボリュームアップ。

 

ハロー暗闇さん、また君と話しに来ちゃったんだねえ~。

とサイモン&ガーファンクルのサウンド・オブ・サイレンスが流れている。

映画【卒業】では、主役のダスティ・ホフマンが

タブーと純愛のハザマで揺れる多感な青春期の情緒と感情を見事に演じてみせた。

それに引き換えボクは、タブー( 絶食ダイエット ) とローストビーフのハザマで

揺れる多感な青春期の食欲とひもじさを、見事に演じているとは言えまいか。

3曲目あたりでフスマをたたく音。ヘッドホンを外す。

 

「兄貴。食べないの?」

 

「だっからサー、食べないって言っておいただろーッ!」

プンプン!。再び世界最高峰デュオの世界へ。

 

仰向けで聴いていると段々と腹の肉が沈んでゆき、

内臓が布団に接触してゆく様な感覚に襲われた。

寝返りうち体勢を横向きに…。

今度はいいようだ。しかし一刻も早く明日になってほ…し……

 

ハッ。何だ。うんッ?。………。寝てたのか。寝ちゃったのか!。

今何時ぃ?と卓上の時計を見やると11時!。

おお、明日に近づいているではないか、とガムテープ引っぺがし独房を脱出。

 

暗い台所の玉ねぎソースの残り香。食欲をそそるものではない。

散った桜の花びらが水溜りに浮いていても誰も風情を感じないのだ。

 

家族は居間でテレビを見ている。

ボクはけだるそうに、インスタントコーヒーでも飲もうかなと

ヤカンに水入れ火にかける。

イスにドッサリと身を落とせば、空っぽの胃袋が体内でバウンド。

アーア…。一体何やってんだかねえ~。

お湯が沸くまで暇だからサー、体重でも計んない~?。

それでサー、それでサー、自虐気分でコーヒーすするんだよぉぉぉぉ~う。

 

「い~ジャンね~」とフラッと立ち、自室から体重計持ってカムバック。

あまりの重さに「腕もげそうでないの」

ガシャ。

体重計をぞんざいに置き直ちに計測。

も~いいの。いいのです。テキトーで…。

 

65キログラム。

 

は?………。全身に戦慄が走る。

ムシズが走ると言った方が的確かもしれない。

65キログラム。6565656565656565656565656565655665656565656565656565656565……

思考停止思考停止、自室から例のハンドダンベルを手に

きびすを返し体重計に乗せる。

壊れてない壊れてない壊れてないッ、と再び体重計に飛び乗る。

震える針。

止まれ止まれ止まれ早くッ!!

 

65キログラム。

 

昨日の測定で体重は約70キロ。

今日は65キロ!!。

何だ、どういうことだ、あり得ない、こんな夢のよ……

 

ピィィィィィーッ!!。

耳をつんざくケトルの悲鳴。

 

 

 

 

 

 

絶食ダイエット(12) / ポリープが出来た歌手の話 / 潜在意識の勘違い

Title : 空腹で目がグルグル回る

 

 

 

7日間絶食ダイエット最終日…。感無量である。

飲料水のみで連続5日半、体重70キログラムは1キロたりとも減らなかった。

それは、18歳のアコヤ胸奥で息づく真珠の熱情に、煮えたぎる緑茶を浴びせかけるに等しい仕打ちであった(ボクは緑茶が苦手なもんで)。

誰がこんなひどい仕打ちをボクに?。ああ、それは既に特定済みだ。

その者こそがボクの脳。これまで何度も指摘した、我が最愛にして最悪の脳生存本能の成せるワザ!。

5日半、ほとんど一切の栄養(唯一コーヒーと水から何がしかの栄養素)が身体に取り込まれなかったという事実…。

肉体の指令塔であるブレインは、眉間にシワ寄せ恐怖の戦慄におののいていたに違いない。ゆえに、ボクの全身体の隅々にまで戒厳令を敷き、こう命じた。

「現状ヲ維持セヨ。持チ応エヨ。崩壊ニ備エヨ。最高レベル警戒態勢ヲトレ」

と。ボクの全肉体器官はドミノ倒しで命令厳守。果たしてそんなこと出来るのか。可能なのだろうか。こういう話がある。

 

