キミといつまでも / 町内会の課題

常軌逸した類(たぐい)まれなるモンキー園児であるボク。その名を地域一帯に轟かせた最大の愚行!。今回は是非ともソレを書き記さねばならない。ボクの生き物フェチは確かに常識ハズレ。大抵の児童はトンボやカエル、魚採りに興じるものだが、ボクのは違う。ボクのは訳が分からない。

小動物を捕獲所有することに全力を投入するのではなく、命を懸けるのである。よく釣り人が高波にさらわれ行方不明になるニュースが報じられるが、釣果への果てなき憧れと執着が、自然界への畏敬や畏怖の念を超えてしまった悲劇と言えるだろう。大人でさえ魅了せずにはおれない “ 狩り ”。あまり意識することはないが、釣りも魚獲りも昆虫採集も、全ては狩りなのだ。

メダカ。フナ。それらの魚影が半透明の水中を横切るを見たが最後、ボクは完全に度を失い水中に両腕を投入、出来もしない魚の素手取りにノボセ上がる。当然獲れない。網などボクは持ってない。買ってもらえない。そんな物を与えるは両親にとって自滅行為。それは我が子への死の罠、悪魔の思うツボ。

池の水を児童自動洗濯機と化し、やみくもデタラメにかき回しただけの徒労。愚かなサルは絶望と失意で、池水面につかる周囲の樹木枝を無意味に激しく揺さぶりながら、オーイオイ、さめざめと泣く。その世にも悲しい幼児のメロディ聞きつけた周囲の小鳥達、涙を目にたたえ笑い狂う。「ブァ~クゥワァァァ~!」。

その時、ガキンチョの全身に電流が駆け巡った。何だこの感触は?!。何という奇跡?。マジ?。ボクの裸足の右足が間違いなく踏んづけているようだ。恐らくフナを!!。フナぉぉぉ!!。ボクはゆっくりと腰を落とし、右手を水中にソッと突っ込み、踏みつぶしているフナを掴もうと体をクの字に。

とッ。届かないッ。くそう…。ゆっくりと水没してゆくボクの顔。少しだけ足を上げフナを掴もうとした刹那、それは瞬時に失われた。失われたのだ。すっかり、全くもって失われた。イノシシのウリンボが半狂乱で突進するかの様に、愚か発自暴自棄プンプン園児列車、岸に上がるや力尽き、脱線。

そのショックは数日経っても失われない。キリスト自らが降臨し、哀れなる園児の前に差し出したフナを、自らの手で叩き(はたき)落としてどうする。この屈辱的なる怒りを聞いてくれる人間など、ボクの周囲には1人もおらず。異常行動をとるならチワワでも恐い。そんな感じだったのだと思われる。ともかく、ボクの憤懣(ふんまん)やるかたない感情は自身の中で逆流を続け、まさに一触即発の状態であったのだろう。

初夏の夕暮れ。夕涼みの為にあつらえられた様な風、心地よいせせらぎの音。川べり流す数名の人達が交わす目のやさしさ。くつろいだ微笑み。と、山がシルエットになる直前、それが起きた。

アホンダラ幼児が、眼下4メートルの水面を食い入るように凝視している。水深約1メートル、澄み切った川の流れは緩やか(ゆるやか)。1尾の野鯉が川縁でゆっくりとくつろいでいる。大人の誰かが「大きな鯉だなぁ。丸々と太ってるじゃないか」。次の瞬間だった。声の持ち主はオノが見た光景を一生忘れることはないだろう。いや、忘れぬばかりか孫子の代まで語り継ぐよう遺言するやもしれぬ。

ほぼ垂直に園児が落下。いや、落ちたのではない。ボクは野鯉を捕獲せんと彼の上に降下したのだ!。

どぶぉぉ~ん!。「子供が落ちたァーッ!!」

すっとぼけて夕暮れの癒しタイムを過ごしていた薄紫色の見事な野鯉は、突如化け物に全身を羽交い絞めされ総毛立つ!!。むろん、鯉に毛は生えていないのだが。♪ ボクはキミを死ぬまで放さないぞ。いいだろ?と加山雄三(君といつまでも / 曲中モノローグ歌詞)に激しく共感するボクの情念を見たか?!。暴れようにも完全に全身を猿の手足でロックされた鯉は悶絶寸前、ボクと鯉とで代わりばんこに水中、水上、くるりくるりと繰り返しながら流されてゆき、2人の先に待つは深さ3メートルの滝ツボまがいのチョッとしたダム(?)。

半狂乱でかけつける母の肩を支えるは近所のオバサン。彼女の夫が現場に居合わせ、サンダルのゴム紐切かけながらも、風雲急を告げに舞い戻ったのだ!。その彼に先導され、母とお友達は髪振り乱し現場に到着。10人程の人だかりか。果敢にダイビングし、溺れる園児を低い堀の岸辺まで引き上げた功労者は30代のイケメン男性。ヒーローが「お母さんですか?!、大丈夫ですよ!!」と指さす先、

気絶した野鯉を羽交い絞めにした猿が全身ずぶぬれで横たわっている。

「▽▽!!、大丈夫ッ?!」。一瞬、薄目開け母の顔を見やる。すぐ目を閉じる。なるべく苦し気な表情をしていた方が得策なのだ。怒られないためには。

 

◆写真タイトル / 私は鑑賞用

 

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珍味と虫 /子供の食事しつけ

幼稚園の帰り道、といっても我が家とは全く反対方向なのであるが、ボクは見知らぬ景色の中、見知らぬ同世代と出会った。彼は栄太郎の扇雀アメの様な輪郭を持つイケメン園児であった。

どんなキッカケでコンタクトを持ったのかは記憶にないが、ボクは彼の自宅へ言った。というより彼の家族が営むカマボコ屋へ連れていかれたのであった。

むろん、ボクには何の店であるか皆目見当もつかない。アメは母親らしきものと店奥でヒソヒソ喋っていたが、母親とアメが同時にボクを見たのでギクリとする。何かボクの悪行が発覚したのであろうか!。しかし唸り声上げても何ひとつ思いつかない。知り合って10分、2人の間には未だ何のエピソードもない。悪事の数々を犯しているヤサグレ園児には、こうした陰鬱(いんうつ)な後ろめたさが付きまとっているわけだ。

