ネコならエッセイ 1 / ネコ寄席 / 猫なで声の一席

Title : 招福亭あじすけ

 

 

 

Title : パチンコ丸シロー

 

 

「よく人間様達が “ 猫なで声 ” なんてぇことを申しますがァッ?。……エエ?、あれはどうゆうことなんでございましょーかねッ?。

相手に媚(こび)を売って甘えたりなんぞしましてね、そんでもってコッチのお願いを聞いてもらおーてな時に出す声のことをいうらしーんですな。はて、

手前どもネコから言わせてもらうてーと、チョットばかしおかしいんじゃぁねぇのかなと。…コッチは人様に撫でられてる時は無言なんで。気持ちよか~、なんてぇ目ぇつぶっておりやすでしょ?。声なんざ上げませんやね、ポルノ猫なんてぇものは存在しちゃおりやせんもんで、へっへへへ。するてぇと、

猫なで声たぁー、ネコが人様を撫でながら出す声なんでやんすかね?。そんな猫おりやすかね。犬なら分かりますがね。ひたすら奴らはコビるでやんしょぉ?。そういや、飼い主のヒザなんぞに両足乗っけて、

「くぉぉ~ん~」

だとか甘え声とか出してるじゃぁねーですかい。ありゃぁ、猫なで声たぁ言わねえのは何なんでしょーね?。ええ?。人様が猫なで声出すんなら犬だって出しても構わねぇーでしょ?、それが常識ってもんだ。しかしですよ、

ハナから犬なで声てぇ言葉が有っても良かったんじゃぁ、ねーですかい。早い話、人間が考える言葉なんてーものはいい加減なんですな。

猫かぶり、なんてぇ言葉もそーなんですな。カマトトぶってる、みたいな意味なんスが、詐欺師がネコの被り物してるイメージでいいんスかね?。あの~、原宿なんぞに売ってるネコのぬいぐるみをムリムリ帽子にしたよーなヤツ。

犬かぶり、じゃどーしてダメなんでやんすか?。犬のもレッサーパンダのもあるんですよ帽子に。…ええ?。

そもそも、招き猫なんてぇのもオカシイ。招くんだったらシオマネキのほうが大げさに招いてますよ。カニのね、シオマネキ。沖に向かってカモーン、カモーンてやってるでしょ?。よっぽどオーバーアクションじゃぁねぇのかなと…。

何です?、そこのお客さん、ずいぶんと怖い顔なすって。何か気に入らねぇことアッシが言いました?」

「言いましたかだと?。何ノーテンキなこと抜かしゃーがる、この耐えがたいオオボラ吹きの悪魔が来りて笛を吹く野郎がッ。くだらねーことばっか言ってるとカンベンならねぇぞ、こちとら猫は潮なんぞじゃなく福を招いてんだ福を。ア?、カニと一緒くたにタコ部屋に叩き込まれてたまるかって話なんだよ!!」

「お客さん、あそこの、ホラ、この先の布団屋さんの二階。あすこのタコ部屋、フトン一杯で温かくて寝心地最高なんスよ。行った事あるんでやんしょ?」

「ある」

ネコならエッセイ2 / パチンコ丸シロー / 寝たネコを起こすな

Title : 話題となった先週の事件

 

 

 

Title : パチンコ丸シロー

 

 

「こないだのデビルキッドさん、凄かったわね。あのあと救急車でERに搬送されちゃったんですって」と眉ひそめる永岡さんちの飼い猫メウク(メス、4才)。

「コワイわよねぇぇぇ…。ポケモンがポケットモンキーとはいえ、猿とは程遠い容姿をしているように、軽率な行動は笑い者になっちゃうってことッショ?。ねぇ、ことッショ?」と不必要なまでに声を潜める短岡(みじかおか)さんちの飼い猫ウエハアス(メス、5才)。

