大型台風上陸 / 阻止した気象台秘話

 

 

 

「昨夜未明、甘味大島海底付近で発生した台風1374号は、その後、安泰低気圧を巻き込みながら東へ北上を続け、今日未明には鹿乃子島最南端を通過して四国より本州に上陸する構えをみせています。

今後の台風進路について鹿乃子島放臨羅部気象台より旋毛本(つむじもと)さんと電話がつながっておりますので今後の状況についてお話を伺ってみたいと思います。

…旋毛本さん。………旋毛本さん……………。電話が…つながっていないようで…すね…。

ここで一旦音楽を入れ、38秒後に再び放臨羅部気象台と電話を結びたいと思います。時間は2時30分を回ったところです」

 

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「はい、それでは再びスタジオから台風情報をお知らせします。

…昨夜未明、甘味処で発生した台風1373号は、その後、安泰低気圧を巻き込みながら東へ北上を続け、今日未明には鹿乃子島最南端を通過し、四国より本州に上陸する構えをみせています。

今後の台風進路について、鹿乃子島放臨羅部気象台から金剛岩さんと電話がつながっておりますので伺ってみたいと思います。…金剛岩さん」

 

「はい、金剛石です」

「早速ですが、台風1372号は今後どのような進路をとって日本列島に上陸しそうですか?」

「そうですねぇ、一応こちらでは昨夜、台風緊急進路変更会議を招集致しましてですね、適宜必要な措置を幾つか実行に移したところです」

「台風緊急進路変更会議…。とおっしゃいますと。それはどういう…」

 

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「今、画面が台風の影響で乱れてしまいまして大変失礼を致しました。金剛石さん、たいふ…」

「金剛岩です。あの、私、金剛岩ですね。石ではなくて、岩ですね、岩」

「大変失礼致しました。話を戻しますが、進路を変更するといいますのは?」

「ええ。今回初の試みなんですがァ。…台風進路に先回りしまして、列島上陸の入口となる可能性の高い高知の足摺岬最先端に雨男さん雨女さん57名に、この方達は鹿乃子島市内在住のボランティアの方々なんですがァ、急きょ集まってもらいましてね、現在、足摺岬の先端部に集合してもらってます。ええ」

雨男雨女さん…。と申しますとォ~ッ?」

「ええ。雨男雨女さん達はご存知の様に雨を呼んでしまいますからですね、今回の様な大型台風の場合は特に降雨量が多いですからァ、雨男さん達が足摺の最先端に陣取ることによって台風が嫌うと思うんですよゥ、台風にしてみればよそ者に見えるわけですからァ。それで何とか進路を変えて列島上陸を未然に防げないかと皆さん頑張っておるところでございます」

「はあああああああああああ~ッ!。私、初めて伺いましたが、過去にそのような進路変更を実施されたことがあったんでしょうか、鹿乃子島放臨羅部気象台では」

「いえ基本的にはありません。平成2年8月、台風549882号接近時に一度だけ、鹿乃子島指宿沿岸に水先案内人ボランティア、学生さんですね皆、この方々を集めたことはあったんですよ。非公式で実験的要素が強かったので公表はしませんでしたが」

水先案内人…。それはどのような方々なん…」

水先案内ですから台風を誘導する形になります。その方々に台風を太平洋へ誘導してもらおうとしたわけですね。ところが会場自衛隊とうまく連絡が取れませんで、結局実現はしなかったんですよ」

「会場自衛隊?。……………もう少し詳しくお話いただけますかァ~ッ!! 」

「ええ。会場自衛隊の用意したヘリに水先案内人の学生さん達98名に乗り込んでもらいましてね、太平洋へ台風を誘導する計画だったんですよ当初。誘導の天気図まで用意してたんですが、強風の影響でヘリが離陸出来なかったんですね」

「しかし…万が一事故が起きた場合、それは…」

「……。これは何の電話なんですかね。私は今回の台風情報についての…」

「失礼いたしました。今回の台風1370号の情報についてお話下さい」

「ええ。…雨男雨女さんを足摺に配してですね、正面にあたる桂浜沿岸部、1キロ置きに晴れ男晴れ女さんを男女交互に49名。現在この時間、立っていただいております。これで進路変更は万全であると考えております」

「それは…。今現在晴れ男晴れ女さん達が桂浜沿岸部に既に立っておられるということなんでしょうか」

「えッ。ええ、そうですそうです。皆さんボラですね、これも」

「さきほどの桂浜沿岸の映像を見ますとね金剛岩さん、あ、今画面に映っておりますが…。お分かり…、になるでしょうか。激しい高波で道路は全く見えない状況です…ここにボランティアの方々が本当に現在立っておられるんでしょうか」

「えッ、立っておりますよ。先ほどもトランシーバーで安否確認を行いました」

「トランシーバーで…。大丈夫なんでしょうか、もの凄い高波が道路にまで…」

「アッ、それは全く問題ありませんッ。トランシーバーは2台を除いて全て防水ですから壊れることはまず考えられません」

「………。これまでのお話をまとめますと…。足摺岬最先端に雨男雨女さんが53名、高知県桂浜沿岸部に晴れ男晴れ女さん49名、併せて102名の方が現在深夜2時57分、立っておられるということですね?」

「はいそうです」

「…………。お話、お続け下さい」

「ええと。補佐する形で足摺岬周辺海域にですね、現在3隻の会場自衛隊燃料補給船が巡回中です。各々、親子水入らずのご家族23組に乗り込んで頂きまして万全の体制を敷いているところです」

親子水入らず…の、ご家族の方々。…と申しますと他人などは含まれていないご家族だけの方々が降雨量を下げる目的で乗船なさっているんですね?」

「そういうことになります」

「しかし…もし不測の事態が発生した場合、金剛岩さん達に責任が及ぶということにはなりませんでしょうか」

「ア、それは心配には及びません。実は私事で恐縮ですが、私のカラオケ18番は教会ゴスペルの ♪ ハレルヤ ♪ なんですよ。というわけで本来ならこの時間に、私も足摺先端でマイク片手にハレルヤを歌っていたところなんですが、生憎許可がおりませんで諦めざるを得なかったわけです。

一応、参加の意志は気象庁に書類という形で記録されていますから責任云々は全く大丈夫だと思いますよ」

 

台風1369号は鹿乃子気象台の万全策により日本列島上陸を断念、未明に温帯低血圧へ変わった。

 

 

◆写真タイトル / 花台風