何やらアメが、新聞紙にくるまれ湯気を上げているものを2つ手に持ち戻ってきた。「これあげる」「何あにコレ」。ボクは渡されたソレをしげしげと見つめる。「イカだよー。おいしーよー」といって食べ始めるアメの唇はたちまち油光り、熱いのかハファ、ハフゥ!、とアゴ突き出しながらムサぼっている。

イカとは何だろうか。ボクが手に持つコレは一体いかなるものであろうか。ボール紙程の厚みがある薄茶色の勉強下敷き大のコレがイカ、というものなのか。それは、ふにゃふにゃした天ぷらのコロモのようなものに包まれ湯気を立てている。つまり、珍味などでよく見られるイカ天だったのだ。バリボリと固いソレを食べるものだが、揚げたては非常に柔らかい。そんなこと、ボクには知る由もなかったのだが。

ひとくち食らいつき、もちゃもちゃとせわしなく噛んでいると、突如、骨の髄(ずい)まで、脳髄にまで染み渡るようなメガトン級の旨さがボクをメチャメチャに揺さぶった。産まれてこのかた、このように旨い物を食べたことなど1度もない!。ボクは猛然と食べ始めた。親の仇でも打つかの様に、唇、頬を油まみれにして、ろくすっぽ噛まず、まだ口の中のソレが飲み込まれる前に、次々とイカ天を口の中に送り込んでゆく。

「ヒィィェック!!、xxxxxxxxヒェェェック!!」

突拍子もなく始まったボクのシャックリ音にアメがハッ!っと顔を上げた。

「ヒィエヘ、エック!!、エック!!」。弓なり反り返り胸元をコブシでパンパン叩くボクを見たアメ、喉に詰まったのだと察知、店奥にダッシュ!。アメもかなり動転していたのであろう、ゴハンが3分の1ほど入ったお椀に水を半分ほど入れて戻って来た。それを引っ掴みラッパ飲み!。勢い込んだせいであろう、水が両鼻の穴に流入!。「平気?」と優しく声をかけてくる上品お坊ちゃまの顔にボクの口から逆流放水!。

「ゲェハハハーッ!!、ウンゲッ、ハハーッ!!」

激しく咳き込む、いたいけな児童の悲鳴を察知したアメの母親がゾーリの音を荒々しく引きずるように登場。「何ッ、どうしたのボクッ!、大丈夫?!」。ボクの制服の胸元がビッショリなのを見たお母さん、ボクが右手に握りしめている食べかけのイカをモギ取って脇のテーブルに置き、ボクの服をタオルで拭くつもりだったのだろうが、ボクの手からイカを引き離せないことに驚いてはみたものの、それは諦めタオルを使い始めた。「むせちゃったのかねー。あんまし急いで食べたらダメよお」というそばから再び夢中で食べ始めている学習なしの姿に、ゴハン粒散りばめた我が子を見やり「この子、どこの子?」と聞いた。「えっとネェ。…………。道端にいたの」。

虫。

 

◆写真タイトル / どこの子?

 

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影武者園児 / 親心の空

大人がサジ投げるこのボクだ。友人など1人もいない。ボクもまた、友達の必要性をパン屑(クズ)ほども感じやしない。負け惜しみでも何でもなく、ただただ唯我独尊(ゆいがどくそん)、ボクの相手はの山や沼の生息小物。それらとのガチ勝負こそ生きる証し。なのに極めて純度の高い交戦に助っ人を呼んだとなれば一体どうなる。山妖精、沼妖精から侮蔑のそしりは免れぬ。やだやだ、やァだッ!、そんなの、やァーだッ!。以上…。

そのような訳で、幼稚園の先生が投げたサジ、両親、近所の大人子供が投げたサジ、それらを広い集めては使えるものは使わねば、とケナゲにサジを布磨きする母に「ムダなことはやめなさい」と諦め顔でたしなめる父。ボクの父は帝大主席卒業の学者肌、堅物のエリート。長男にはキラ星ほどの夢もあったことだろう。

それがどうだ。産まれて見ればボリショイサーカスの花形跳躍ノミ。しかもソレは所定のトランポリン上ではなく、観客無視したテント外、誰1人居ないディープバイオレット黄昏を背に、得意の絶頂で跳躍繰り返す意味なしシルエット。このバウンドの高揚感はボクだけのものなのだと言わんばかりに。父親ならずともガックリ膝を折る光景であろう。

エッセイ “ 園児のビッグディ ” で記したバラ絡むフェンス塀。ヘビ捕獲に味を占めたボクは柳の下のドゼウ狙い、以来足しげく点検通いするようになっていた。その白フェンスにぐるり囲まれた家は田舎の風景にひどく不釣り合い、いかにもお金持ちが住んでいそうな赤レンガ造りの洋館であったことをボクは知らない。目の前に突き出されたバナナをチンパンジーの幼児がひったくる時、彼はバナナ盛られた器の形や色を覚えているだろうか?。なわけで、ボクにとっての敷地の全ては、ヘビが出てくるやも知れぬアールデコ調のフェンスだけだった。

快晴お手本の様に晴れわたる遅い朝だったように思う。なにせ虫や魚を探し回るが常(つね)、ほぼ下しか見ないでほっつき歩く園児の顔さえ上げさせる青空。この記憶に嘘はなし…。ボクがバラのツタ隙間をジロジロ検閲していると、洋館のドアが開いて中から母子らしき2人が姿を現した。

目を凝らすボク。ここで人を見たのは初めてのことだ。彼女を見たなら、ボクの母は同じ女性であるとは決して名乗れない程、そのヒトは美しかった。陽光浴び白銀に輝く帽子と服、そして靴。彼女が押す車イスには見たこともない紺色の帽子と服を着た小学1~2年生くらいの男の子がふんぞり返る様にして座っている。彼の母は、きゃしゃな両腕で車イスを苦しそうに一歩一歩、噛みしめるようにユックリ押し、白きバラの咲き誇るアーチ型門にまで辿り着くと、肩で息しながら息子に何やら耳元でささやき、少し小走り加減で自宅へと引き返す。忘れ物でも取りに戻ったようだ。