ある有名歌手の喉にポリ-プが出来た。その除去手術に大した危険性はない。

なんなく手術を終えた執刀医は

「ああ、これで終わりだ」と安堵の声。

この時ちょうど麻酔が切れかけていて、歌手の潜在意識が寝ぼけマナコで半分起きかけていたのだ。ああ、何という悲劇だろう!。

幼児に等しい潜在意識は勘違いしてしまった。

自分(歌手)の歌手生命はこれでお終い、だと。

 

やがて麻酔は切れ、歌手は意識を取り戻す。

潜在意識にスリコミが行われてしまったことなど全く自覚していない。

催眠術が解けた時、かけられていた間の記憶が全くないのと同じ。

「もう大丈夫、すぐにも熱唱出来るようになりますよ」

医師の笑顔に歌手も大満足。

先生の太鼓判、アア安心!。と確信したのは歌手の脳表面意識。

人が自分を認識するのは表面意識だ。人は自分の潜在意識の中に何が入っているのか全く知らない。術後回復期間が過ぎた。手術は成功している。

 

歌手は声が出なくなった。

 

医師達の誰1人として原因を特定することが出来なかった。

絶望した歌手が最後にすがったのは高名な心理療法士。

彼はおびただしい催眠療法対話の果て、遂に原因究明を果たす。

歌手の意志や思考である大人の表面意識を眠らせ、幼児の潜在意識だけを起こしたまま、ソレとガマン強い対話を繰り返し、遂にキーワードを引き出させたのだ。

 

「だって、もうお終いだって言われたもん」

 

小耳に挟んだこの実話が事実なら、今回の脳戒厳令はまさしく可能。ボクの考えはこうだ。

“ 笑う門(かど)には福来たる ” という有名なコトワザがある。でもボクは付け加えたい。

“ 笑い声はするのに、門がどこにあるのか見つけられず焦る福 ”

 

そういう落とし穴もあるのだと。ボクは見事に落ちた。

体重は毎日、コンスタントに減ってゆくものだとばかり思い込んでいたから…。

ボクの肉体全機関が全ての体力を使い果たし、もうこれ以上持ちこたえられない、と限界に達した時、身体はボクに隠していた体重5キロ減を発表した。

最初から見せてくれれば良かったのに…。でも、脳の中に住む誰かさんは、絶食1週間が我が身体に健康をもたらすなどと思ってもみなかった。

それを知っていたのは脳内にある表面意識だけ。

では、戒厳令を陣頭指揮した住人は一体誰だったのか。

そうです。アブちゃんを付け、オシメもさえ取れていないかもしれない、愛おしいボクの潜在意識だったのです。バブ。

 

次回より、いよいよ絶食ダイエットの本編へと突入してゆきます。

 

 

 

 

 

絶食ダイエット(13) / 絶食継続を決定 / とりつかれ始めて

Title : わきあがる欲望マンダラ

 

 

生涯初の7日間絶食ダイエットは終わった。

70キログラムから65キログラムがその成果…。

この数字を上々とみるか妥当とみるか。

恐らく敢行した主人公のほとんどが

ソレを不服と見なすのではあるまいか。

労多くして成果チョビ。

本人には大それたことをやってのけたという自負がある。

 

「えええええッ?! 、たったこれっぽちなの?!」とブーイング。

 

人とは何と欲深き動物なのであろう。コレが叶えば次はソレ、ソレが叶えば次はアレ。

ほんのささやかな願望のはずが、いつしか気持ちはブレ、

自身の正体が欲深だとバレ、悪ビレもせずに「もっともっと!!」と手を伸ばす。

これを “ バビブベボ ” のカルマ法則と呼ぶ。

ベレとボレはどうしたと追及されるかもしれないが、

思いつかなかったのだから仕方ない。

 

突如5キロ減ということは、まだ減るかもしれない、と考えるのは自然なこと。

それを7日が過ぎたからといって食事復活で台無しにして良いものだろうか?。

バカな。そんな愚かなことがどうして出来よう。

これまでの苦労の結実を、僅かたりとも

ないがしろになど出来はしないのだ。

ボクはこれまでに、オヒツに残った数粒の米に

注意を払ったことなど1度もない。ありがたみを感じなかったのだ。

それはお百姓さんが汗水垂らし手塩にかけて育てた物で、

それを買えたのは父が汗水流して働いたから。

それを炊いたのは母であって、ボクはただ食べただけ。

感謝もせず、当然の様にふんぞり返り、誰のことをも顧 (かえり) みない。

 