「今の季節は朝晩の寒暖差が激しいからね、物がね、腐りやすいんだって、ウチの奥さんが言ってた」と潜めた眉をさらにひそめ、眉が細めになるメウク。

「つまりサー、サムライが必ずしも英雄ではないし、野茂英雄はノモヒデオであって、ノモエイユウでもあったってことじゃないのかショ?、あの偉業だと。そうッショ?。うん?、そうッショ?」

「あら、そうなの?。ウチの奥さんね、昨日ね、買ってきたヌカにね、塩と間違えて砂糖入れちゃってね、新しいヌカ床ができたって大喜びしてたんだけどね、今日ね、味見して仰天してるの。ヌカ喜びって怖いわね(しみじみ)しみじみ」

「そうなんだ~。ルパン三世の峰不二子が二つはない子って書くんだったら、それ、双子じゃない子って意味っショ?。じゃ、大抵の人は不二子ってこと?。でショ?」

「ごめんね、そのアニメ知らないの」

「何でルパン三世がアニメだって知ってるの?。変ッショ?」

「ああ。名前だけは知ってるから」

「じゃ知ってるんだよ、それは。でショ?。月見大福、月見うどん、てフツーにあるけど、だからといって太陽大福、太陽見うどんは絶対あってはならないんだって掟、あれと同じと言えるッショ?。ど?。言えるッショ?」

「うううん…。ウエちゃんは頭いいからね~。私にはむずかしいな~。エビ天あるけどカニ天ない、イカ天あるけどタコ天ない。そんな法則でいいの?」

「ま、そうね。相棒ってドラマあるけど、用心棒の棒と同じ意味ッショ?。二つの棒で立ち向かうと、ひとつの時より強いから相棒は大事。でもでも、だったら杖でもいいんと違うかなッショ?。ヤッショーマカショー?。杖だって振り回せば棒と同じ威力あるッショ?。へ?。あるッショ?」

「犬も歩けば杖に当たるってこと?。何か……杖なら犬は充分によけられる気がするアタシ…。おかしいのかな」

突然、二匹のメスネコの頭上、木塀上からイラッとした声。

「おかしいんだよ!!、アア?!、おかしいに決まっとるだろ!!。オスが塀の上で秋の惰眠(だみん)をむさぼってる下でワザワザ井戸端会議やる、……ナメてんのか!!。栗の実煮てます井戸端なんて歌う奴があるのか!!。ア?!、帰れ帰れ!!、このッ、いまいましい、…どうしようもなく救いがたい乳児定番食事メニュー名称野郎どもがッ!!」

シローは激怒して立ち上がった瞬間、前足が滑って塀の反対側に落ちた。

 

「静かになったわね」

「バツが悪くて逃げたんショ?。パチンコだけにハジかれたんショ?」

ドッと笑う二匹のメスの笑い声を塀越しに聞き耳、怒りに全身震わすシロー。

 

 

ネコならエッセイ3 / パチンコ丸シロー / 栄光へのジャンプ

Title : 猫エンマ大王いわく「シロー、見事だ」

 

 

Title : パチンコ丸シロー

 

 

秋晴れの午後四時、飼い猫のパチンコ丸シローは日課である近所の縄張りパトロオルに出かけた。二階角部屋の窓から正面の塀(へい)ぎわの柿木の右半分、地上から約2メートルに位置する、上から数えて第3番目の枝に跳び移り、それから塀へ移動して自宅前の土道へと着地する。

それから右方向へ約10メートルほど進んで床屋の角を右折、人家脇に置かれた三輪車3台と壁の間30㎝の空間を通過、そこで走って来たオートバイの音に身構えて一時停止。走り去るバイクの運転手後ろ姿を監視しながら、

「何だ、そば屋じゃねえか。全くイマイマしい…。ザルソバだか何だか出前に走り回りやがって、このホソボソ野郎が、全くおめでたい人生でないか」と吐き捨て数メートル先を左折、ところが正面は工事中で通過できない様子。黄色いヘルメットをかぶった男どもがワーワー言いながらドリルで道に穴を掘っている。

