Title : ジャストミートジャストミート!
ソバ屋の主 ( あるじ ) はここ数日悩み続けていた。どんなに思考の道を
ナンキン玉すだれ放射線状に展開させても、結局答えは振り出し。
「ソバは誰が食っても旨いはずだ」と…。
当然、妻にも同じ質問は投げかけた。
“ 何故若い女性がソバ食べにオレの店に来てくれないのか ”
“そうよねぇ。店だって新築、ピッカピカで綺麗なんだし。
ウチだけに来ないっていうんじゃないのよキット。
やっぱりパスタってことじゃないの~?”
二人は大学生の我が娘にも聞いたし、娘の女子友にも聞いてみた。
「おそばって、男の食べ物って感じ。
パスタ専門店に入り浸る男のヒトっていないジャン。
ソッチはソッチ、コッチはコッチの陣取りゲーム。そーゆーこと」が娘。
「店員さんをサー、オシャレなユニフォームとかにすると
取っ付き易いかも。今、みんなチェーン店に慣れてるから」と女子友連。
「お父ちゃん。今はねー、ビジュアル系の時代なんよ。
分かる?。見た目大事、イノチ」
「味だけで勝負じゃダメなのかい」
「女子は恐がりさんだからサムエだけでも恐いんよ。
パスカラ ( パステル・カラー ) のサムエで流行りの革靴を履きなよ、
セッタじゃなくてー」
「バカ言え、革靴を履いてソバなんかかき混ぜられッか。
凄く熱い湯気なんだ。ムレちゃって1発でダメになるぞ、靴」
「じゃ、父ーちゃんはお店に出ないで、誰か若い子を雇いなよ。
その子にオシャレなカッコしてもらえば?。
それでカレとアタシがデキちゃう!。
いいねいいねェ~!、それでキマリ」。
昼下がり。馴染みの保険会社の若い彼、年は26。
彼の意見に崖っぷちの期待をかけるアルジ。ズイと身を乗り出し
「というと?」。
頷いた今風スーツ着こなしの彼が口を開く。
「食べ方、重要ですね。ソバってすするじゃないですかー。
女子1発でドン引きッスねー。まるっきりオヤジじゃないですかー。
あり得ませんよー。ボク、
パスタすすって食べてるオヤジさん見た事あるんスけど、
ソバとかウドンと違って
パスタって、すすり上げると口で引っかかるんスよー。
苦労してましたよー。あの逆バージョンかなと」。
「すすらないで食べてる娘さん見たことあるけど?」
「アー。でも少しずつ口に入れてくスタイルっスねー。
音も立てず慎重にやってませんでしたー?」
白熱80分。スーツ君の企画アイデアはこうだ。
パスタ屋さんみたいなオシャレなプレート ( 出来ればベネチアン風 ) に
ソバとツユを一緒にして出す。
“ ソバ / カツオダシ・スープ ” みたいな名前にする。
フォークを使い、パスタ同様にスプーン上で麺を巻いて食べる。
その際、麺をツユにからめたいなら、
当てがったスプーンにツユがあれば良い。スプーン上でツケ麺状態にする。
店の名前も “ 春風庵 ” から、
すする庵、を経由して
“ シシリアン ”
へと変換させる。
テーブルとイスも日本風は即刻、排除し、全てパスタ専門店風にする。
「それだと、ソバ麺以外は全部パスタ屋とまるっきし同じじゃねーか」
「ソバでいくか、麺もパスタに変えるかは、
オヤジさんの腕次第ってことッスねー」