「ヘビどこにいるか知らない?」と叫びながら無遠慮に近づいてゆくボク。その間抜け顔も、間近で彼を見た途端にカチンカチンと瞬間冷凍されてしまう。彼の両目視線は垂直に青空を貫く。まるで瞳の全てを空に捧げているかのよう。その表情は彫刻の様に真っ白な頬の上、唇はバラの様にざわめき美しい。口の端から垂れる透明な水アメは、バラ達が伸びあがるほど美しくキラめいていた。

だが、彼の左足はつま先から太もも付け根まで、見たこともない茶色の皮ブーツに覆われていて、十数本の銀色金具を付けたベルトの隊列が彼の脚を覆いつくしているではないか!。「あら」。彼の母親の声にビクッと肩震わせるモンキーキッド。

すぐに黒塗りの立派な車がやって来て、親子はすぐさま乗り込んだ。運転手が子供を抱き抱えたし、車イスもたたまれた。その不可思議な光景にボクは言葉を失う。車が動き出すと、一転の曇りも見当たらぬ黒塗りボディーにスーッと青空の帯が写し出され、突然スッと消失。ボクは全く相手にもされず取り残される。

夕食時。あれは誰か。と両親に尋ねる。付き合いがないから分からない。何故子供がリヤカーに座っているのか。リヤカー?。リヤカーに座っていたのか。そう。

数日後、近所のオバサン達と立ち話していたボクの母、アッと小さく無音な叫び。ウチの小僧が言っていたのはコノコトだったのか!。

さらに数日。夕食直後に突然発熱したボクは、自宅に急行したハイヤーに乗せられ、カカりつけのアブクマ医院へと搬送される。バラのアーチ門前を通過し、車は大きくカーブして急こう配の坂道をジャリ石ハジき飛ばしながら下ってゆく。熱でうかされるボクの目に坂を降りてゆく例の母子の後姿!。一瞬ヘッドライトで浮かび上がったでしょ?!。

「ハアアッ!」。反射的に車のドアを開けたボクは走行中の車からジャリの海へともんどり打って転がり落ちる。「キャーッ!!」母のつんざく声。車の急ブレーキ音!!。2~3回転デングリで止まるボク。「救急病院へ行きますかッ!!」。緊迫した運転手の声。結果的には、少しスリ傷が出来た程度だったにしても。

この日よりも前に彼が天国へ旅立っていたことなど、ボクに知る由もない。ボクの見た親子は人違いだったのだ。あの家は住人を失った。失意の両親は遠くへ越す。その前日、美しいヒトはボクの母友にこう声をかけていたそうだ。

「たった1人のお友達がお見送りに来てくれて、あの子もとっても喜んでいたんだと思います」。

 

◆写真タイトル / ふたつの水滴

 

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取扱い注意園児 / 裏面表記確認の重要性

家族初体験!。我が家の冷蔵庫にカルピスなるジュースがやって来た。その白い液体は瓶の中に入っていて、今この時も冷蔵庫のどこかでしめやかに息づいている。その所在をボクは知らない。何故か。ボクには冷蔵庫を開閉する権限が与えられていないからだ。どうしようもないキカンボウ ( 聞かん坊 ) が何故素直にルールに従うのか、と不思議に思う人がいるかもしれないが、ボクの異様なる行動の全ては生き物に対してのみ発揮されるのであって、それ以外の事柄に関しては常識の範囲内、ごく普通の素直な児童の行いであったのである。ともあれ、人生初経験のカルピスなる飲み物の美味しいこと!。甘酸っぱく形容しがたい爽やか(さわやか)さ。その都度ボクは母にお代わりをせがんだが、常に答えは「いけませんッ」。カルピスは、ワタナベのジュースの素(もと)をも凌ぐ(しのぐ)ボクの大好物飲料なったのだ!。ああ、いつかカルピスを浴びるように飲んでみたい!。

以外にも、その日は早く訪れた。昼下がり。その日は何故かボク1人でお留守番。そこへ近所の顔見知り(小1)がやって来た。ベランダ越しに軽口叩き合ううち、彼が「喉乾いたぁ~」。すかさずボクが「カルピスあるよ」。何の考えもなしに彼をキッチンへと誘い( いざない )、テーブルに座らせ禁断の冷蔵庫扉をいともたやすく開けてしまう。既に掟を破っている自覚はない。何故かというと、園児だからである。知り合いの前でイイカッコ出来る。ただそれだけで地獄の門を開く。

ドボンドボン、ドブォンッ。両手でドップン重たい瓶を何とか傾け、比較的背丈あるガラスコップ2つそれぞれに、並々とカルピスを満たしてゆく。むろん、カルピスは水で薄めて飲む、という知識などボクにはないから、コップに並々とつがれたカルピスは原液。何故コップ2杯で瓶がカラになってしまうのだろう、という素朴な疑問がプ~ンと蚊の様に脳ミソを横切ったが、そんな事にこだわりようがない園児。互いに満足げな面持ち、真剣白羽取りでコップを傾ける。コクコクコク。グビ、ゴクゴク。ひとしきり飲んだ後、幼児2名の間に変な間があった。しかしまた、ゴグゴグゴク。グフッ、コクコク。たまらずボクが「おいしい?」「ん?。……うん」。コクコク。クビー。

いつも母が手渡してくれるカルピスの味と全然違うのは何故か。コップ一杯飲み干したのに渇きが一層つのるのは何故か。知り合いは両コブシを額にブリグリ押し付けながら、弱しく「気持ち悪いぃ…」とつぶやき、そのままキッチンテーブルに突っ伏してしまった。ボクも突っ伏す。瓶の中身がちょっと減っただけなら両親にバレないとタカくくったのに…。どうしてこんなことになってしまったのだろう。分からない…。どうして…。