だから絶食を継続することにした。

って今までのザンゲとどういう関係があるの?、と思われるかもしれない。

んーッ。自分への罰?。それってもろ偽善。反省!…。

もう少しヤセてみようよ、ネ?。うん、ボク頑張るッ。

というだけのことであったか!。

とにかく、とりあえず、今日1日絶食して結果が見たい。

結果次第で今後どうするかを決める。

ためらわずに絶食続行を決められるのは

空腹感、それが失せたから。

空腹をほぼ感じなくなった。

 

昨夜就寝前に気づいたのだ。ティーンエイジャ-の無謀な無敵さ。

それはチョットしたエピーソードで拍車がかかってしまう。

空腹感の伝達が生存本能の要。命。

それを全く感じなくなったということに

戦慄しなければならなかったはずなのに。

アンポンなボクったら、嬉々としてマラソン折り返し地点を

ターンしてしまった。アンポンターン。

 

絶食8日目、午後11時体重測定。64キログラム。

ゆっくり体重計下りるパジャマを着た大タワケ。

その口元に、愚かな笑み。

 

 

 

 

絶食ダイエット(14) / 浪人生の絶食ダイエット / 脳が絶食適応を身体に命令

 

 

絶食ダイエット9日目。掟破りの怪進撃は続く。

ボクの計画はこうだ。

昨日の様に今日も体重が1キロ減で終わったら、今後も1日1キロの体重減だと見なす。

すると5日で5キロだから、先の7日間+5日間で、ダイエットに費やした日数は延べ12日。

2週間かからず体重10キロ減。身長170センチで体重60キロ。

自分の身長から110を引いた数がベスト体重ということらしいのでパ~フェクト!、大変よろしいのではないかとタヌキの皮算用。

ここ2日間は安心したのやら体力低下なのやら分からないが、タヌキ寝入りならぬ熟睡タヌキ状態。体力低下への不安もキッチリ8時間睡眠で対抗、何とか帳尻が在っているのではないかと高を括る。

鏡で体重6キロ減の顔をしげしげと眺め観察してみる。

ウ~ン…。何となく少し痩せたよ~な気もする…。心持ち、むくみがとれたかなあああああ~、という程度。

通常、周りの人間にその人が痩せたと気づかれるのは5キロ減った時らしい。

そ~だとしてもボクの場合、大して変わったとは思えないんだけどなあ~とパジャマの裾たくし上げ、ポンポコリンお腹を鏡さんに直視させてみる。

確かに、ついぞこないだの様な張り出しではない。当然であろう。

胃袋には全く何にも入ってはいないのだからねえ~。腸にもねぇ~。当然便通は小のみ。ここ3~4日そうなのだ。

それにしても退屈と言わざるをない。

浪人生が退屈でやることがないなどと言語道断だが、今ボクは人体実験中。軟禁隔離囚人なのだから仕方がないのだ。

と、ダイエット開始半ばから万年床と化している布団にダルく身を横たえてみる。

脇腹に重力がかかり、それが布団にに沈む時、胃の中の空気が動く気配を感じる。つまりボクはKYじゃない…。

横向きで寝そべり暫く(しばらく)指で畳をカリカリ軽く引っ掻くうち、ふと “ 卵かけゴハン ” の映像がポッカリ浮かぶ。空腹のあまり、好物の幻影、蜃気楼を見て喉がゴクリと鳴る、なんていうのとは全然違う。

第一、今のボクはヨダレなんて出ない。ボクの身体は食欲の概念さえ忘れ去った感あり。

要するに、お腹減った、がない。

卵かけゴハンが浮かんだのは、昔の友達の顔をフト思い出し、アア、アイツ今頃どうしてるかな。元気でやってるかな?、なんて感じだ。ナマ卵は精力つくわけだから、きっと卵自身も元気にやっている事であろう。

そういや、ナマ卵食べる習慣があるのは日本人だけってホントかな。確か、映画 ” ロッキー ” の中、主人公が早朝マラソン出発前にコップに割り入れた数個のナマ卵を一気呑みするシーンがあったっけねえ~。

外国人はどう思ってんだろボクらのこと。やっぱりサムライだから、空手だから、ロッキーみたいにナマ卵呑むんだって思われてるのかもしんないなー。

深夜12時、家人のスキをつき全裸測定。

体重きっかり63キログラム。

つまり1キログラム減。

やはり。やはりか…。

いいぞ。計画通りでないの!。

 

 

◆写真タイトル / ロッキーめし ( 調理 / カモノナカ )

 

 

絶食ダイエット(15) / 今日も1キロ減った / 痩せたなと言われず

Title: 友達の中でひとりホッカムリ

 

