目に染みる若葉を見ましたか

Title : ずっとずっとずっと

 

 

数日前、ブドウパンを買いに夕方スーパーへ向かった。珍しく徒歩で向かった。明るい夕暮れ。六月ならではの日の長さ。実にそよ風も心地よく、束の間穏やかな心持ちになれた。

セーラー服の高校1年生くらいの女の子が向こうから歩いて来る。

うつむき、両手で自分自身を抱き締め、かなり年老いた人の様に背中を丸め、蒼ざめた絶望の伏目で、僅かに何か想いを噛みしめ噛みしめ、早くももなく遅くもなく歩いてゆく。目に染みる若葉の緑はその子の視界にはない。

通りの音も、すれ違う散歩犬の笑顔も、雑踏のざわめきも、帰宅後の明るい会話も、お風呂上がりのくつろぎの時間も、眠る楽しみも、明日登校後時の期待もない。

 

何もないのはすぐに分かった。すれ違いざまに確信した。きみの深い悲しみが今日だけの事では決してないことも、すぐに分かった。もしも、ひとつだけその子に何かあるのだとしたら、持ち堪えられるかどうか、という疑問符。

声などかけてはいけない。気遣って呼び止めてはならない。どうしたの?などと口が裂けても話しかけてはならない。ボクは変質者の疑いを賭けられる可能性が在る。それが今の日本の常識だから。

 

代わりにボクはただ1度振り返っただけで何もせず、ただ歩いて目的地に向かう。不覚にも涙がこぼれた。無能。冷たい人間。

 

 

どうしていいか、分からないよ。