 

◆写真タイトル / 壁

 

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園児のビッグ・デイ / 放任主義とは何か

 

何という素晴らしい1日だろう!。途方もなく人騒がせな園児であるところのボクは、人生最大のビッグ・デイを前に卒倒寸前であった。その1時間ほど前、珍しく幼稚園教室に我が身を置き、空虚感にプライド中を舐め尽くされながらも、あてがわれた牛乳の味覚に人生の空しさ飲み分けているボクではあったが、何というドンデン返しな1日!。バッド・デイがたちまちビッグ・デイ!。これだから人生は分からない!。

幼稚園の送迎バスを待っている間に早くも魔が差し、家路と反対方向へチョロチョロ歩き始めるボク。ふと見上げればフェンス塀に可憐なバラの華の一群。その隙間にチロッと顔覗かせている縞蛇の赤ちゃん!。(シマヘビ / 青大将と共に馴染み深いヘビ。無毒)。憧れの君とのハチ合わせ、卒倒せんばかりに興奮!。マングースがキングコブラに挑みかかるように反射的に蛇を襲うボク。一瞬で確保!。それを奇跡と呼ばずして一体どうするというのだ!。

ボクの手首にからみつく、茶色がかった冷たいウロコ肌をヒッペがし、幼稚園帽子の奥に押し込む。すかさず黄色い帽子を丸めたところで先生の呼び声。脱兎の如く反対方向めがけて駆け出すボク。つんのめりながらも体制立て直す己(おの)がバランス感覚の素晴らしさはどうか!。猿だボクは!。ボクは猿!。自分のことを猿だなんて、何てステキなことを思いついたんだろう!。そうだボクは猿なんだ!。湧き上がる陶酔にめまい覚えながら、カルガモヒナの様に沼岸に至る。そこで第二の奇跡に遭遇!。

何という光景が展開しているって言うんだあーッ!。沼全体の水が蒸発、粘土色の沼底がほとんど全貌をさらしている。ところどころに残った水は僅かもワズカ!。水溜りなど恐れずに足りず!。こちらに彦星、あちらに織姫居たのなら、2人は造作もなくシッカと手を握り合うこと出来るだろう!。それはそれとして、手前の泥上を巨大なアメリカザリガニがブラブラ歩き回っている。座り込んで泡吹きながらブツブツ独り言つぶやいてるヤツもいる。ボクは丸めた帽子をカバンに突っ込むと「ワアアアアアーッ!!」と雄叫び上げてザリガニの群れめがけダッシュ。その瞬間、ヌルヌルの泥に足とられてスッテン滑り、後ろ向きに背面転倒!。何するものぞと起き上がり、ターゲット定めたザリガニ目がけてダイブ!。ヤツには届かず再び転倒!。

子猿の1人パフォーマンスにたまげ上げたザリガニ達は激しく動転、ワラワラと逃げ惑う!。もどかしくも狂気で舞い上がるサルは転びに転び、顔の判別さえつかぬドロ人形と化した。だがしかし、ヌモォォ~と垂れてくる泥で半ば失われかけている視界に映るザリガニを、見事にワシ掴む熟練のワザは見事!。このワザを見れば、見てくれれば、先生も両親もボクへの評価をきっと上げるに違いないのに!!。人より抜きん出た、計り知れない未知数の能力がボクには有るんだぞ!!。更に、フランス人セレブの奥方集う、高級エステサロンのインストラクターが今のボクの姿を見たのなら、間違いなく泥風呂エステの新しいカリキュラムのヒントを思いつくはず!!

.今回は近所の有志捜索隊の出動なし。珍しくボクは夕刻前に帰宅した。成果に満足したのと一刻も早く戦利品を自宅に持ち帰りたかったのだ。大人であれば、その行為はコレクションと呼ばれる。

夜9時。布団の中、興奮冷めやらず寝付けないボクの耳に母の叫び声!。階下が運動会のざわめきにも似た気配!!。その瞬間ボクの全身に落雷直撃感!!。

園児の誤算1。石鹸も使わずボクは全身の泥をシャワーで適当に落とし、同じく泥まみれの衣服とズックをバケツに入れて自室に隠した。母や弟が今にも帰宅しそうで洗濯している猶予はない。そのことに気をとらわれ、数10匹のザリガニを水の張られた湯船に放ったことをすっかり忘れてしまったのだ!。あとでそれを網ですくう楽しみを考慮してのことだったが、時間の猶予がないことと全く矛盾している。それが園児の浅はかさなのだ。夕食後すぐ寝室へ引っ込んだ猿。湯船のフタを開ける母。立ち上る湯気の中、湯にプウカリ、プウカリと其処此処(そこここ)に浮かぶ茹でザリガニ。フランス人なら「まあ!美味しそう、トレビアン!」。しかし母はフランス人ではなかった。まずい!!。父の厳しい叱責を恐れたボクは、布団から飛び出し机の引き出しにしまったヘビを窓から捨てようと引出しを引っ張る!。

いない……………。全くもって、おりません。

ショックのあまり息も絶え絶え。しかし、ソコはソレ。奮闘尽くした猿のゼンマイはたちまち切れて夢の中。階下では第二波。再び母の金切り声。

「キャアアアアーッ!!。ヘビッ!!。ヘビがいるーッ!!」。

息子のビッグ・デイは親のバッド・デイ。

 

◆写真タイトル / 園児道

 

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砲弾みやげ / 子供教育の極意

 

小学6年生になったボクらは偉い!。学校の最年長生徒だから!。と、得意の絶頂でノシ歩く。校舎の廊下、運動場、学校裏の山ン中、竹林の中さえも!。

クラスのマブダチ3人と学校帰り山中散策。思い立つのも無理はない。眼の覚めるような五月晴れ。快適温度で風もなし。歩き始めて小1時間、いつもは素通りの竹林(たけばやし)に突如反応する御一行。「あれ見てみ。アレ」「アレ?。何だタケノコか?」。ザワザワと口々に驚きの声を掛け合い、タケノコの周りにしゃがみこむ。最も愚かな生徒であるところのボク、両手でタケノコ引っこ抜く仕草。案の定、既に保身能力に長けたキュ~ちゃんが「怒られやしないか?」「誰に」とボク。「自然に生えてんだから誰のでもないジャン」と皆を見回す。「そうかな」「勝手に生えてるのか」「この辺で人見かけたことある?」ない、と皆。

