Title : シロー
「あぁら、お帰んなさい野武子(のぶこ)さん。頼んどいたシローの猫缶、買ってきてくれたんかね」
「買ってきましたよオバアチャン。だけど、今回はプレミアム猫缶じゃなくて1ダース、並にしました。オバアチャンからシローにそう言っといてください」
「えええええええ~ッ!。やぁだよそんなこと言えっこないじゃないかね~。どしてプレミアムじゃないのよぉぉ~」
「今は不景気なんですから、シローだけVIP待遇なんて冗談じゃありませんよぉ~。私だって土日のお休み返上して、休日を月火を振替にしてまでパート働いてるんですから~」
ちょうどその頃、薄曇りの空を眺めつつ、パチンコ丸シローはカワラ屋根に居た。しきりに立てた両耳をレーダーのように旋回させていたが、それにも飽きてきた。
昼のTVで「いやぁ~、そろそろ秋の声が聞こえるんじゃないでしょうか」と言っていたのを小耳にはさみ、ふと自分も秋の声とやらが聞いてみたくなり此処まで上って来たのだった。
夕方、自宅に戻って来たシローは二階角部屋の自室に直行、ダンボール箱に敷き詰められた砂金の上で用を足すと居間へと降りてゆく。
TVニュースを見ながらオバアチャンが、
「この…、あおり運転ての?。何でなくなんないのか分かる気がするねぇアタシャ。悪い事すると子供がマネするからやめましょーってサ、よく皆が言うじゃないのー。子供は運転免許とれないからマネできないもんねぇ~、だから安心して堂々とやってんだ、きっと」
「バアチャンただいまー。オレの猫缶は?」
「アー、シロー。アンタのマミーが買って来たよ。駅ビルの地下の、輸入食料品店、アンタ知ってんでしょ。あそこで安売りしてたから」
「安売りだと?キサマ…。どこまでいい子ぶれば気が済むのかと言いたい。…どこに……アア、テーブルの上か。全くクソナマイキな」
シローはピョコリとジャンプ着地し、見慣れない缶詰を手に取った。
「英語だから読めん。マミー、読んでくれんか」
「えー。アタシだって読めないよゥ。貸してごらん、ええなになに…。大きな字んとこしか読めないけど…んー……ノン・プレミアム……ノン・カロリー、え?………ノン・デリシャス………」
「何だ?小さい声でボソボソ呟きやがって、この、どうしようもない、いまいましい通訳野郎がッ、アッ!どこ行く気だ、逃げようってのか!!」
「ちょっと、アタシ、お店戻って買い替えてくるわ」