Title : 猫エンマ大王いわく「シロー、見事だ」
Title : パチンコ丸シロー
秋晴れの午後四時、飼い猫のパチンコ丸シローは日課である近所の縄張りパトロオルに出かけた。二階角部屋の窓から正面の塀(へい)ぎわの柿木の右半分、地上から約2メートルに位置する、上から数えて第3番目の枝に跳び移り、それから塀へ移動して自宅前の土道へと着地する。
それから右方向へ約10メートルほど進んで床屋の角を右折、人家脇に置かれた三輪車3台と壁の間30㎝の空間を通過、そこで走って来たオートバイの音に身構えて一時停止。走り去るバイクの運転手後ろ姿を監視しながら、
「何だ、そば屋じゃねえか。全くイマイマしい…。ザルソバだか何だか出前に走り回りやがって、このホソボソ野郎が、全くおめでたい人生でないか」と吐き捨て数メートル先を左折、ところが正面は工事中で通過できない様子。黄色いヘルメットをかぶった男どもがワーワー言いながらドリルで道に穴を掘っている。
「ババ、バカじゃないのかお前らはッ!。いい年して遊びほうけやがって!。そんなこったから千代子に人生色々なんて笑われるんだろうが。ア?」
仕方ないので、手前の国有地看板のある原っぱフェンス下の隙間を、ノシイカのように体を平べったくしながらくぐり抜け、反対側の道路に出ることにする。
「ん?」
シローは雑草が生い茂った原っぱ隅の樹木に何故か心ひかれ近寄る。何か知らんが妙に惹かれる木だ、よおし、いいだろう、この木の枝を噛みまくって毛玉吐きの起爆剤にしよう、と思い立ち、さっそく1メートルほどジャンプして枝に乗り、小枝に噛みつく。
10分ほどかじっていたが、妙に気分がハイである。シローは目の前で鳴いているツクツクボウシを妙にニヤニヤしながら眺めていたが、そろそろパトロールに戻ろうと地面目がけジャンプ。何故か反対側の人家庭へと跳んだことに空中で
?
と思うが、次の瞬間には豪邸庭のプールに落下。スローモーションで暴れる。泳げない。訳が分からない。
シローがかじった小枝はマタタビだった。マタタビはネコにとってはお酒、は嘘。マタタビはネコ科の動物に軽度の神経マヒを起こさせる作用がある。
「たたた助けチくりいいいいーッ!!」
視界に入った母娘に向かい、溺れながらも叫びまくる小太りネコ。
「ママ、ネコが溺れてるーッ!。ユーチューブにアップするからカメラ取って来る!ママ助けちゃダメだよッ」女子中学生は慌てふためき家の中へ。
母親はドギモを抜かれた。溺れながら、ネコが水槽掃除の間プールに放っている1尾8000円もする金魚を片っ端から食べているではないか!。現時点、被害総額は約25000円といったところか!!。
「大変!!、パパのかけがえのない金魚たちがッ!!」
母親はプールに飛び込み、口の端(はし)から金魚のシッポを垂らして気絶寸前のネコを小脇に抱えプールサイドに上がった。
「何てことしてくれるのよバカネコ!!。飲み込んだ金魚、吐き出しなさいよ!!」
「何だとナメてんのか、この…イマイマしい……あぶ…あぶく銭野郎がああ…」
シロー気絶。栄光の勝ち逃げだった。
★ネコペディア
またたび 再び科の樹木。別名再会の樹。花言葉はジカタビ。ネコの好物。またたびとネコとの関係を記した江戸時代の文献、いわゆる “ またたびもの ” は庶民に絶大な人気を誇った。