歓声を上げ次々にタケノコを抜き上げる子猿の小グループ。動物番組でよく見受けられる光景だ。「もっと根っこから抜かないと!。途中で折ったら勿体ない」などと得意満面で指導するボク。タケノコは小ぶりな物も有るにはあるが、大半は一番太い部分の直径が大人用茶碗大、地上丈30センチ弱といったところ。

やがてモンキーらはタケノコをミサイル弾に見立て、奇声発しながら互い目がけて連続発射の集中攻撃!。アドレナリン全開、日々の心労も一切忘れ右へ左へ旋回しながら大ハシャギ。10分も経った頃だろうか。ミサイル発射体制に入ったボクの視界に野良着を着たオジサンの姿。瞬時にひるむボクら。しかしオジサンは全く怒らず

「カマーン!、カマーン!」と前屈姿勢で身構え、両手をパンパン叩き催促顔。

は?。顔見合わせるモンキーら。「投げてッ、遠慮なくッ」と普通顔で催促する大人に向かってミサイル構えるボク。「いーんですか」「いい。早くッ」。手加減して5メートル先のオジサン目がけて発射!、ではなくトス。届かないッ。すかさず前に飛び出す小柄な大人。キャッチ!。それをすかさず別児童へ回しトス!。キャッチしたキョトン顔のメイトが滑稽きわまりない。

しかし我に返るや「おー!。ラグビーみたいッ」と感動、真似て隣へトス、それが次々回ってボク。思い立ち、脱兎の如く適当に走りタッチダウン!。してみる。どうでしょうか…。弱弱しい中途半端な拍手を受けおずおず立ち上がるボクの眼にオジサンの微笑がキラリ。

「奥にリヤカーあっから使っていーよ。あとで戻してー」と回れ右。姿消失。

あの人が竹林の持ち主だったんだナー、だから止めときゃよかったのにサー、とか口々にわめき散らしながら山を出る児童ら。「コレ分ける?」とボク。皆は異口同音に「いらない」「重いからいらない」「袋ないジャン」。

あの道、あの角、次々に別れ、後に残るは1人リヤカー引くボク。取っ手がイブシ銀に光るリヤカーには、数にして約20本のタケノコ。それを引くのは重労働。腰にくる。ボクンチの近所まで到達する頃、アタリに夕暮れ忍び寄りー。

「アラッ!。どしたのお~ソレ!」と顔見知りのオバサン。「もらったの」。

台所に立ち料理中の母に1本のタケノコをかざして見せる。

「これ、料理出来る?」「どうしたのソレ」。

一部始終を話す。「竹林に雑草たくさん生えてた?」「全然」「じゃあヤッパシその人がチャンと管理してる竹林だったんだワ」「でも、くれたの」。

父帰宅。弟と同じセリフ。「どっから持ってきたコレ!」。玄関脇に積み上げられたソレら。ウーン、と感無量のボクちゃん。

「稼ぎがあるって、こーゆーことなのかー!」。

 

◆写真タイトル / 自我

 

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園児の新築祝い / お家にも黒帯

 

真夏の白昼夢か。モズが狙っていた大きなキリギリスの横取りに成功したボクは覚えたてのスキップで有頂天凱旋するも、何故か母の機嫌はヒッジョーに悪く、そのキリギリスにウチの敷居を跨がせ(またがせ)るわけにはいかないのだと!。逃がしてこいと頭ごなしに叱責され、口答えを試みようとしたが母の凄まじき剣幕に成すすべ無し。玄関口で呆然と立ち尽くす可哀そうで幼気な(いたいけな)このボク。何故母は激憤していたのか。これより3時間ほど前、今ボクが立っているこの場所、つまり玄関であるやり取りがあった。ウチの並びで2~3軒先のオバサンが、自慢の家庭菜園にて手塩にかけ育て上げたイチゴのお裾分け分けに来たのだ。やり取りは以下の通り。

「今年はあんまり沢山は採れなかったんですけどもネ、よろしければ召し上がって下さいな」

「まあ美味しそうねえーッ!!。去年も頂いたのに又こんなァーッ!どうしましょう!」

優しくて人当たりの良いオバサンと特にそんなことはない母が玄関でやり取りしているところへボクがゆらああー、と登場。

「アラ、▽▽ちゃん!。イチゴ好きかしら!。これネー、甘くて美味しいよ!」

「知ってる。いつも畑で食べてるから」

「畑?。畑ってウチの畑のこと?」

「そう。いつもイッパイ食べてる」

母の面目は丸潰れとなり、オバサンのボクに対する信頼は地に落ち、頂き物のイチゴは一粒たりともボクの口に入ることはなく、捕獲された怒りにムウムウと羽根震わせるキリギリスもまた、我が家に入ることはなかった。昼日向、いつまでも未練たらしくカゴのキリギリスを見つめていたボクではあったが、遂に観念、仕方なく垣根をはさんだ隣家の庭花壇めがけ、キリギリスを泣きの涙で弱弱しく放出したのであった。ところが、それを家の窓からたまたま見ていた同い年くらいの男子幼児、鳴り物入りで家から登場、スタスタスタ真っすぐ花壇にまで歩み寄り、土上のキリギリスをサッと片手で捕まえてしまったのである。アアッ!!。