「ババ、バカじゃないのかお前らはッ!。いい年して遊びほうけやがって!。そんなこったから千代子に人生色々なんて笑われるんだろうが。ア?」

仕方ないので、手前の国有地看板のある原っぱフェンス下の隙間を、ノシイカのように体を平べったくしながらくぐり抜け、反対側の道路に出ることにする。

「ん?」

シローは雑草が生い茂った原っぱ隅の樹木に何故か心ひかれ近寄る。何か知らんが妙に惹かれる木だ、よおし、いいだろう、この木の枝を噛みまくって毛玉吐きの起爆剤にしよう、と思い立ち、さっそく1メートルほどジャンプして枝に乗り、小枝に噛みつく。

10分ほどかじっていたが、妙に気分がハイである。シローは目の前で鳴いているツクツクボウシを妙にニヤニヤしながら眺めていたが、そろそろパトロールに戻ろうと地面目がけジャンプ。何故か反対側の人家庭へと跳んだことに空中で

と思うが、次の瞬間には豪邸庭のプールに落下。スローモーションで暴れる。泳げない。訳が分からない。

シローがかじった小枝はマタタビだった。マタタビはネコにとってはお酒、は嘘。マタタビはネコ科の動物に軽度の神経マヒを起こさせる作用がある。

「たたた助けチくりいいいいーッ!!」

視界に入った母娘に向かい、溺れながらも叫びまくる小太りネコ。

「ママ、ネコが溺れてるーッ!。ユーチューブにアップするからカメラ取って来る!ママ助けちゃダメだよッ」女子中学生は慌てふためき家の中へ。

母親はドギモを抜かれた。溺れながら、ネコが水槽掃除の間プールに放っている1尾8000円もする金魚を片っ端から食べているではないか!。現時点、被害総額は約25000円といったところか!!。

「大変!!、パパのかけがえのない金魚たちがッ!!」

母親はプールに飛び込み、口の端(はし)から金魚のシッポを垂らして気絶寸前のネコを小脇に抱えプールサイドに上がった。

「何てことしてくれるのよバカネコ!!。飲み込んだ金魚、吐き出しなさいよ!!」

「何だとナメてんのか、この…イマイマしい……あぶ…あぶく銭野郎がああ…」

シロー気絶。栄光の勝ち逃げだった。

 

ネコペディア

またたび 再び科の樹木。別名再会の樹。花言葉はジカタビ。ネコの好物。またたびとネコとの関係を記した江戸時代の文献、いわゆる “ またたびもの ” は庶民に絶大な人気を誇った。

ネコならエッセイ4 / パチンコ丸シロー / 赤い金魚の疑惑

Title : バットマン竹内

 

ボクらにいやされる人間。ボクらは誰にいやされるのかな?

バットマン竹内

 

 

Title : パチンコ丸シロー

 

 

「アンタ、こないだの猫ドックで血圧高いって出てたからな、金目 (鯛) の煮込み汁、辛さはいつもの半分の味付けにしといたよ。薄味になっとるけど、そん代わりな、汁はいつもの二倍にしといたから、それでガマンしてなぁ」

「ありがとう勝美ちゃん(バットマン竹内の飼い主、飛虫原勝美。とびむしばらかつみ、52才。コンビニ、セブンカナブン勤務)。やさし~」

そう言うと、竹内は完全に飲み干した魚煮汁の皿を未練がましく8回舐めた。

 

縁側における二人の会話を背中で聞いていたパチンコ丸シローの背中が猫背になったかと思うと、次の瞬間、シローの濡れた右肉球には4cmほどの赤い金魚が握り締められていた。

