制服は遠きにありて思うもの / 迷子の日本人に目印ちょうだい

 

これは大真面目な話なのだが、日本人は大変な大間違いをやらかしてしまったのではないだろうか。最近ボクは、強く強くそう自問せざるを得ない。

先の記事で、日本人は変身願望が酷く強い傾向にあると書いた。歌手になりきり喝采を浴びるカラオケ、自分で実写化したヒーローやヒロインのコスプレ。

過酷な日常のさ中にあって、それらは傷ついた自尊心を立て直すことの出来る希少な特効薬だったのではないか。ステキな空想夢想代償行為だったのではないのか…。

いや、もっと言うならば、日本人はもともと、変身願望実現に不可欠なグッズであるところのコスチュームや小道具、そんな目印に社会全体が包まれていないと不安で不安で仕方がない民族なのではないかと。そんなわけで、今回は日本人と象徴ユニフォームに関して、大真面目な考察を試みたいと思う。

 

真面目で堅実なお嫁さん候補、そんなお嬢様を見初めたいならOLさんの制服、それが一目瞭然の目印。制服は七難隠す魔法の衣装、シンデレラのガラス靴より日本じゃ絶対OL制服。そんな一時代が比較的永きに渡って、在った。

それじゃ男性のためだけの制服?。NO。真面目で堅実なお嬢様で可愛いお嫁さんを夢見る女性達もまた、独身までの仮の宿としてOL制服に身の落ち着き処を感じていた。書類や判子、コピー機にフロッピー、そんな香りをまとったOL制服。その制服が一心に集めてくれる視線達の持ち主とは?。勿論、お嬢様方ご用達、白いワイシャツ腕まくり姿が頼もしい、ステキな未来の旦那様達であったはず、だ。

かつて “ ツッパリ ” なる言葉が大目立ちで各街角に在ったようだ。今で言えばヤンキーでヤンチャ、チョイ悪以上犯罪者未満なヤング達。ギラつくジェルで固めたリーゼント・ヘアを発展させ、ジェル抜き前髪ど真ん中を、あたかもコンドルの様に、或いは藤棚の垂れ下がり藤花のように、またはケイトウの花かニワトリのトサカかと見まごう様に、先端部をドリルの様な形状にして額に垂らす。ジベタリアンの様なポーズで座りガン決め。学生なら目印となる制服は改造学ラン。ツメエリをかつてのベルリンの壁の様に高く改造、自身のアゴ下に食い込む程に高く!。制服めくって裏を返せば唐獅子ボタンの刺繍入り。そんな兄ちゃん達の出で立ちに熱い視線を注ぐのは、やっぱり同族ツッパリ姉ちゃん。それだけかと思いきや、意外や意外、真面目で清楚な女子校生のアノコまでもが!。ということも珍しくはなかった。だって今でもそういうもの。男はチョイ悪くらいが魅力的って女子らのお言葉。

 

ツッパリでゾク。つまりはツッパリやって改造バイクまたがり特攻服でバリバリの暴走族ってやつ。つるんでマッポ(警察)とジグザグレース、それが土曜の夜のお楽しみ。勿論、目印は白いハチマキ、結びは長アく垂らして背中で袈裟懸け結び。特攻服のツナギ背中にゃ日の丸しょって、グラサン(サングラス)に編み上げブーツかセッタ。世の中の、はみだしモンだぜええーッ!。オオッと、木刀(ボクトウ)忘れちゃ決めポーズも拍子抜け!。

 

女子高生の制服王道はセーラー服。最近まではタータンチェックのミニスカだったが、それもモハヤ、風前の蛍の光、マドンナの勇気(窓の雪)。

デパガ(百貨店ガールの略)の制服は今なお健在!、凄いぞ美しきシーラカンス!スッチー(スチュワーデス)改めキャビンアテンダントの制服も健在ガラパゴスのミラクル、ナース制服もカモノハシ。ああああ、日本エアシステムの制服は今いずこ…。とはいえ警察消防、自衛隊にコックさん、ファミレスに各種工場の制服と、残っているものは全て職業制服。

職業外制服が消えたのだ。職業外ユニフォームが消えたのだ。見た目の一目瞭然マークが、目印ファッションが消えたのだ。視覚表現的な不良イズムが消えたのだ。今でもあるよストリート・ギャング系ファッション?。まあね、一部ね。とにかく消えた。車寅次郎的な目印ファッションが消えた。ルパンもコナンもヒーロー揃って一張羅(いっちょうら)だから、こっちは目印と勘違いしてしまい易いけど、よくよく見れば普通の服装、特に目印ってわけじゃない。

消えた消えた、何故何故消えた。目立つから、目立つと見られるから、見られると恐いから、落ち着かないから、陰口聞こえたら死にたくなるから、ストークされたら取返しつかないから。確かに確かに確かに!。間違いなし大賛成!。