「採るんじゃないッ、それはボクのだ、返せッ!」

「うちの庭にいたからウチのだよーだ!」

そう捨て台詞を吐き捨てると、その者はプイッ!っと背を向けサッサと家の中に収納されてしまった。なななな、何ということが起きたのだ!!。こんなの全く許せない!!、とんでもないことである!!。怒髪天を突いたボクは金切り声を発しながら垣根にまたぎ乗り、その上で垣根に引っ掛かった日向干しザブトンの様にしばし静止、それから垣根を乗り越えるというよりはやや傾いただけ、変な間があって向こうへドスリと落ちた。クッション性を考え、意図的に他より丈の高い草むら上へ落下したのではあるが、ボクの背丈より長い深緑の葉縁はカミソリの状になっていて、アアラ大変!、起き上がったマヌケ小猿の顔は何か所も切れて血まみれであった。

巻き上げたキリギリスをカゴに収納していた隣家幼児は、突如パムパムパムとコブシで自宅窓ガラス叩く鈍い音にハッと顔をもたげる!。ベランダ窓サッシに血まみれ顔の幼児が両手を高く掲げ、コブシを打ち付けながら何やら喚き(わめき)散らしているではないか!。恐れをなした彼はたちまち奥の部屋へと姿をくらます。残された化け物は尚も泣き狂いながらガラス窓叩き続けはするのだが、いつまで経とうが応える者なし。どうやら中にいるのは留守番小僧だけだったようだ。

憤懣(ふんまん)やるかたないボクは他人の庭隅、ひとしきり仁王立ちのまま青空見上げ泣き叫んでいたのだが、そのうち家壁側面の日陰辺り、そっと置かれた見かけないタイプのバケツを発見、同時にピタリと泣き止んだ。しかし余韻のエッエッ、とのシャクリ上げは糸引きながら、精魂尽き果てふらふらと目指すはバケツ、そこに在る。覗き込んでみると真っ黒な液体がドップン入っている。それを塗りたくる為の刷毛も入っている。血まみれ、鼻水、ヨダレまみれのイカレ妖精が、ゆっくりと重たい刷毛を引き出してみる。それはドロォッとした物で、液体というより泥のよう。太陽光が当たるとギラギラッと鈍い光沢を放ち、ボトンボトンとバケツ底に落下する。何という面白い物体であろうか!。

隣家、すなわちこの家。実は新築も新築、出来立てのホヤホヤ。あとは家前私道にコールタールを塗るばかりの状態だった。モダンで洒落た造り。さぞかし家族の夢と憧れが込められている事だろう。

淡いピンクに塗り上げられた家壁にキッパリとコールタールを塗り始める妖精。なにせ幼稚園児、身の丈は知れている。だから塗れるのは下の部分だけだ。ボクは丹念に一筆一筆、真心を込めて塗り進んでいった。そうするうち、何か自分がひどく大人になった気分に襲われ、自ら感極まり、途中、流れ落ちる涙で壁が見えなくなったほどだ!。

キリギリスの魅力など、この愉快さに比べればラムネ一粒の価値もない。途方もなく盛り上がるこの充実感!!。これが刷毛、これが絵具というものか!!。これこそが絵を描くということなのか!!。新品マッサラ一戸建ての壁面、その第2面を快進撃中の悪魔、運良く帰宅したヤツの母親によって捕獲される。その母親の眼前、気の遠くなる様な恐ろしい全貌が明らかになった時、バケツのコールタールはほとんど底をつきかけていた。ボクの園児制服の真っ白な前掛けは墨汁浴びて真っ黒。その実それは墨汁より全然重い。洗濯など到底不可能なその汚れ、そして鼻を衝く強烈なタール臭!。

夕刻、隣家のアルジとその仲間が数人、我が家へ怒鳴り込んで来た。凄まじい剣幕で両親を罵倒している。アルジは体育の先生で柔道黒帯だったとか。それらの声が2階で熟睡しているボクの所にまで聞こえてきていたはずだけど?。

そんなことでは起きないなあ~。今日はお仕事一杯したもん。

 

◆写真タイトル / いかに居ます父母 つつがなしや友がき

 

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筋肉痛の小猿 (前編) / 湿布なき遠征

信じられぬほど有頂天な単独パレードで帰宅した小学3年生と思われる小猿が一匹、自室机にランドセル投げ出し、引き出しから何やらふにゃふにゃのパンフレットを大事そうに取り出す。畳にアグラ座り、猫背気味にして食い入るように見入っている後ろ姿。よくよく見るとそれはボク。へえ、こんな小っちゃかったのかあ。なるほどねぇ…。

何見てんの?。ああそうか。昆虫採集セット、夏休みセールのパンフね。鼻の下伸ばして半ば恍惚で見入ってるねぇ…。明日はご学友一同、誰の身にも降りかかる奇跡、その名も夏休み!。その初日!。

日頃のやりたい放題、その罰なのか。授業中、将来の夢を担任教師に尋ねられたこのサルは、僅かにもったいぶって「昆虫博士」と返答。驚いた教師は「博士の意味、分かる?」「白い服を着てる」「先生の母親も白い服よく着てるけど博士じゃないぞ」「嘘つき博士だよ」などと減らず口ばかりのモンキイ、それゆえの天罰だったのか…。夏休み初日、目覚めてみれば左首筋を寝違え激痛!。そぉッと動けば大丈夫…。ウ……。だけどほんの僅か、神経に刺激を与えられたが最後、

キーン !! !! !! !! !!

眼の前真っ白、自分自身が銀河系を突き抜ける光速ロケット、文字通り本当に全身ピーン!! と直立鉛筆1本状態、その哀れなペンシルに冗談でも誇張でもなく電気ショック10万ボルト(想像) !!。それは幾度か経験済み。さわやかな朝に1人どしゃぶり雨ん中。あー雨ん中ったら雨ん中。行くのやめようかな、との自問に即答、行くと答える猿心。やっぱり行くのかタワケ。バスに乗って5停留所。そんな遠くまで遠征する?、首に爆弾抱えてサ。やだやだ行く行く、行っちゃうんだからーッ!!。