勝美に歩み寄り、彼女の膝頭前、金魚を縁側の白っぽい縁側板にボーリングポーズで転がしてみせるシロー。

「ちょちょ、ちょとぉー!何すんのよアンタァー!ヒトんちの庭の池の金魚捕まえて見せるってのーッ!それで誉めてもらおーなんて何考えてんのよー!!」

「オバハン…。その金魚よおく見てみるがいい」

「あん?」

猫背になり金魚を覗き込む勝美。

「うっすらと金魚の周りがゼリーっぽいのに包まれとるだろうが。ア?。とっくに死んで水カビがついとるゆうことが分からんのか、このいまいましいアホンダラがッ。水カビの繁殖を未然に防いだネコに濡れぎぬをきせるのか、この、この…(怒りのあまり言葉が空回り)……」

「勝美ちゃんだよ、ボクの飼い主のお名前。勝美ちゃんなんだよシローちゃん。忘れちゃった?」とあどけなく微笑むバットマン竹内(シロネコ2才、オス)。

「かッ、勝美野郎がッ!」竹内につられ話をしめくくったが、シローは自身のマヌケさが今、とても際立っている様に思えてならなかった。

ネコならエッセイ5/ パチンコ丸シロー / 不景気でグレードダウン

Title : シロー

 

 

「あぁら、お帰んなさい野武子(のぶこ)さん。頼んどいたシローの猫缶、買ってきてくれたんかね」

「買ってきましたよオバアチャン。だけど、今回はプレミアム猫缶じゃなくて1ダース、並にしました。オバアチャンからシローにそう言っといてください」

「えええええええ~ッ!。やぁだよそんなこと言えっこないじゃないかね~。どしてプレミアムじゃないのよぉぉ~」

「今は不景気なんですから、シローだけVIP待遇なんて冗談じゃありませんよぉ~。私だって土日のお休み返上して、休日を月火を振替にしてまでパート働いてるんですから~」

 

ちょうどその頃、薄曇りの空を眺めつつ、パチンコ丸シローはカワラ屋根に居た。しきりに立てた両耳をレーダーのように旋回させていたが、それにも飽きてきた。

昼のTVで「いやぁ~、そろそろ秋の声が聞こえるんじゃないでしょうか」と言っていたのを小耳にはさみ、ふと自分も秋の声とやらが聞いてみたくなり此処まで上って来たのだった。

夕方、自宅に戻って来たシローは二階角部屋の自室に直行、ダンボール箱に敷き詰められた砂金の上で用を足すと居間へと降りてゆく。

TVニュースを見ながらオバアチャンが、

「この…、あおり運転ての?。何でなくなんないのか分かる気がするねぇアタシャ。悪い事すると子供がマネするからやめましょーってサ、よく皆が言うじゃないのー。子供は運転免許とれないからマネできないもんねぇ~、だから安心して堂々とやってんだ、きっと」

「バアチャンただいまー。オレの猫缶は?」

「アー、シロー。アンタのマミーが買って来たよ。駅ビルの地下の、輸入食料品店、アンタ知ってんでしょ。あそこで安売りしてたから」

「安売りだと?キサマ…。どこまでいい子ぶれば気が済むのかと言いたい。…どこに……アア、テーブルの上か。全くクソナマイキな」

シローはピョコリとジャンプ着地し、見慣れない缶詰を手に取った。

「英語だから読めん。マミー、読んでくれんか」

「えー。アタシだって読めないよゥ。貸してごらん、ええなになに…。大きな字んとこしか読めないけど…んー……ノン・プレミアム……ノン・カロリー、え?………ノン・デリシャス………」

「何だ?小さい声でボソボソ呟きやがって、この、どうしようもない、いまいましい通訳野郎がッ、アッ!どこ行く気だ、逃げようってのか!!」

「ちょっと、アタシ、お店戻って買い替えてくるわ」

ネコならエッセイ6 / パチンコ丸シロー / 愛称で呼んで

Title : ネコが見る世界

 

 

Title : パチンコ丸シロー

 

 

「“ いつも心に太陽を ” なんて昔はよく言ったもんだけどサー」と、玉突家のオバアチャンであるところのダイナマイト・オミヤ(本名)。

 