 

 

流石に、高校時代の親友3人からの誘いは断れない。

過酷なダイエット中であろうとも、だ。

市外の片田舎から快速バスで1時間半、約2ヶ月ぶりに

懐かしき市内中心地へ降り立つ。

待ち合わせ場所は、ジャズ喫茶サテンドール。

ここは大学生達の隠れ家的な溜まり場として知られ、

雑居ビル地下の空間は

自由文化論語るヤカラのルツボ、タコツボ、指圧ツボ、

極めて暗い照明に浮かび上がる

レンガ壁の赤が目に染み入る場所であった。

高校生のボクらは度々ここに入り浸り、

オトナな会話を得意げに盗み聴きしては悦に入っていたのだが…。

 

今、想い出深き店の片隅に再び座し、馴染みのダチと差し向かう。

ついこないだと、ちっとも変わらぬこの空気感。

マンネリとも呼べるし、お気に入り登録とも呼べる。

ボクらの間で変わったことと言えば唯ひとつ、

高校生ではなく揃って浪人生だということ。

 

仲間は各々サンドイッチを頼み、

食い意地張ったボクが何も食べモンを注文しない

ことに意外そうな表情を見せるが、

それ以上は何も聞こうとはしなかった。

 

人間は自分が不服とする状況が継続すると口数が減る。

というボクの持論は如何 ( いかが )なものか。

それはともかく、彼らのホッペタがモグモグ動いている光景

に奇妙な不思議さを感じる。

 

何をしているんだろう?

とさえ率直に思えてしまう。

 

何をって食事に決まっているのだが。

ボクが夢見るように眺めているので、友達が

 

「お前も食う?」と尋ねてくれる。

 

「今、チョー満腹。家で焼きソバ、ガッツリ食ってきたから(笑)」

とうそぶく。

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絶食ダイエット(16) / 浪人生の絶食ダイエット / 身体免疫力の低下

Title : ド派手に噴火ッ!

 

 

 

絶食ダイエット11日目。

自分が既に10日も食べ物を口にしていないという事実。

これって凄いことなんだろうか。大したことないんだろうか。

サッパシ分からなくはあるものの、何故だか起床と同時に浮かぶ顔。中学2年間、憧れ続けた高嶺のキミ。小麦色に日焼けした美しい顔、やや片目に被るサイドへ流れゆく前髪。それをアンニュイにカキ上げる仕草に、悲恋な我が身とっぷり哀れみ唇噛んだことも…。

高校進学で別々の学舎、ホントに手の届かぬキミへとなりぬ。んでもって、高校3年時に風の噂。彼女が高校のミスコン女王になったってさ。へええええ。そうかあああああ…。

こないだマブダチらとお茶した時、その彼女が髪を茶髪アフロにしたって情報。

「嘘コケ」

「コケェ、コッコウ。全力マジ。極マジ」

「何でだよう~」

「何か悪い連中と付き合ってるみたいな。噂だけどな」

 

人は変わる。チョットと変わる。劇的に変わる。外見的に変わる。内面的に変わる。

色々あるけど、今のボクは外見が変わるってヤツ。その試練中。

劇的に変わるはずだったのにチョビッとだもんなあ。少ぉぉし涙ぐましい気分だよ。トースト色に日焼けした彼女の顔に茶髪アフロ…。似合うのかなあ。想像つかないなああああ。

今日は朝からやたらと劇的に喉が渇く。冷えた麦茶をガブ飲みしても一向に渇きが癒えない。

ジレて外出、近所のコンビニでスポーツドリンク1リットルを購入、ガブ飲み。

2時間後、突然、♪ 吹けよ風、呼べよ嵐 (ピンクフロイド) の不穏なイントロダクションが始まり出し、10秒後、得体の知れぬ壮絶な下痢ウェーブの脳内アナウンス!!。

転がる様にトイレに爆走したい気分で、ゆっくり、のろおり、のろおりとトイレへ。慎重にスローモーにやらないと一色即発。そうなることは火を見るより明らかなのだ。

その夜は正に地獄のヘル・ナイト。

どう考えても尋常ではない下痢状態。

いくら水分摂取過多だったとはいえ、水アタリ、だとか腹冷え、といったレベルではないのだ!と両親に訴える。

何度もトイレと自室を往復、過酷な下痢ぴょんキャラバン続けるボクに、救援の医者が夜9時あたりに到着。

ボクは “ 大腸カタル ” である、と!。

風邪のウィルスが腸に入って発熱したんだと!。

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絶食ダイエット(17) / 浪人生の絶食ダイエット / 身体の防衛機能の限界