トーストをかじる時、人は結構な力をアゴに与えていることをご存知か。カリッとヒトクチごとにヒェーイのけぞり!!。このトーストかじり続ける猿をば見れば、よおーく分かる。しかし、このような状況下に於いて人は無理矢理トーストを食べ続けたりはしないものである。何故、何度も激痛に飛び上がりながら、決して食べることをやめようとしないのか。何故握った手の跡がトーストに刻印されても、ソレを手放そうとしないのか。そのとびきり滑稽なサル・パフォーマンスを目の前で目撃している母も母であろう。全く笑わず、何か奇異な物体と遭遇したかのような眼差しで我が子を観察しているなどと。

「バス揺れるわよ。大変よ。知らないわよ」「平気」

平気ではなかった。ボクは大人になった今でさえ、このような惨劇を目撃したことは1度もない。ラッシュアワーを完全に終えた時間帯、バスには乗客1人。オカッパ頭のチビ、その顔半分が座席最後尾の左端、ワインレッドの背もたれからチラチラと見え隠れしている…。ボクだ。アンポンタンな頭でここが一番刺激が少ないと考えたのだろうが完全に間違った選択だ。むしろ逆なのだよソコは。その席は。一番前の席に移るべ…バスが発車。駄目だもう間に合わない。何てこった。

無人に等しいせいか、運転手は非常に荒い運転。しかも激しく車体がバウンドする路を走行?、或いはワザと車体を揺らす運転?。このバスはマウンテンバイクなのかと疑うほどの激しい連続バウンド!!。1秒2回のバウンドの度、サルはバス天井を突き破って青空発射せんばかりの衝撃!!。何とか自身の身体を固定せんと両腕に全身全霊の圧力加える無駄な抵抗!!。徒労!!。ひと駅目を通過する段階で、既にチビサルの顔は手負いの茹でダコみたいに真っ赤っ赤!!、冷や汗ぐっしょり、目は血走って息も絶え絶え、せめてバス停で乗客停車でもしてくれれば息もつけようが、生憎次なる駅にも人影は無し!!。

運転手は見た。バックミラー越し、上下の歯を砕かんばかりに食いしばり、オノレの身体ロケット発射を阻止せんと、と崖っぷちで声なき絶叫繰り返す、顔シワクチャまみれの謎がナゾ呼ぶサルの姿!!。一体何だアレは…。バネ仕掛けのサルのオモチャは…。

 

◆写真タイトル / 歌うお子様

 

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筋肉痛の小猿 (後編) / 社会ぐるみで子供保護

わずか十数分がこれ程までに長く感じられようとは!。5階建て専門図書販売店入口、妙に人目を引くキテレツ極まりない動作の児童。その者が今、意を決したように入館するサマが監視カメラに映し出される。その者は奥の階段前で棒立ちとなり、しばし熟考の末、エレベーター前へと移動。極端なスローモーション動画で上へ参りますボタンを押す。

いや違う。そっと触れる。やがてエレベーターの扉が開き、乗り込もうとする真横の大人に怯えたのか僅かに身をかわす気配を見せた直後、ピイイイイーン!と弓なりになり、それは倒れ込むかの様にエレベーターの中へと失せた。

監視カメラを観ていた警備員は身を乗り出す。今のは一体何だったのかと。まるでスローモーション・パントマイムのようなあの動き!。何台あるかは知らないが、彼の眼は2、3、4、5階、各監視カメラのモニター映像を行きつ戻りつ泳ぎ回ったに違いない。

居た!。児童は書物売り場ではなく、化石標本だの昆虫標本だのが飾られた壁面前に棒立ち。後ろ姿だけでも如何に真剣に眺めているかが窺い(うかがい)知れる。児童は壁上面を決して見上げようとはせず、不自然なほどのナメクジ移動で標本販売ショーケースを目指しているようだ。何というジレったさであろう!。座している警備員はモニター前で激しく苛立ちの貧乏ユスリ。

そうだった。この時のショーケースの展示光景は未だにボクの心奥、ひときわダイヤモンドのカケラの様に、眩しき輝きを放つのだ。宝石のカーテンが頭上の風にたなびく真夏の正午、雑木林の木漏れ日を全身に施したボクが汗まみれの震える手で、今まさに梢のクワガタムシを捕獲しようとしているところ!。

アア!ボクが生まれてきた意味はこれなんだ!。感極まって一歩踏み出すその刹那、またも首筋襲う10万ボルト電流に小猿の夢想は粉みじんに打ち砕かれ、モニター画面には再びエビ反る児童の悲惨なひきつけが!。

だがその姿を彼は見逃した。警備員の目は確かに大きく見開かれてはいるのだが、その視線の延長線はヘンテコリンな虫児童の右5メートル、背広の男が書物を素早く手下げ袋に入れる瞬間を目撃したのだ。

度重なる責め苦にもめげず、ボクは標本キットを夢見るように眺め続けていた。これを用いて採集した昆虫の標本をジックリと製作している自身の姿を想像し、桃源郷に酔う!、酔う!、酔う!。

「万引きッ!、現行犯だッ!!」

突如背後で聞こえた緊迫音にたちまち10万ボルトのスイッチが入る!!。しかも不意をつかれての仰天だけに、激痛は本日最大の18~20万ボルトにも達している!! (本人推定)。あまりの耐えがたき激痛に満面シワクチャ、歯を食いしばり悶絶寸前の修羅姿に驚いた女子店員、

「ボクッ!!、どうかしたのッ!!」

ショーケースに突っ伏す様にすがりつき、はあはあはあ!!、と断末魔にも似た熱い吐息でガラス曇らせる小猿!。その様子に店員はただならぬ危険を察知したのであろう、万引き犯を事務所に連行する警備員に

「上の階のお医者さん、呼んできて下さいッ」

大丈夫ッ?、ボクどうしたのッ?!。そんな声を肩越しに何度も何度も聞きながらグッタリとショーケースにかじりつき、首筋への刺激を必死にディフェンスしているボクの脳裏に浮かんだセリフ。

誰かが万引き虫を……採集したぁぁぁぁ…………

 

◆写真タイトル / 曇り日下り坂

 

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新築のお庭 (前編) / 日本庭園の美 / 錦鯉VSナマズ

Title : 一番浅い場所でも、園児には大河

 

 

 