「はっはっは!。それが今では “ いつもバッグにスマホを ” ですからねー。時代は変わりましたよねー、ダイナマイト・オミヤさん」

と、渡る世間は鬼ばかりだと思っていたのに、最近家族で渓谷遊びに行き、途中、山道を横切る沢蟹(サワガニ)の大群に遭遇して以来、渡る世間はカニばかり、と人生観を180度転換してしまったご近所の主婦万田千恵(41才)。

 

「何ですか万田さんたら水臭い(笑)。ダイナマイトなんて堅苦しい。親しみを込めてマイト・オミヤと呼んでくださいな(笑)」

「あら!。いいんですか、そんな(笑)。でもホントそーですね。フライドチキンだってライド・チキンて呼ぶ方が、揚げたてのチキンがバイクにまたがってるイメージがありますし、タピオカだってカピパラって呼ぶ方が、なんだか温泉気分になりますもんね(爆)」

「あなたの言ってること、アタシ、年なんでついていてけないワー。シロー、アンタ分かるぅ~?」

オミヤの声を無視し、彼女の足元で毛づくろいをしているシローの右手首を顔からグイッと引き離すオミヤ。

「何しやがる!!、このクソいまいましいオハギ3つも頬張る食い意地張った爆発娘は今いずこ野郎がッ!。毛づくろいの邪魔すると承知しねぇぞ!」

「まあまあ、マイト・オミヤさん。たかがネコなんですから(笑)」とオミヤを制す千恵。

「何だ?。キサマ今なんて言った!。たかがネコだと?、だったら、アシナガバチを足長オジサンて呼ぶのか?。ハ?!。そんなこと言ったら足長オバサンはどこって話になったら…………どうなるんだろうか…」真夏の夕立直前のように、みるみるシローの表情に陰りが出始める。

急に無口になったシローを見下ろしてオミヤ、超上から目線で

「ア、考えてるわ、今。フフフフ…足長オバサンは今どこなのかってね……」

 

 

ネコならエッセイ7/ パチンコ丸シロー / キッチンの勝者は誰

Title : 名月メロンパン(メロンパン上はシローの先輩、オセロ乃介)

 

 

 

Title : パチンコ丸シロー

 

 

「人間の身体で、響くと言われるのはどこだろうか」とキッチン食器棚の上からキッチンテーブルで栗の皮をむくマミー、すなわち野武子に声がけする飼い猫パチンコ丸シロー。

 

「ええ~?。そ~ね~………。心に響く耳に響く……そんくらいかな~。口に響くの歯医者さんの器具だしな~。あ、違うか、歯に響くのか…。こないだ抜いた親知らず痛かったなァ~。…でも、何でそんなこと聞くの?」

「大家さん知らないって、こないだ挨拶してコビ売ってたじゃないんか嘘つくな嘘。…ッたく、救いようのない牛丼汁多めが……。ところで続きだが、鼻とかには響かんのだろうか」

「響くんだろ~けどね~。鼻の穴もカテゴリ的には洞窟と言えない?。洞窟の中って音は響くでしょ?」

「何だとキサマッ。鼻の穴の中にコウモリがいるとでもいうのかッ。……それはそうと、人間の身体で打つのはどこなんだろうか」

「そね。やっぱ、心を打つ、…う~ん…ギリで耳を打つもアリかな~……何でそんなこと聞くの」

「目とか鼻は打たんのか」

「まぁねぇ~。打つと痛いから(笑)…何で?」

「ほしたら、染みる(しみる)のはどの部分か」

「何ヨこの質問。……心に染みるだし~、目に染みるだしぃ~、これもギリで鼻に染みる……かなぁ~。あ、こないだ鼻血染みた」

刺さるんはどこか」

心に刺さる、……。う~ん、そんくらいじゃないの?。何で?」

「何でだとキサマ。そんぐらい察してみちゃどうだろうかね、とぼけ切ったシブカワぼけの犬専用裏切りトリマー主婦がッ!。どのツラ下げて何で?なんて聞けんだよアホくさいッ!。いい加減にしろよ!!」