Title : 脳内・非常事態・警告・発令・の図

 

 

 

絶食ダイエット12日目。

ほとんど眠れず一夜を明かす。

朝7時過ぎ、トイレに行こうと部屋を出頭ら(でがしら)、登校する弟とハチ合わせ。ヤツは慌ただしく靴履きながら

「兄貴。さっきオフクロがねー、眠ってる兄貴の顔見たら死人みたいな顔だったって言ってたよ」

鼻先で閉じられるドアをしばし見つめ立ち尽くす亡霊兄。

 

奇遇だ。実は昨夜か未明か分からないのだが、ボクは三途の川の渡し船発着所で整理券を受け取っている夢を見た。

「アナタがエンマ様ですか」

「突拍子もない。大王がこのように現世に近い場所までお出で(おいで)になるはずもあるまいに。タワケ」

その者の顔は暗くて全く見えない。

明かりが灯っているのに何故だろうと、ボクは自分のパジャマを見下ろし仰天。

紐に吊り下げられた洗濯物の様に、パジャマの下に中身なし!!。

明らかに今、ボクがこうして身に着けているというのに!!。

これは大変な事になった、のっぴきならない状況だぞと青くなり、顔なし男に

「ボク、引き返して帰ります。そこの道を戻ればいいんですか」

「ダイエットに戻るのか。死にに帰るのか。もう此処にいるんだからリフレインするのも面倒じゃない?。マ、どっちみち此処に戻るんだから別にいいけ…

目が覚める。

普通ならゾッとする反応が通常かもしれないけど、そこは美しい10代。

さして深く考えることもなくヒトコト、

「変な夢」

即忘却の彼方。

しかしながらだ。母の言葉を重ね合わせると流石に心に暗雲立ちこめる。これは予告だろうか、暗示だろうか、啓示(神の声)なんだろうか。

やや青ざめながらフト気が付くと体重計に乗っている。シマッタ!、計測は1日の終わり、すなわち今夜11時過ぎなのに!!、と舌打ちしつつ目を落とす。

 

58キログラム。

 

頭空白。真っ白。

その瞬間、ボクの周囲の全てが静止した。

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絶食ダイエット (18) / 浪人生の絶食ダイエット / 脳機能の低下

Title : 空きっ腹を覗き込む男

 

 

 

 

次第に当初の目的からガタゴト逸脱。

チョットあんた、浪人生なのに何やってんの?、と四六時中も自責の念。

絶食ダイエット13日目。

今日で終わりなんだから、と言い切れない自分が恐い。

やっぱり少し変。いや、かなり変。?。

脳が正常な判断を下せない状態にでもなっているのだろうか?。

急に不安。凄く不安。

発作的に勉強机に着席。

脳がマトモに、人並みに働いているか試してみなければ、と豆タン(手のひら大の英単語辞書)のページを適当に開き、まだ暗記していない単語をチョイス、ノートに筆記。

「VICTIM、犠牲。VICTIM、犠牲…」

と意味を口に出して呟きながらボールペンで何回も何回も繰り返し書き続ける。

大体ボクの単語暗記法はこんな感じ。大学ノートA4に1単語を5行。そこで次の単語にチェンジ。

そんなことを取りつかれたようにパジャマ姿で2時間。指が腱鞘炎(けんしょうえん)気味になってきたので終了。

壁に張り付いているナメクジをジワッとはがすようにペンから指を1本づつ。

ひええ。久々の勉強気分で後ろめたさが多少軽減。

「はぁぁぁ~、お疲れ」

真昼どき。

「ちょっと散歩してくる」

「あ、じゃぁ帰りに大根とキャベツ買ってきて」と母にパシリを命じられる。

通りに出ると5月の太陽光が閃光の様にボクの目を射抜いた。

やけに眩しい(まぶしい)。鋭い。

目を一本線のように細めフラフラと歩き始めると、カラッポの胃の中に雨上がりの湿った空気がヒウッと流れ込むのが感じられ、何だかいいようのない虚無感にとらわれる。

こんな時のボクは、いつもなら迷わず焼きそばパンと卵蒸しパンのセット食べで気分を発散させるのだが、当然それは今ご法度。日頃、いかに自分が間食摂取でストレスを消化排出していたのかという事実に気づき、しばしボーゼン。