とんでもないご迷惑園児が熊本入りした。母がオバアチャン(母の母)の家に夏休み里帰りしたからだ。

不思議なことにオバアチャンは、自分の周りで猿の如く無意味な回転動作を繰り広げる孫を嬉しそうに見つめ、たしなめるどころか畳に転がるボクを抱きかかえては口を押えてオホホホとさも楽し気に笑うのである。

何故このようなデタラメモンキーの自由行動を許すのか、ボクを憎からず思うのか不思議でならない。オバアチャンだけはジャッジ用の支給スプーンを決して投げようとはしない。どんなに獰猛(どうもう)で危険なケモノも調教師に慣れ従うことは周知の事実。

それは調教師の愛情を認識したがゆえの結果だ。よって、バカチン大暴れ子猿であるところのワタクシも、このオバアチャンのいう事だけは良く聞いた。

と書くと、うちの両親はボクに愛情を注がなかったかの様な印象を持たれるかもしれないが、そうではない。幼児には親の愛情を正確に判断する能力だけが抜け落ちる傾向があるように思えてならぬ。

あまりに近すぎると見えなくなってしまうのだ。こればかりはメガネをかけて調節しようにも無理というもの。もちろん、ボクに限っての結論だが。

 

帰省2日目の昼、父方のオバアチャン(父の母)がボクを自宅に宿泊させたいと迎えにやって来た。どうやら突然の訪問だったらしく、ボクも母も、母の母も気乗りがしない様子だったのだが、遂にお二人さんは折れてしまい、ボクは見渡す限り田んぼのド真ん中に燦然とそびえ立つ新築の家へと連れて行かれてしまった次第。

見知らぬ親戚達の中、ひどく不快感露わだったボクは壮大な田んぼを目にした途端、たちまち心を奪われてしまい、いとこの(同年代)の女の子に

「川はどっかにある?」「あるよ」「連れてって!」と舞い上がる。

彼女宅からアゼ道歩くこと約10分。幅2メートルほどの小川が視界に入るや、たちまち転がるように駆け出すボク。

川底は浅い。ボクが入水してもせいぜい胸元あたりであろう。アメ色の水は適度な透明度を保ち、僅かにゆうっくり流れている。

「あそこに橋があるよ」のイトコの声に「アッ、ホントウだ!」

と、はやる気持ちを抑え、足音消しつつ静かに接近してゆくボク。園児だからと侮って(あなどって)はならない。橋の下は太陽光がさえぎられていて暗い。となればソコには必ず魚が集まっている。

数々の猟をしてきたベテランには分かる。経験とカンだ。影が水面に映らない場所に立ち、ゆっくりと気配を消してしゃがむ。

それから細心の注意を払ってうつぶせになる。それから少しずつホフク前進。ゆっくりと橋の下を覗き込む。どぅれ。

居た!!。

ボクの全身にかつてない程の武者震いが走った!!。暗い水面が大勢のナマズ達ワイワイでピチャピチャ音を立てて波立っている。

それが真昼の間接光でキラリキラリと照り返している。ボクはガラス玉のように大きく目を見開いたまま顔をスックと上げる。

“ 落ち着け!。落ち着くんだ!! ”

1度だけだがナマズを見せてもらったことがある。雷魚もだ。見知らぬオッサンが釣ったソレらを傍らのバケツに入れていた。何という羨ましさ、口惜しさ!。

こここ、こんなのが一体どうすれば手に入るのであろうか!。その時見たナマズはバカでかかったが、今見たヤツらは小さい。20センチくらいの子供だ。

しかし、ウジャウジャいる。少なくとも50匹くらいは居る!!。つま先で、抜き足差し足、忍び足。離れて棒立ちのイトコに向かって声潜め

「家にアミかなんかある?」

「えーッ?。何て言ったァーッ?!、小さくて聞こえないよーッ!」

すっとんきょうな大声にドギモ抜かれるボク。

「アミだアミ。魚すくうアミある?」「セミ獲りのがある」

「取りに行こう!」

園児にも分かる道順。今度は1人で向かう。帽子をかぶっていないので頭髪に触るとムチャクチャに熱い。全速で走って風を巻き起こしたというのに冷めない。

そんなことより、ハアハア!、ハアアア!!。ゆっくりとズックを橋上で脱ぐ。ボクが水に入った瞬間、ナマズ達は水中にマッハで散る。どうしたらいいか?。

橋の下にアミを突っ込み、水面あたりをすくい上げながら、同時に水にドボンと入水、というのはどうか?。それしかない。なにせ、あれだけの数。1匹くらいはアミに入るのではないか!。

などと想像しただけで心臓バクバク、今にも卒倒しそうな呼吸困難に陥る。そんなこと言ってる場合か!。それッ!!。

出来る限り橋の真横に垂直落下。落下途中にアミを橋下に突っ込む。のつもり。実際は両足が川底に着地してからの行為なのだね。

着地した途端、川底のヌメリをもった藻に滑り、バランス崩し、ド派手な波しぶきを上げてうつ伏せに水没ッ!!。プッハーッ!!。

大慌てで顔を上げるや橋下に滑り込みながら水中でデタラメにアミを振り回す。浅かろうが何だろうが、そこには水圧というものがある。マッハで網を振りまくるといってもドダイ無理。もどかしいホウキ履きですかなコレは?。

どうだ!これなら捕まえたか!!、と川の真ん中で仁王立ち!。目をサラのようにして網を覗けばカラ。目の前がマックラリンコ!。

クソウ、どこ行った?!、あんなに沢山どこ行った?!。狂ったようにアミで探り回るボク。これがホントの猿回し、土手の豊満な草が半分水没した箇所に、ここはどうだとアミを入れた途端にぃッ!!。バシャバシャバシャーッ!!。

激しくのたうつ網、アミが勝手に暴れているッ!!、何だこれ、クソッ!!。長い竹の棒がしなり、両手でそれを持つボクの腕が今にもバラバラになりそうだよぉッ!!。

恐怖で全神経に戦慄が走る!!。一体何が入ったというのであろうか!!。