「何言ってるの?。どうしたの?。便秘?。ねぇ。便秘?」

「はッ、恥ずかしい事を何度も言うんじゃないッ、このどうしようもない連呼野郎が、何考えてんだよクソッ!。分からんのか、

響く打つ染みる刺さる、全部に当てはまっとるのは人間のだけゆうこったろうがね?。鼻は無視か?、口はどげぇなっとるか、アア?。だとしたらば、飼い猫は心ばかりか、鼻、口にさえも徹底的に響き、染み、刺さり、ほんでもって打つのはプレミアム猫缶だけだと違うのか。ア?それを何だキサマ…」

野武子は栗の皮を包丁でむく手を止め、かつてシローが見たこともない慈愛に満ちた眼差しで棚の上のネコを見上げると、

「うううん、違わない。並の缶詰を食べるのよアンタ。これを聞いて耳に響いた?。耳を打った?。耳に染みた?。ふっふふふ、もう解答は見えたようね。耳が痛い。これでしょ~?。また、何だとキサマって言うのかな?」

「何だとキサマとは何だキサマ…この…このどうしようもな…」

「アジ食べる?」

「アジ ?!。アジと言うたのか今ッ!!」

「さっき神田岡さんちの御主人が釣ったの、おすそ分けでもらったのよ。冷蔵庫に入ってるけど、暴言の反省しないと冷蔵庫開けてあげないよ~。どう?、反省した?」

「はい」

「ホントかなぁ~。激しく反省した?」

「はい」

「自分がどうしようもないイカレポンチのパカチンネコだって前々から気づいてた?」

「はい」

「反省する?」

「はい」

「アタシって美人かなー」

「はい」

 

「すごいのねぇぇぇ…アジの力って」

 

ネコならエッセイ8 / パチンコ丸シロー / 家庭内リンクとは

Title : 秋の日のキビキビとした右折

 

 

Title : パチンコ丸シロー

 

 

 

「マミー。さっきから黙りこくって何を読んどるのか、このいまいましいアンポンタンのキリタンポが」

昼食をポテチで済ませ、キッチンテーブルで昼下がりの読書にふける野武子に向かって、冷蔵庫左脇に置かれたヌカ漬けバケツ上に座した飼い猫パチンコ丸シローが眼を閉じたまま眠たげでありながらも鋭い口調で言葉を投げつけてきた。

「ええぇ?……恋愛小説よ」

「それは何なのか。…………………………読んでみんか、ちょっと」

「ええぇぇ~?。面倒臭いなァ~。ネコには関係ないでしょうが~」

「チッ(舌打ち)。飼い猫が読めと言ったらグダグダ言わずに読まんと!。そんな飼い主に育てた覚えはないのだから。早く早く早くッ」

 

◆以下、野武子が読み上げた小説内の会話

「一体、オレ達……いつからこんなに心が遠く離れちゃったんだろう…」

「アア!それは分かってるわよ、チョット待ってね日記出すから、アア、これこれ、ええとドコだっけな、ドコだっけー、アー!これこれ、ここに書いてあった!。ええとね、2018年9月3日!。この日からワタシ達の心が遠く離れ始めてんネ」

「………」

「何。何で黙ってんの」

「そんなこと、数字で分かるものだと本気で思ってんのか。心って簡単に割り切れるもんじゃないだろ」

「そーそー、2018+9+3で5だからキッチリ割り切れないネー、確かに確かに、アナタ計算早いのね、一瞬じゃん、スゴ!」

 