白いテリヤを連れた女性とすれ違う。犬がボクを鋭利に見上げ、突如けたたましく吠え始める。

「アウアウッ!!、アアウッ!!、アーッ、アアウッ!!」( バカかお前は!! )

ふん。そんなこたぁ~言われなくても分かってるツゥの。

 

しかしマジやばい。

痩せる誘惑の勢いに圧倒され身動きの取れない今の現状は、マジやばい。

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絶食ダイエット (19) / 浪人生の絶食ダイエット / 判断力の欠如

Title : 体内の異変

 

 

 

絶食ダイエット2週間目。

起床と同時にあたふたと洗顔歯磨き、迷わず台所でコーヒー。

ゆらありと現れる母、「勉強してんのアンタ」と恨めしや。

「今日から始動します」と素っ気なくボク。

いえいえ嘘ではないのです。いい加減に勉強始めないと不安で仕方がなく、その重圧たるや子泣き爺に捕まった旅人に等しく…。

溜まりに溜まったラジオ講座の英語授業を聴きながらモクモクと受験勉強に励む姿はドーヨ。

しかし時折、目がかすむ。アレ、何だこの曇り。コンタクト無き両目をゴシゴシ。

何とか回復するも、これまでにない現象。

ソレが何度か起きたものの、気が付けば5時間ノンストップで勉学特急!。

やったネ、この調子でイケば楽勝合格かもーと立ち上がった瞬間、あたかもテニスプレイヤーがサーブ打とうと大きく振りかぶった時のように大きく部屋が斜めに回転、ボクは冗談のように畳の上に勢い込んでブッ倒れェ~!!。

何だコレ。

何だ今の。

全身に底なしの疲労感が湧き上がり始める。そしてソレは止まらない。

何だか…。理屈抜きにマズイかもしれない…。

これ以上の絶食は…。

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絶食ダイエット(20) / 浪人生の絶食ダイエット / 生きることを放棄した脳

Title : 顔を出した死神~トゲオ君

 

 

 

絶食ダイエット15日目。

朝10時に起床。夜更かししてラジオの深夜放送を聞いていたら眠れなくなってしもうたのだ。

それというのもカーペンターズの大特集をやっていて、カレン・カーペンターが過酷なダイエットを敢行した挙句に拒食症となり、遂には亡くなってしまったという話を聞いて心底凍りついてしまったからだ。

クワッ!と目を見開けば闇。

途方もなく限界のない大海に独り、小舟に仰向け、これは確かに例の噂の渡し舟!、の気分。

自分も死ぬのでは?!、という至極当然な感想が得られる。

止める。もう止める。絶対止める。

重く鈍い頭で、ヤドカリが新しい貝殻に移行する時に見せる静止を賭けた慎重さをもって布団から這い出てゆく。

「私は死にたくないのです……死にたくない…」

などと半分おふざけで呟いてはみるものの、立ち上がりかけて凄まじい眩暈(メマイ)、そのまま布団に受け身も取れずにブッ倒れる!。

しばらく仰向けのまま天井を見つめる。頃合い伺い、大丈夫そうな気がするので少しずつ起き上がろうと試みる。

もはや気分的なものではない。

明らかにこの体は危険な状態にある。医者でなくても分かるものは分かる。今ボクを診察して「問題ありませんね」などという医者がいたとしたら、それは絶対にヤブだと断言出来るほどの危うさだ。

部屋を出る。台所が薄暗い、テレビの音が聞こえてこない、ということは母外出中。

父母揃って進んだ放任主義、と日頃から高く評価していたこのワタクシであった。

あったが…。何故ここまで危険な状態に至るまで放置していたのであろうか!、などと逆恨みしつつ、遂に絶食ダイエット開始初、全裸となり玄関壁の姿見の前に立つ!。

少ししか痩せてない…。何だよこれ…。

既にボクの脳は正常な判断を全く下せない状況下にあった。

むろん、この時のボクはそれを知らない。

もう十分に痩せていたのだ。

肉体的機能の凄まじい低下はハッキリと認識出来るものの、まさか脳が栄養不足で半死の状態であるなど夢にも思わなかった。だって、ごく普通に物事考えていられるから。

薄暗いキッチンのイスに座し、しばし呆然と時を過ごす。

体重を計ろう。そうだそうだ。

もう。絶食は止めた。んだから。夜まで待つこ。とないんだよ。な。そうだそ。う。だ。今計っ。………てし。ま…

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