 

今の時代がソレ。ソレって真理。真実。100人に聞けば99人がそう答えるハズだ。言葉で表現出来ないような、つかみどころのない、言い知れぬ、言い様のない、説明の出来ない、底の無い、漠然とした、何となくどことなく気味の悪い感覚、それが今。今という時代。今という空気。

このリアル感の不在。虚無のサランラップで素顔を覆われるようなナマぬる感覚、このフィーリング、この眺め、此の場所。その、あの、あそこの、あっちの、ずっと遠くに見えるあの、場所場所場所、わあああああああ何とかしてくれ、どうにかこうにかしてくれよおおおおおおおーッ!のこの感覚。暗黙の了解で、ある時から国内外を問わず人々は黒い服を着始めた。天空からその一群を見下ろせば、アレ?、これって制服?、大規模組織のユニフォーム?。

だからこそだった。だからこそ、学生達から制服を取り上げてはならなかった。目立った方が良いのだ学生は。私服は確かに世間に溶け込む。目立たない方が安全だ?。それは間違い。小学生は私服でも関係なく狙われる。とにかく、園児も小学生も、学生は全て制服で目立たせた方が良い。万引き、非行、やりにくくさせた方が良い。未成年じゃありませんと言い訳出来ないようにした方が良い。グローバルで自由な時代、制服なんてもう古い、の決断が間違っていたのでは?。

日本人は包装紙評価の文化。お中元やお歳暮、やっぱり包装紙が物を言う。だからこそお受験華やか。一流大や就職先の名前が欲しい。良い悪いは一旦置いといて、とにもかくにもそれが今。昔もそうで今も今。それが現実。だったらその線で統一しなければ不都合アリアリ、モハメドアリ。

有名中学それが目印、一流大学一流企業、それが錦の御旗。一部上場それが証拠で確実手形。世界で稀なランキング付け大好き民族、それがワタクシ達ゆえに。

名詞交換、名詞社会、つまりは肩書社会、要するに目印社会、どこそこ所属ね、あーあー分かりました、その目印好き、その目印見覚え有りで信頼アリアリ。名詞の価値の高さは名詞が通行手形だから。いやいや、それだけではない。初対面の人間に対し、話の糸口を見つけることが苦手な日本人の力強い味方の位置づけが名刺にはある。

日本人は昔ッから話ベタ。井戸端会議華やかなりし頃を一体どう説明するのかって?。相手がとっても顔見知りならピーチクパーチク大丈夫。あまり良く知らない顔見知りが1人参入しただけでお喋りパワー微妙にダウン。更に他人が参入した途端、会話はフェイドアウトで解散、ハイそれまでよ。

かつての目印ファッションは、会話レスの日本人にとっては非常に便利で都合のいい、かくも親切でありがたいインデックスだった。話のとっかかりの有無も判断しやすかった。ツッパリには話しかけない。だと向こうも助かる。お互い不可侵条約履行でノープロブレム!。だったのにねえ…。

茶道、華道、書道、剣道、柔道、合気道、とは心の作法なりと見つけたり。作法はその道の世界の必要不可欠なガイドさん。バス道がもし在るならバスガイドさんはやっぱり制服でいて欲しい。現地集合の際も一目瞭然の目印なり。ならばOL制服は女性のオフィス道、ツッパリ、ゾクはご意見無用道、警察消防医師自衛隊ならお天道様道。公的私的、制服全般ひっくるめれば、これこそまさに日本人の花道、道導(みちしるべ)。

外道もあれば邪道もある。獣道(けもみちの)から人様の道。道草の余裕も道知ればこそ。学道から車道、あぜ道から公道。名も有る道は皆の願い。道には目印、道標(みちしるべ)。話ベタでも迷わない、一人旅でも迷わない。道ゆき、なりゆき、みちしるべ。それが制服、それが日本人たる道しるべ。

それが消えた、それが失せた、それがそれがそれが、そもそもの間違い最初の試練。社会の制服半分以下に。それなら口ベタ返上、コミュニケーション活発に。力を合わせて話し合い。饒舌、活舌、盛り上がれば大繁盛、果ては挨拶かわし明るい笑顔、今では誰しも話好き。そうだよ、これこそグローバル、弁論大会あちこちに、理論武装の面白さ、リベート番組アア大人気ったら高視聴。率。とは。いかな。かっ。たァァァァ……。

先の考えもなく得意の流行りに踊らされ、一体誰がいともたやすく目印を奪うのだ。分かってますって、時代でしょ?。

 

制服?。そんな話は最初から一度もしていない。

 

会社の中、一番頼りになる人が突然消えた。職場の道しるべが。何故、どうして。何で。

 

 

その話しかしていない。

 

 

 

◆写真タイトル / 目印は揚げ玉 (カモノナカ調理、冷やしタヌキ蕎麦)

 

 

 

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