「とまぁ、こんな感じ。分かった?」とシローを振り返る野武子。

「日記というのはパピーがいつも読んでるオマエのノートのことなのか」

「えっ」

「タンスの裏側に隠してる赤い表紙のノートのこととは違うのか」

「えええええええ?!。何ソレ、何でアンタがそんなこと知ってんのよッ?!。パピーがそれ読んでるって、アンタ見たのッ?」

「何だとキサマ。そんなとこオレが偶然見るとか、本気で考えてんのか、この救いようのないヤラセ・ディレクター野郎がッ!。バアチャンに聞いたのだバアチャンに」

「じゃあ、オバアチャンも日記のこと知ってるってこと?!、やだ、どうしよう!」

「何を言うキサマッ。ピミー(野武子の息子)が最初、タンスの裏に転がったピーナツ取ろうとしてパピーがタンスずらして見つけただけのことだろうがタワケ!。ところで日記に目次付けてもらえんだろうかね、繰り返し読みの時、探しにくいけんね」

ネコならエッセイ9/ パチンコ丸シロー / ネコの集会

Title : チョビットちゃん

 

 

 

Title : パチンコ丸シロー

 

 

秋の味覚猫種としてミケ猫の次に人気の晩夏猫種で、今9月イッピ付で満1歳となったチョビット(オス)が、却都町(きゃっとまち)に越してきたのが9月3日。

チョビの飼い主の虫原佳代子さんは、先月から在宅勤務となり、いとこの飛虫原(とびむしばら)勝美の勧めで転居してきたのだった。

飛虫原さんには、縁戚の走虫原(そうむしばら)鉄春さんが飼う仰天乃助(ぎょうてんのすけ、キジ猫7才、オス)と、

同じく遠赤外線関係にある落虫原(おちむしばら)幸三が飼うところの献血乃嬢(けんけつのじょう、白猫3才、メス)との間に出来た子供を、

縁戚関係にないが偶然にも苗字に類似点のある腹虫(はらむし)光代さんの勧めでもらいうけた、という経緯がある。

何故、光代さんが勝美に子猫を飼うことを勧めたのかというと、

当時(三か月前)勝美は勤務するコンビニ、セブンカナブンで店長補佐見習いに抜擢されており、

その重責に耐え切れずストレス過多で深刻な過多凝りとなり、毎夜マッサージ店に入り浸るようになった。

それを見るに見ていた光代さんが、どうせお金を落とすなら猫でも飼って猫缶に落としなよ、と落としどころをチラつかせたところ、勝美は本気にし、現在のバットマン竹内飼育に至ったというわけだった。

 

チョビはバットマン竹内に付き添われ、今月初のネコ集会に参加した。

ネコの集会とは、同じ町内に住むネコ達が情報交換を目的として集まるもので、情報交換の内容が人間達に漏れないよう脳内テレパシー交信という形で行われる。

各々1メートル間隔で集会場所である空き地隅に座し、情報を受け取りたい相手に向かって一瞬だけ目線を投げかけると、閉じ目の相手が情報を送信してくれる、という段取り。

この日は9尾の猫が出席、チョビが最年少、バットマン竹内以外は皆立派な大人ばかりだった。

チョビはおそるおそる一番遠くのメスネコに視線を投げかけた。すると、

“ この町は猫には暮らしやすいわよ。犬が少ないし路地が多いしね ”

ふぅぅん、そうなんだ~。と初交信成功に嬉しさを隠し切れないチョビ。今度は少し離れたフェンス手前でアクビをしたネコに目線を。

“ 子猫なんだから同じ子猫と遊ばんとな。子猫がよく遊んでるのは~この空き地裏のネギ畑の奥だよ。今度行っておいで ”

行く行く、行っちゃう!。チョビはテンション上がりまくり、今度はフェンス上で背を向けているオスネコに視線を勢いよく投げかける。

“何だキサマ、今ウツラウツラしかけたのに交信なんかしてきやがって、この、どうしようもなく厚かましいキャベツ抜きのお好み焼き野郎がッ。風と共に去りぬが何でテリーヌなんだよ、アア?、ッたく開いた口がふさがれたらどうなんるのかって話だよ、聞いてんのか、お前だよ、オーマーエ~、もしもーし!”

ネコならエッセイ10 / パチンコ丸シロー / 人をいやさないネコ

Title : Japan カモノナカ配給 『実写版・パチンコ丸シロー』場面より

「いつになったら自由に温泉行けるのか」

 

 

Title : パチンコ丸シロー

 

 

 

顔を全面マッ暗、パピーが夜中の1時に帰宅。夕方6時に就寝し、今起きたばかりのオバアチャンと台所で遭遇。

「あれまぁ、ハルオ、どしたのぉ~そんなに落ち込んだ顔してぇ~」

「うん…会社でチョット…。こんな時は酒の力でも借りないと眠れそうもないよ。……おばあちゃん、冷蔵庫からビール出してくれる?」

「ノンアルコールの缶ビールでもいいよね?」

「アア…いいよ」

ヤケになっているだけあり、息つくヒマもなくノンアルの缶を次々に飲み干してゆくパピー乙女座の男35才、1児の父。

「何か…気持ち分かるような気がするねぇ~。アタシだって時々思うよ、失うものなんて何一つ持ってないんだからサ、このままポックリもいいのかね~、なぁんてサ…」

言い終えると同時、キッチンテェブルの下で日課の毛玉を吐き、それをお隣の女子大生キミちゃんから貰ったジュェリー・ケースにディスプレイしていた飼い猫のパチンコ丸シローが怒りの声を上げた。

「失うものが何一つないだと?したらば、いつもワタシの老眼鏡がないと大騒ぎしてるアレはどうなるバアチャン。アレは失ってしもうたのか。ア?、ア?」

「まだ置きちょったのかシロー。老眼鏡はなくしとらんよ(笑)」

「なら言い直さんといけんだろうが!。ワタシには失うものが何一つあります、だろうが!。日頃から嘘はいけんと、あれほど言ってるのは嘘か!。アア?!」

「そうか、そうか、分かった(笑)。…アタシには失うものなんて何ひとつあるんだから、このまま…」

「入れ歯は失くしたんか、バアチャン」

「え?。テーブルの下で物言うと、よく聞こえないよシロー、上がっといで」

しかし、シローは大きさ順に毛玉をジュエリーケース指輪入れに配置している最中であり、なおもテーブルの下からイラッとした大声。

「入れ歯も、ないとメシが食えんと半狂乱になっとるでないか!。したらば失ったらイカンのは老眼鏡と入れ歯で、さっきのは何二つと言い直さんと !!。早く言わんかッ!この二枚舌がッ!!」

「もう~仕方ないねぇ~(笑)。……アタシには何二つしか…、ええ?……ア、何ふたつ、でいいのか…。何二つ失うものがない。これでいいかなシロー」

「何だと、これでいいかなだと?、一体どこまでネコにいやされてりゃ気が済むんだって話か?!、吐いた毛玉がふさがらないとか何んとかいうんは、コーユーことだ、ふざけるのも体外にしやがれ!!」

激怒するパチンコ丸シローに、あたかも火に油を浴びせかける様にパピー、

「シロー。体外じゃなくて大概の間違いだよ。ネコだからって漢字を間違えていいわけじゃないなぁ~アッハハハハ」

「何だとキサマッ、オレはマンガの世界でフキダシで喋ってんのか?!、ア?、何でそんなこと気づくんだ、このいまいましいノンアル気分野郎がッ!!」

「シロー、パピーはお酒が入ってるんだから大目にみてやんなさいよ(笑)、オトナゲないねえ」

「何抜かしゃーがるッ!。大人毛たくさんあるのと違うかオレは!全身毛むくじゃらと違うとるんか、ア?。何なんだよこの家。こんなうちに飼われとるんかオレは、情けないッ!! (激しく舌打ち)」

 

2時間経過

 

「はよ言い直さんと、バアチャン」とプレミアム猫缶の在庫チェックしながらシロー。

「はいはい。ええと…、アタシには失うものは43228…しかないんだから」

「それ、幸せなことと違うんかバアチャン」と振り返りながらシロー。その両目には真珠のように光り輝く涙が…。それを見たパピー、

「何だこのネコ」